上陸拒否事由(入管法5条1項)と年限の有無|薬物と期間の定めのない拒否
2026/08/25
本記事の要点
- 上陸拒否事由は入管法5条1項に定められ、年限のあるものと年限のないものが混在しています。
- 入管法5条1項5号(薬物関係)には9号のような年限がなく、期間の定めのない上陸拒否となります。
- 5条1項5号は罰金でも足り、外国の法令に違反した場合でも該当し得ます。
- 期間の定めのない上陸拒否を受けた場合、再入国の道は入管法12条1項の上陸特別許可に限られます。
- 退去強制を受けたか、出国命令により出国したかによって、その後の上陸拒否期間の長さが変わります。
退去強制や出国の後、「何年経てばまた日本に来られるのか」というご質問をよくいただきます。一定の年数が経過すれば自動的に入国できると考えておられる方が多いのですが、上陸拒否事由には、年限が定められているものといないものがあります。
本記事では、入管法5条1項の構造を年限の有無という観点から読み解きます。ご本人の今後の見通しと、ご家族の再会の計画に直結する内容です。
年限のある上陸拒否と、年限のない上陸拒否
入管法5条1項は、日本への上陸を認めない事由を列挙しています。この条文を読むときに重要なのは、各号が同じ構造をしていないという点です。
年限が定められている典型が9号です。退去強制を受けたことなどを理由とする上陸拒否には、経過すべき期間が法律上明示されており、期間が経過すれば上陸拒否事由としては解消されます。出国命令により出国した場合の上陸拒否期間は1年とされ、退去強制の場合よりも短く定められています。
これに対し、5条1項5号には年限の定めがありません。薬物関係の法令に違反して刑に処せられたことを理由とする上陸拒否は、期間の定めのない上陸拒否です。年数の経過によって当然に解消されることはありません。しかも要件は緩やかで、罰金であっても足り、日本の法令に限らず外国の法令に違反した場合でも該当し得ます。海外での処罰歴が、日本への上陸の場面で問題になるということです。
この場合、再び日本に入る道は入管法12条1項の上陸特別許可に限られます。上陸特別許可は申請すれば当然に認められるものではなく、事情を積み上げて求めるものです。家族の状況、日本との結びつき、処罰後の経過などを資料で示すことになります。
想定される刑事手続の流れ
上陸拒否の問題は、日本での刑事手続の結論から始まります。逮捕されると、警察は48時間以内に事件を検察官に送致し、検察官は24時間以内に勾留を請求するか判断します。この72時間が最初の分岐点で、この間に会えるのは弁護人だけです。勾留決定後は原則10日、延長でさらに10日の身柄拘束が続き、その終わりに起訴・不起訴が判断されます。
この段階で薬物関係の有罪判決を避けられるかどうかが、将来の上陸拒否の性質を決めます。72時間から始まる活動が、十年後の家族の往来にまで影響します。
外国人事件特有のリスク
退去強制事由の該当号も、その後の道筋を分けます。
- 24条4号チ:薬物関係の有罪。有罪判決のみで足り、罰金でも、刑の全部の執行を猶予されても、刑を免除されても該当します。柱書で4号リから除かれた別枠です。
- 24条4号リ:ニからチまでに掲げる者のほか、無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者。但書により刑の全部の執行を猶予された者は除外され、一部猶予でも実刑部分が1年以下なら除外されます。
- 24条3号の4:不法就労助長。行為があれば該当し、刑事処罰を要しません。4号ロ:不法残留。4号イ:資格外活動の専従。
- 24条4号の2:一定の重大犯罪の列挙。危険運転致死傷(自動車運転死傷処罰法2条・6条1項)の罪も加えられています。
また、入管法24条の3の出国命令は「4号ハからヨまでのいずれにも該当しないこと」を要件のひとつとするため、4号チ該当者は使えません。日本に残る方針を採る場合、入管法50条2項は収容令書により収容されている者と監理措置決定を受けた者に申請権を認め、3項により退去強制令書の発付後は申請ができません。在留期間の更新(同21条)や在留資格の取消し(同22条の4)も関係します。さらに、退去強制事由の該当性判断に故意・過失を要しないという実務が長く続いてきました。当事務所は、この実務に対し責任主義の射程を問う訴訟を提起し、上訴審まで争ってきました。
不起訴処分の重要性
年限のない上陸拒否は、有罪判決を前提とします。不起訴処分を得られれば、この重い効果は生じません。量刑を争って罰金にとどめても、5条1項5号の場面では意味が薄くなります。罰金でも足りるからです。したがって、薬物関係では起訴・不起訴の分岐こそが将来を決めます。
起訴前の活動としては、事実そのものを争う余地の検討、鑑定手続の適正の確認、検察官との面談による処分意見の提示が中心です。あわせて、家族関係や生活状況を示す資料を整えます。
初動対応の3つのポイント
第一に、黙秘権の行使です。黙秘を理由に不利益な取扱いを受けることはありません。海外での経歴や処罰歴に関する供述は、後の上陸拒否の判断にも関わります。
第二に、早期の弁護人選任です。国選弁護人は勾留決定後に付き、72時間に動けるのは私選弁護人だけです。
第三に、通訳の質です。捜査機関が指定する通訳人は捜査手続を進めるために呼ばれ、依頼者の利益のために補足したり誤解を指摘したりする立場にありません。依頼者本人のために動く通訳は、弁護人と一体となって本人の意図を伝えます。
当事務所のご案内と解決事例
- 覚醒剤取締法違反(営利目的所持)で起訴された依頼者について、徹底的な証拠分析と被告人質問・反対尋問により無罪判決を獲得しました。有罪判決を避けることが、その後の上陸拒否の性質まで左右する類型です。
- 観光目的で来日後に在留資格を失い不法滞在で起訴された事案。婚姻と認知を成立させ、有利な証拠を積み上げて1回の申請で在留特別許可を獲得しました。
- 海外のSNSでの侮辱被害について、インターポール経由で刑事告訴が受理された事例があります。国境をまたぐ手続では、各国の制度と記録の扱いを踏まえた対応が必要になります。
当事務所では、松村大介弁護士が初動接見から公判の結審まで全工程を直接担当し、事務員や若手弁護士による代行は行いません。外国人事件に精通した中国語専属通訳が常駐し接見にも同行します。刑事手続後の在留資格は提携行政書士のサポートでワンストップ対応が可能です。
結語
上陸拒否事由は一律ではありません。年限のあるものは時間の経過で解消されますが、薬物関係のように期間の定めのないものもあります。将来また日本で家族と暮らせるかどうかは、いま進んでいる刑事手続の結論に大きく依存します。早い段階でご相談ください。
本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。
過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
執筆者
弁護士 松村大介/第一東京弁護士会・登録番号59077・2019年登録/舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田)。注力分野は外国人刑事弁護、入管(退去強制・在留特別許可)、行政訴訟です。最終更新:2026年8月。
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