「収容されたら必ず送還される」という誤解|収容の各段階で何ができるか
2026/08/25
本記事の要点
- 収容は退去強制の結論ではなく手続の途中であり、収容された時点で送還が確定するわけではありません。
- 入管法50条2項は、収容令書により収容されている者と監理措置決定を受けた者に在留特別許可の申請権を認めています。
- 同条3項により、退去強制令書の発付後は在留特別許可の申請ができません。時期を逃すと選択肢が消えます。
- 同条10項により、許可しない場合には理由を付した書面が交付されます。
- 収容に至る前の刑事手続で不起訴を得ることが、結果的に最も効果的な収容回避策になります。
ご家族が入管施設に収容されたと聞いたとき、多くの方が「もう送り返されてしまうのか」と受け止めます。収容という言葉の重さからすれば自然な反応です。しかし法律の構造から見ると、収容は手続の途中に置かれた措置であって、結論そのものではありません。
本記事は、収容されたご本人のご家族、特に中国本土から状況を把握しようとされているご親族に向けたものです。段階ごとに何ができ、どの時点で何ができなくなるのかを整理します。
どこまでが正しく、どこから誤りか
正しいのは、収容が退去強制手続の一部である以上、送還に向かう流れの中にあるという認識です。収容が長期化すれば健康状態も家族の生活も損なわれます。時間が味方をする局面ではありません。
誤りは、収容と送還を一続きの必然と考える点です。退去強制手続は違反調査、違反審査、口頭審理、異議の申出という段階を踏み、最終段階で在留を特別に許可するかどうかが判断されます。収容中は、この判断がまだ行われていない段階です。入管法50条2項は、収容令書により収容されている者と監理措置の決定を受けた者に在留特別許可の申請権を認めています。決定的なのが同条3項で、退去強制令書の発付後は申請ができません。令書の前と後では採り得る手段の幅が違います。なお同条5項は考慮要素を法定化し、同条10項により不許可の場合には理由を付した書面が交付されます。
想定される刑事手続の流れ
刑事事件を契機に収容へ至る事案では、前段階の刑事手続がすでに勝負の場です。逮捕されると、警察は48時間以内に事件を検察官に送致し、検察官は24時間以内に勾留を請求するか判断します。この72時間が最初の分岐点で、この間に会えるのは弁護人だけです。勾留決定後は原則10日、延長でさらに10日の身柄拘束が続き、その終わりに起訴・不起訴が判断されます。
注意すべきは、刑事手続の身柄拘束が解けた瞬間に入管へ身柄が移されることがある点です。釈放と聞いて安心したところ、そのまま収容施設へ移送される。刑事弁護の段階から身元引受人や住居の確保を並行して準備する必要があります。
外国人事件特有のリスク
収容の根拠となる退去強制事由は入管法24条に号ごとに定められ、該当号によって選択肢が変わります。
- 24条4号リ:ニからチまでに掲げる者のほか、無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者。但書により刑の全部の執行を猶予された者は除外され、一部猶予でも実刑部分が1年以下なら除外されます。
- 24条4号チ:薬物関係の有罪。有罪判決のみで足り、罰金でも、刑の全部の執行を猶予されても、刑を免除されても該当します。在留資格の別表を問わず、柱書で4号リから除かれた別枠です。
- 24条4号の2:一定の重大犯罪の列挙。危険運転致死傷(自動車運転死傷処罰法2条・6条1項)や盗難特定金属製物品処分防止法22条の罪も加えられています。
- 24条3号の4:不法就労助長。行為があれば該当し、刑事処罰を要しません。4号ロ:不法残留。4号イ:資格外活動の専従。4号ヘ:資格外活動の罪により拘禁刑に処せられた者。4号ハ:人身取引等。
該当号の違いは出国命令の可否にも表れます。入管法24条の3の出国命令は「4号ハからヨまでのいずれにも該当しないこと」を要件のひとつとするため、薬物関係で4号チに該当する方は出国命令を使えません。在留期間の更新(同21条)や在留資格の取消し(同22条の4)も並行して問題になります。さらに、退去強制事由の該当性判断に故意・過失を要しないという実務が長く維持されてきました。当事務所は、この実務に対し責任主義の射程を問う訴訟を提起し、上訴審まで争ってきました。
不起訴処分の重要性
収容を避けるという観点では、そもそも退去強制事由に該当しない状態を保つことが最も効果的です。24条4号リも4号チも有罪判決の存在を前提としますから、不起訴処分を得ればこれらの号は問題になりません。逆に、執行猶予判決を得ても薬物事犯であれば4号チに該当し、収容と退去強制の対象になります。
起訴前の活動は、検察官との面談による事案の説明、被害者がいる事件での示談交渉、家族関係や生活状況を裏づける資料を添えた意見書の提出が中心です。同時に、婚姻関係や監護状況を示す書類、国籍国での生活基盤の不存在を示す資料など、入管手続で使う資料を並行して準備します。
初動対応の3つのポイント
第一に、黙秘権の行使です。黙秘を理由に不利益な取扱いを受けることはありません。刑事手続での供述は入管手続の事実認定でも参照され得ます。
第二に、早期の弁護人選任です。国選弁護人は勾留決定後に付き、72時間に動けるのは私選弁護人だけです。釈放後の収容まで見通して準備できるのも、この段階から関与した弁護人です。
第三に、通訳の質です。捜査機関が指定する通訳人は捜査手続を進めるために呼ばれ、依頼者の利益のために補足したり誤解を指摘したりする立場にありません。依頼者本人のために動く通訳は、弁護人と一体となって本人の意図を伝えます。
当事務所のご案内と解決事例
- 冤罪により不法就労助長罪に問われ強制退去の危機にあった女性の事案。従来の実務に対し責任主義の射程を問う訴訟を提起し上訴審まで争いました。その後、入管から在留特別許可が認められています。
- 観光目的で来日後に在留資格を失い不法滞在で起訴された事案。日本人女性との間の子について婚姻と認知を成立させ、国籍国の公的書類がほとんど無い状況下で有利な証拠を積み上げ、1回の申請で在留特別許可を獲得しました。
当事務所では、松村大介弁護士が初動接見から公判の結審まで全工程を直接担当し、事務員や若手弁護士による代行は行いません。外国人事件に精通した中国語専属通訳が常駐し接見にも同行します。刑事手続後の在留資格は提携行政書士のサポートによりワンストップで対応できます。
結語
収容は結論ではなく段階です。しかし段階であるからこそ、次に移る前に手を打たなければ意味がありません。ご家族が収容されたと知った時点で、まず現在どの段階にあるのかを確認し、その段階で使える手段を洗い出してください。
本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。
過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
執筆者
弁護士 松村大介/第一東京弁護士会・登録番号59077・2019年登録/舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田)。注力分野は外国人刑事弁護、入管(退去強制・在留特別許可)、行政訴訟です。最終更新:2026年8月。
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