「結婚すれば在留できる」という誤解|婚姻と在留資格の関係を切り分ける
2026/08/25
本記事の要点
- 婚姻は在留を保障するものではなく、退去強制事由に該当すれば婚姻していても手続は進みます。
- 婚姻の事実は在留特別許可の判断で重く評価され、入管法50条5項は考慮要素を法定化しています。
- 薬物関係は入管法24条4号チにより有罪判決のみで該当し、罰金でも刑の全部の執行を猶予された場合でも該当します。
- 入管法24条4号リには但書があり、刑の全部の執行を猶予された者は除外されます。
- 起訴前に不起訴処分を得られるかどうかが、その後の在留判断を大きく左右します。
配偶者が逮捕されたとご連絡をいただくとき、最初に伺う言葉のひとつが「日本人と結婚しているので最後は大丈夫ですよね」というものです。婚姻が在留の判断で軽い意味しか持たないということはありません。しかし、婚姻があれば刑事事件の影響が消えるわけでもありません。
本記事では、婚姻と在留の関係について、よくある理解のどこまでが正しく、どこから誤りなのかを切り分けます。想定読者は、配偶者が身柄拘束されているご家族です。
どこまでが正しく、どこから誤りか
正しいのは、婚姻の事実が在留の判断で重い意味を持つ点です。退去強制手続の最終段階では、在留を特別に許可するかどうかが判断されます。入管法50条5項は考慮すべき要素を法律上明記しており、在留を希望する理由、家族関係、素行、本邦における生活の状況が正面から評価されます。生活の実体があり扶養や監護の必要があれば、有利な事情として構成できます。
誤りは二点です。第一に、婚姻は在留資格を自動的に発生させません。婚姻届の受理と「日本人の配偶者等」の許可は別の手続です。第二に、婚姻していても退去強制事由に該当すれば、違反調査、違反審査、口頭審理、異議の申出という流れは進みます。婚姻は手続を止めるスイッチではなく、最終段階で評価される事情のひとつです。加えて婚姻の実体が審査され、実体を欠けば在留資格の取消し(入管法22条の4)の対象になり得ます。
想定される刑事手続の流れ
逮捕されると、警察は48時間以内に事件を検察官に送致し、検察官は24時間以内に勾留を請求するか判断します。この合計72時間が最初の分岐点で、この間に会えるのは弁護人だけです。勾留が決定されると原則10日、延長でさらに10日の身柄拘束が続き、その終わりに起訴・不起訴が判断されます。
72時間が重要なのは、この時期の弁解録取書や初期の供述調書が手続全体の土台になるからです。言語の壁がある場面では、十分に理解しないまま署名した書面が後に「本人がそう述べた」ものとして扱われます。配偶者としては、この時点で弁護人を選任し、住居・収入・身元引受の意思を示す資料を整えることが、勾留回避や早期の身柄解放につながります。
外国人事件特有のリスク
退去強制事由は入管法24条に号ごとに定められ、どの号に当たるかで結論が変わります。
- 24条4号リ:ニからチまでに掲げる者のほか、無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者。但書により刑の全部の執行を猶予された者は除外され、一部猶予でも実刑部分が1年以下なら除外されます。
- 24条4号チ:薬物関係の有罪。有罪判決のみで足り、罰金でも、刑の全部の執行を猶予されても、刑を免除されても該当します。在留資格の別表を問わず、柱書で4号リから除かれた別枠です。
- 24条4号の2:一定の重大犯罪の列挙。危険運転致死傷(自動車運転死傷処罰法2条・6条1項)や盗難特定金属製物品処分防止法22条の罪も加えられています。
- 24条3号の4:不法就労助長。行為があれば該当し、刑事処罰を要しません。24条4号ロ:不法残留。4号イ:資格外活動の専従。4号ヘ:資格外活動の罪により拘禁刑に処せられた者。4号ハ:人身取引等。
婚姻しているご相談者が最も見落とすのが4号チです。量刑が軽くても退去強制事由には該当します。在留期間の更新(同21条)も権利ではなく、素行や在留状況が審査されます。さらに、退去強制事由の該当性判断に故意・過失を要しないという実務が長く続いてきました。当事務所は、この実務に対し責任主義の射程を問う訴訟を提起し、上訴審まで争ってきました。
不起訴処分の重要性
4号リも4号チも有罪判決の存在を前提とします。不起訴処分を得れば、その前提自体が成立しません。逆に、執行猶予判決を得ても薬物事犯であれば4号チに該当します。「執行猶予なら在留は安全」という理解が誤りなのは、この構造によります。
したがって起訴前の活動が決定的です。検察官との面談を重ねて事案の見方を示すこと、被害者がいる事件では速やかに示談交渉に着手すること、家族関係や監護の必要性を示す資料を添えた意見書を提出すること。配偶者の陳述書や同居の実態を示す資料は、起訴猶予の判断材料であると同時に、その後の入管手続でもそのまま使えます。
初動対応の3つのポイント
第一に、黙秘権の行使です。黙秘は不利益な取扱いの根拠になりません。婚姻や生活の経緯という無害に見える話題が、後に婚姻の実体を否定する材料になることもあります。
第二に、早期の弁護人選任です。国選弁護人が付くのは勾留決定後で、72時間に動けるのは私選弁護人だけです。
第三に、通訳の質です。捜査機関が指定する通訳人は捜査手続を進めるために呼ばれ、中立に訳す職責はあっても、依頼者の利益のために補足したり誤解を指摘したりする立場にはありません。依頼者本人のために動く通訳は、弁護人と一体となって本人の意図を正確に伝えます。
当事務所のご案内と解決事例
- 観光目的で来日後に在留資格を失い不法滞在で起訴された事案。日本人女性との間の子について婚姻と認知を成立させ、国籍国の公的書類がほとんど無い状況下で有利な証拠を積み上げ、1回の申請で在留特別許可を獲得しました。
- 冤罪により不法就労助長罪に問われ強制退去の危機にあった女性の事案。従来の実務に対し責任主義の射程を問う訴訟を提起し上訴審まで争いました。その後、入管から在留特別許可が認められています。
- 特殊詐欺の出し子に関わったとされた20代女性の事案。指示役からの欺罔や脅迫的状況、犯意の不存在を主張し、不起訴処分を獲得しました。
当事務所では、松村大介弁護士が初動接見から公判の結審まで全工程を直接担当し、事務員や若手弁護士による代行は行いません。外国人事件に精通した中国語専属通訳が常駐し接見にも同行します。刑事手続後の在留資格は提携行政書士のサポートによりワンストップで対応できます。
結語
婚姻は在留を守るうえで大きな意味を持ちますが、自動的に働く保護ではなく、資料と主張によって初めて評価される事実です。配偶者が身柄拘束されたと知った時点で、まず弁護人にご相談ください。
本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。
過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
執筆者
弁護士 松村大介/第一東京弁護士会・登録番号59077・2019年登録/舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田)。注力分野は外国人刑事弁護、入管(退去強制・在留特別許可)、行政訴訟です。最終更新:2026年8月。
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