国選も私選も同じという理解|選任できる時期と体制の違いを制度から読む
2026/08/25
本記事の要点
- 弁護人としての権限や誠実に職務を行う義務に、国選と私選で法律上の差はない。
- 差が生じるのは、選任できる時期、選任の主体、そして事件の外側に広がる作業をどこまで担えるかである。
- 被疑者の国選弁護人が付くのは勾留された後であり、逮捕直後の72時間は当番弁護士か私選弁護人による。
- 外国人事件では、通訳の確保、本国のご家族との連絡、入管手続との接続という作業が別に発生する。
- 国選弁護人が付いた後に私選弁護人へ切り替えることもできる。
よくある理解と、その正確な射程
ご家族が逮捕され、「弁護士は付くと聞いたので待っています」というご相談を受けることがあります。制度としての弁護人はいずれ付きますし、国選弁護人として熱心に活動される弁護士は数多くいらっしゃいます。職務上の権限に差はありません。この理解には確かな根拠があります。
ただし、差が生じない領域と、制度の設計上どうしても差が生じる領域とがあります。本記事はその線引きを扱います。読者としては、日本国内のご家族と、中国本土からご覧になっているご家族を想定しています。
差が生じない領域と、生じる領域
まず差が生じない領域です。接見の権利、記録の閲覧、証拠の請求、意見書の提出、法廷での弁論。これらは選任の経路によって変わりません。弁護人は依頼者の利益のために職務を行う義務を負い、その点も同じです。
差が生じる第一の領域は、選任できる時期です。被疑者の国選弁護人は、勾留された後に付されます。逮捕から勾留決定までの72時間は、制度の空白になりやすい時間帯です。ここを埋める方法は、当番弁護士を呼ぶか、私選弁護人を選任するかのいずれかです。
第二の領域は、選任の主体です。国選の場合、本人の請求に基づき裁判所が選任するため、誰が付くかを選ぶことはできません。私選の場合は、ご家族が事務所を選び、事件の性質に応じて依頼できます。中国語での意思疎通が可能かどうかを事前に確認できるのも、この経路です。
第三の領域は、事件記録には現れない作業です。中国語通訳の手配と同行、中国本土のご家族への継続的な報告、勤務先や学校との調整、在留資格への影響の見通し。これらは刑事事件の記録には残りませんが、外国人事件では結論に強く影響します。
想定される刑事手続の流れと、最初の72時間
逮捕されると、警察は48時間以内に検察官へ送致し、検察官は24時間以内に勾留を請求するか釈放するかを決めます。この72時間、ご家族は面会できません。取調べが最も集中するのもこの時間帯です。
勾留が決まれば10日間、延長で最大20日間となります。この期間内に示談交渉を始め、検察官面談を行い、意見書を提出する必要があります。着手が遅れれば、内容が整っても起訴に間に合いません。時期の差が、そのまま選択肢の差になります。
外国人事件に特有のリスク
刑事手続の結論は、そのまま在留の可否につながります。入管法24条4号リは、無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者を対象とし、但書により刑の全部の執行を猶予された者は除かれます。一部猶予でも実刑部分が1年以下なら除かれます。
薬物事犯を対象とする24条4号チは、罰金でも、執行猶予でも、刑が免除されても該当します。24条4号の2は一定の重大犯罪を列挙し、危険運転致死傷などが含まれます。24条3号の4の不法就労助長は、行為があれば足り刑事処罰を要しません。
身柄拘束が続けば、在留期間の更新申請の期限が到来し、不法残留(24条4号ロ)に陥る危険もあります。在留期間の更新(入管法21条)は相当の理由があるときに許可される仕組みで、在留資格の取消し(入管法22条の4)も別の類型を定めています。刑事手続と並行して、これらの見通しを立てる作業が必要です。
なお、退去強制事由の判断に故意・過失を要しないとする運用が長く続いてきました。当事務所は、この運用に対し責任主義の射程を問う訴訟を提起し、上訴審まで争ってきました。
不起訴処分の重要性
執行猶予付きの判決でも退去強制に至りうる類型がある以上、起訴前に不起訴を取ることが在留を守る最も確実な道です。そして起訴前の活動は、勾留期間という限られた時間の中で行われます。
検察官面談による処分方針の確認、示談交渉と宥恕文言の獲得、生活基盤や家族関係に関する意見書の提出、身元引受人の確保。これらを短期間で並行して進められる体制があるかどうかが、実際の作業量の差になって表れます。
初動対応の3つのポイント
第一に、黙秘権の行使です。弁護人が就く前の取調べで作られた調書は、その後の手続で繰り返し参照されます。方針が決まるまでは、話す範囲を留保することが安全です。
第二に、早期の弁護人選任です。逮捕の連絡を受けたら、まず当番弁護士の派遣を求めることができます。そのうえで、事件の性質に応じて私選弁護人を検討することになります。国選弁護人が付いた後の切替えも可能です。費用は事案により見積りとなります。
第三に、通訳の質です。捜査機関が手配する通訳人は捜査のために置かれた存在であり、依頼者のために動く立場ではありません。弁護人との打合せに同席する通訳を、弁護人の側で確保できるかどうかが実務上の分かれ目になります。
当事務所のご案内と解決事例
観光目的で来日した後に日本人女性との間に子を授かったものの在留資格を失い、不法滞在で起訴された事案では、婚姻と認知を成立させ、国籍国の公的書類がほとんど得られない状況下で有利な証拠を収集し、一度の申請で在留特別許可を獲得しました。刑事と在留を並行して設計した事案です。
覚醒剤取締法違反(営利目的所持)で起訴された依頼者につき、徹底的な証拠分析と被告人質問・反対尋問により無罪判決を獲得した実績もあります。争える事案かどうかを早期に見極める作業が結論を分けました。
また、取り込み詐欺の被害に遭った卸業の依頼者につき、刑事告訴を端緒として相手方を特定し、7,500万円の解決金を獲得した事案もあります。刑事と民事をまたぐ設計は、被疑者側の弁護でも同じ発想が求められます。
当事務所では、弁護士松村大介が初動の接見から公判の結審まで全工程を直接担当し、事務員や若手弁護士による代行はありません。外国人事件に精通した中国語の専属通訳が常駐し、接見にも打合せにも同席します。提携行政書士による在留資格サポートで、刑事手続後もワンストップで対応できます。
結語
弁護人の権限に差はありません。差が出るのは、いつ動き始められるか、そして事件の外側に広がる作業をどこまで引き受けられるかです。特に最初の72時間は、制度上どの弁護人にも与えられていない時間帯です。ここをどう埋めるかを、ご家族が決めることになります。
本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。
過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
執筆者
弁護士 松村大介(第一東京弁護士会・登録番号59077・2019年登録)。舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田)。注力分野は外国人刑事弁護、入管手続(退去強制・在留特別許可)、行政訴訟。最終更新:2026年8月。
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