「永住者は退去強制されない」という誤解|永住資格と入管法24条の適用
2026/08/25
本記事の要点
- 永住者の在留資格を持っていても、入管法24条の退去強制事由に該当すれば手続の対象になります。
- 特別永住者は別の法律により退去強制事由が限定されており、一般の永住者とは扱いが異なります。
- 入管法24条4号リには但書があり、刑の全部の執行を猶予された者は除外されます。
- 薬物関係は入管法24条4号チにより有罪判決のみで該当し、罰金でも刑の全部の執行を猶予された場合でも該当します。
- 更新申請が不要な分、刑事事件の発生時に入管法上の問題が一気に表面化します。
永住者の在留資格を取得された方から「永住だからもう在留の心配はない」と伺うことがあります。日々の手続の負担という意味では、その感覚は正しいものです。しかし刑事事件が起きた瞬間、この安心感は前提から揺らぎます。
本記事は、永住者として日本で長く生活してこられた方とそのご家族に向けたものです。長年の在留がどこで評価され、どこでは評価されないのかを整理します。
どこまでが正しく、どこから誤りか
正しいのは、永住者が在留の安定性という点で有利な地位にあることです。在留期間の更新申請(入管法21条)を繰り返す必要がなく、活動内容による制限も受けません。長期の在留実績、日本社会との結びつき、家族関係は、最終的な裁量判断で大きな重みを持ちます。入管法50条5項が考慮要素を法定化し、在留を希望する理由、家族関係、素行、本邦における生活の状況が正面から評価されます。
誤りは、永住者が退去強制事由の適用対象外だと考える点です。入管法24条は在留資格の種類を問わない構造であり、永住者でも各号に該当すれば手続が開始されます。違反調査、違反審査、口頭審理、異議の申出という流れは同じで、長年の在留は流れを止めるのではなく、最後の裁量判断で有利に働く事情として扱われます。
混同されやすいのが特別永住者との違いです。特別永住者は別の法律により退去強制事由が限定されており、制度上の扱いが異なります。どちらに当たるかを確認せずに議論すると、見通しを根本から誤ります。
想定される刑事手続の流れ
逮捕されると、警察は48時間以内に事件を検察官に送致し、検察官は24時間以内に勾留を請求するか判断します。この72時間が最初の分岐点で、この間に会えるのは弁護人だけです。勾留が決定されると原則10日、延長でさらに10日の身柄拘束が続き、その終わりに起訴・不起訴が判断されます。
永住者の事件では、生活の基盤が日本にしかありません。定まった住居、安定した就労、身元を引き受ける家族の存在は、逃亡や罪証隠滅のおそれを否定する事実になります。72時間のうちに資料の形で示せるかが、身柄の帰趨を分けます。
外国人事件特有のリスク
退去強制事由は入管法24条に号ごとに定められ、永住者でも適用は変わりません。
- 24条4号リ:ニからチまでに掲げる者のほか、無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者。但書により刑の全部の執行を猶予された者は除外され、一部猶予でも実刑部分が1年以下なら除外されます。
- 24条4号チ:薬物関係の有罪。有罪判決のみで足り、罰金でも、刑の全部の執行を猶予されても、刑を免除されても該当します。在留資格の別表を問わず、柱書で4号リから除かれた別枠です。
- 24条4号の2:一定の重大犯罪の列挙。危険運転致死傷(自動車運転死傷処罰法2条・6条1項)や盗難特定金属製物品処分防止法22条の罪も加えられています。
- 24条3号の4:不法就労助長。行為があれば該当し、刑事処罰を要しません。事業を営む永住者が在留資格のない者を雇用した場合に問題となります。4号ロ:不法残留。4号イ:資格外活動の専従。4号ヘ:資格外活動の罪により拘禁刑に処せられた者。
在留資格の取消し(入管法22条の4)は永住者にも適用があります。入管法50条1項但書は、無期又は1年を超える拘禁刑の実刑に処せられた者等について加重要件を定めており、4号チは同但書に列挙されていません。さらに、退去強制事由の該当性判断に故意・過失を要しないという実務が長く維持されてきました。当事務所は、この実務に対し責任主義の射程を問う訴訟を提起し、上訴審まで争ってきました。
不起訴処分の重要性
永住者の事件では不起訴処分の価値がとりわけ大きくなります。4号リも4号チも有罪判決の存在を前提とするため、不起訴であればその前提が成立しません。他方、執行猶予判決を得ても薬物事犯であれば4号チに該当し、長年の在留実績があっても該当性は消えません。
起訴前に行うことは具体的です。検察官との面談による処分意見の提示、被害者がいる事件での速やかな示談交渉、長年の納税実績や就労状況、家族の監護状況を示す資料を添えた意見書の提出。永住者はこうした資料が豊富なことが多く、整理して提出できるかが分かれ目です。
初動対応の3つのポイント
第一に、黙秘権の行使です。黙秘を理由に不利益な取扱いを受けることはありません。日本語が堪能な永住者ほど、通訳を付けずに応じ、法律用語の意味を取り違えたまま供述を重ねがちです。
第二に、早期の弁護人選任です。国選弁護人は勾留決定後に付き、72時間に動けるのは私選弁護人だけです。
第三に、通訳の質です。捜査機関が指定する通訳人は捜査手続を進めるために呼ばれ、依頼者の利益のために補足したり誤解を指摘したりする立場にありません。依頼者本人のために動く通訳は、弁護人と一体となって本人の意図を伝えます。
当事務所のご案内と解決事例
- 覚醒剤取締法違反(営利目的所持)で起訴された依頼者について、徹底的な証拠分析と被告人質問・反対尋問により無罪判決を獲得しました。薬物事犯は有罪判決のみで退去強制事由に該当するため、事実そのものを争い切る意味が大きい類型です。
- 冤罪により不法就労助長罪に問われ強制退去の危機にあった女性の事案。従来の実務に対し責任主義の射程を問う訴訟を提起し上訴審まで争いました。その後、入管から在留特別許可が認められています。
- 特殊詐欺の受け子として複数回再逮捕された事案。取調べ対応と主張立証を重ね、全件不起訴処分を得ました。
当事務所では、松村大介弁護士が初動接見から公判の結審まで全工程を直接担当し、事務員や若手弁護士による代行は行いません。外国人事件に精通した中国語専属通訳が常駐し接見にも同行します。刑事手続後の在留資格は提携行政書士のサポートによりワンストップで対応できます。
結語
永住者の地位は日々の生活の自由度という意味では強力ですが、刑事事件が起きた瞬間に退去強制事由の前で相対化されます。まず有罪判決という前提を作らせないこと、次に裁量判断の場面で厚みのある資料を示すこと。この二段構えを意識してください。
本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。
過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
執筆者
弁護士 松村大介/第一東京弁護士会・登録番号59077・2019年登録/舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田)。注力分野は外国人刑事弁護、入管(退去強制・在留特別許可)、行政訴訟です。最終更新:2026年8月。
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