帰国すれば事件は終わるという理解|公訴時効の停止と、再入国時に起きること
2026/08/25
本記事の要点
- 犯人が国外にいる間、公訴時効は進行しない。時間の経過によって事件が消えることはない。
- 逮捕状は残り続け、再入国の際に空港で身柄を拘束される可能性がある。
- 日本と中国のあいだに犯罪人引渡条約がないことは、事件が終了することを意味しない。
- 捜査中の出国は逃亡と評価されやすく、保釈中であれば保釈の取消しや保証金の没取につながる。
- 自ら出国する場合と退去強制される場合とでは、その後の上陸拒否の扱いが大きく異なる。
よくある理解と、その正確な射程
捜査を受けている最中に、あるいは処分を待っている段階で、「一度帰国してしまえば日本の手続からは離れられる」と考える方がいらっしゃいます。物理的な距離という点では、確かに日本の捜査機関の手は届きにくくなります。その意味で、この理解には現実的な側面があります。
しかし、離れられるのは物理的な距離だけです。本記事では、出国後に日本側で何が残り、何が動き続けるのかを整理し、そのうえで、日本を離れる前に検討すべきことを示します。
出国しても残るもの
第一に、公訴時効です。犯人が国外にいる期間、公訴時効は進行しません。何年待っても、その分だけ時効が近づくということにはなりません。時間が解決するという前提が、そもそも成り立たない仕組みになっています。
第二に、逮捕状です。すでに発付されていれば、それは有効なまま残ります。事案によっては国際的な手配がなされることもあります。数年後に観光や出張で再び日本に入ろうとしたとき、空港で身柄を拘束される可能性が現実に存在します。
第三に、日中間の関係です。両国のあいだに犯罪人引渡条約は存在しませんが、それは引渡しが行われにくいという意味であって、日本側の事件が消滅するという意味ではありません。捜査は継続し、記録も残ります。
第四に、身柄に関する処分です。保釈中に許可なく出国すれば、保釈の取消しと保証金の没取につながります。旅券の提出を条件とされている場合もあります。逃亡と評価されれば、その後の身柄拘束の判断も厳しくなります。
想定される刑事手続の流れと、最初の72時間
逮捕されると、警察は48時間以内に検察官へ送致し、検察官は24時間以内に勾留を請求するか釈放するかを決めます。この72時間で弁護人が入れるかどうかが、その後の分かれ目になります。勾留されれば10日間、延長で最大20日間です。
再入国時に空港で逮捕された場合も、この流れは同じです。ただし、日本国内に住居も勤務先もない状態では、逃亡のおそれが強く評価されやすく、身柄が解放される見通しは厳しくなります。時間を置いたことが、かえって不利に働く構造があります。
外国人事件に特有のリスク|出国の仕方で扱いが変わる
日本を離れる方法には、自ら出国する場合と、退去強制される場合とがあります。両者では、その後の上陸拒否の扱いが異なります。退去強制を受けた場合には一定の年限にわたり上陸を拒否され、過去に退去強制歴があればその年限は長くなります。
これに対して、不法残留の状態にある方が自ら入管に出頭し、出国命令の適用を受ける道があります。出国命令には要件があり、そのひとつが24条4号ハからヨまでのいずれにも該当しないことです。薬物に関する事由に該当する方は利用できません。
薬物については上陸拒否の場面でも扱いが異なります。薬物に関する上陸拒否事由には年限の定めがなく、期間の定めのない上陸拒否となります。外国の法令に違反した場合や罰金であった場合も含まれ、再び日本に入る道は上陸特別許可に限られます。
入管法24条4号リは無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者を対象とし、但書により刑の全部の執行を猶予された者は除かれます。24条4号チは薬物に関する有罪判決を対象とし、執行猶予でも該当します。なお、退去強制事由の判断に故意・過失を要しないとする運用に対し、当事務所は責任主義の射程を問う訴訟を提起し、上訴審まで争ってきました。
不起訴処分の重要性
執行猶予付きの判決でも退去強制に至りうる類型がある以上、起訴前に不起訴を取ることが決定的です。そして不起訴という結論を得れば、逮捕状も公訴の可能性も残りません。再入国のたびに空港で不安を抱える必要がなくなります。
起訴前の活動は、検察官面談による処分方針の確認、被害者がある事件での示談交渉と宥恕文言の獲得、生活基盤に関する意見書の提出、身元引受人の確保です。日本に滞在したまま決着させることが、結果として日本との関係を将来にわたって保つ道になります。
初動対応の3つのポイント
第一に、黙秘権の行使です。出国を検討している段階で捜査機関に接触すると、その意向自体が逃亡のおそれの評価に用いられることがあります。何をどこまで述べるかを、事前に整理しておく必要があります。
第二に、早期の弁護人選任です。出国が可能かどうか、旅券や在留カードに制約が付いていないか、事件の進行状況はどうかを確認できるのは弁護人です。国選弁護人は勾留された後に付されるため、この段階では私選弁護人に依頼することになります。
第三に、通訳の質です。出国命令、退去強制、上陸拒否、上陸特別許可といった言葉は、いずれも結果がまったく異なる制度です。捜査機関が手配する通訳人は捜査のために置かれた存在です。依頼者本人のために動く通訳の同席が、制度の取り違えを防ぎます。
当事務所のご案内と解決事例
海外のSNSにおける侮辱被害につき、インターポールを経由して刑事告訴が受理された事例を扱った実績があります。国境をまたいでも手続が動くという事実は、加害者側の立場に置かれた場合にも同じように当てはまります。
また、過去の逮捕報道・前科報道の削除に成功した事案もあります。日本を離れても検索結果は残り、再入国や査証の場面で問題となることがあります。時間の経過だけでは解決しない領域です。
当事務所は、裁判員裁判対象事件や世界的に報道された重大事件を含む国際刑事事件への対応実績を有し、中国籍の方の重大事件にも多数対応してきました。
当事務所では、弁護士松村大介が初動の接見から公判の結審まで全工程を直接担当し、事務員や若手弁護士による代行はありません。外国人事件に精通した中国語の専属通訳が常駐し、接見にも打合せにも同席します。提携行政書士による在留資格サポートで、刑事手続後もワンストップで対応できます。
結語
帰国は、その場の苦しさからは離れられる選択です。しかし日本側の手続は止まらず、時効も進みません。再び日本に来る可能性があるなら、離れる前に、いま何が動いているのかを確認してください。決着させてから出国するのとしないのとでは、差は年を追うごとに大きくなります。
本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。
過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
執筆者
弁護士 松村大介(第一東京弁護士会・登録番号59077・2019年登録)。舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田)。注力分野は外国人刑事弁護、入管手続(退去強制・在留特別許可)、行政訴訟。最終更新:2026年8月。
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