示談すれば必ず不起訴になるという理解|示談が効く事件と効かない事件
2026/08/25
本記事の要点
- 示談は起訴猶予の判断において重要な事情であり、被害者がある事件では決定的な意味を持ちうる。
- ただし薬物事犯や銃刀法違反のように被害者が存在しない類型では、示談という手段自体が成り立たない。
- 示談が成立しても、常習性・組織性・同種前歴の存在によっては起訴されることがある。
- 宥恕文言のない示談書は、検察官の判断で十分に評価されないことがある。
- 不起訴となっても、不法就労助長のように行為だけで退去強制事由となる類型は残る。
「示談さえすれば大丈夫」と聞いたとき
ご家族が逮捕されたとき、周囲の方や同郷のコミュニティから「示談すれば不起訴になる」と助言を受けることがあります。この助言は経験に基づく実感であり、多くの事件では実際にそのとおりの結果になります。
問題は、この助言が当てはまらない事件類型が存在すること、そして当てはまる事件でも示談の中身と時期によって結果が変わることです。本記事は、被害者がいる事件で早期の対応を迫られている方を主な読者とします。
示談が起訴猶予に効く仕組みと、効かない場面
検察官は、犯罪の軽重、動機や態様、被害の程度、被害弁償の有無、被害者の処罰感情、再犯のおそれ、生活環境などを総合して起訴猶予を判断します。示談は、このうち被害弁償と処罰感情という二つの要素に同時に作用します。
ただし効果は書面の中身に左右されます。金銭の授受と清算条項しかない示談書は、民事的な解決としては完結していても、刑事処分の判断材料としては弱いものです。被害者が処罰を望まない旨、すなわち宥恕の意思が明記されているかで、検察官に届く重みが変わります。
示談が成り立たない場面の第一は、薬物事犯、銃刀法違反、無許可営業、在留に関する違反のように被害者が観念できない事件です。この類型では、犯情の評価、常習性の不存在、治療環境、生活基盤の安定といった別の材料を積み上げます。
第二は、組織的・常習的と評価される事件です。特殊詐欺の受け子や出し子の事案では被害者が複数存在し、一部と示談しても組織の一端を担ったという評価が残ります。第三は同種の前歴がある事件で、再犯のおそれの評価が結論を左右します。第四は示談金の原資が疑われる事件です。
想定される刑事手続の流れと、最初の72時間
逮捕されると、警察は48時間以内に検察官へ送致し、検察官は24時間以内に勾留請求か釈放かを決めます。この72時間、会えるのは弁護人だけです。被害者の連絡先は通常、捜査機関が保有しており、弁護人が就いていなければ開示を求めることすらできません。
勾留されれば10日間、延長で最大20日間です。起訴前に示談を成立させるには、この期間内に被害者の意向を確認し、条件を調整し、書面を整えて検察官に提出する必要があります。被害者側にも検討の時間が必要で、使える日数は見た目より短いのが実情です。
外国人事件に特有のリスク
示談が成立し不起訴となれば、有罪判決を受けていない以上、入管法24条4号リにも同号チにも該当しません。4号リは無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者を対象とし、但書により刑の全部の執行を猶予された者は除かれます。一部猶予でも実刑部分が1年以下なら除かれます。4号チは薬物に関する有罪判決を対象としますが、これも有罪判決を前提とします。
しかし、刑事処分を前提としない退去強制事由は別です。24条3号の4の不法就労助長は行為があれば足ります。24条4号ロの不法残留、4号イの資格外活動への専従も、示談とは無関係に成立します。
在留期間の更新(入管法21条)は相当の理由があるときに許可される仕組みで、不起訴であっても事件の事実関係が素行の評価として問われることがあります。在留資格の取消し(入管法22条の4)も別の類型を定めています。退去強制事由の判断に故意・過失を要しないとする運用に対し、当事務所は責任主義の射程を問う訴訟を提起し、上訴審まで争ってきました。
不起訴処分の重要性と、示談以外に積むべき材料
執行猶予付きの判決でも退去強制事由となる類型がある以上、起訴前に不起訴を取ることが在留を守る最も確実な道です。示談はその中心的な手段ですが、唯一の手段ではありません。
検察官面談では、処分の方針と検察官が重く見ている事情を確認します。そのうえで、生活基盤、就労状況、家族関係、再犯防止の体制を資料化し、意見書として提出します。身元引受人の確保も欠かせません。
初動対応の3つのポイント
第一に、黙秘権の行使です。示談を進めたい気持ちから事実関係を早く認めてしまう方がいますが、認める範囲が広すぎると、示談が成立しても起訴に至る可能性が高まります。何を認め何を争うかは、示談交渉と一体で設計する必要があります。
第二に、早期の弁護人選任です。被害者の連絡先の開示を求め、交渉の窓口となれるのは弁護人だけです。ご本人やご家族が直接被害者に接触することは、証拠隠滅と評価される危険があり避けるべきです。
第三に、通訳の質です。示談、宥恕、清算条項といった概念は中国語に対応語がありません。捜査機関が手配する通訳人は捜査のために置かれた存在であり、依頼者の交渉のために動く立場ではありません。依頼者本人のために動く通訳の同席が理解を支えます。
当事務所のご案内と解決事例
特殊詐欺の出し子に関わったとされた20代女性の事案では、指示役からの欺罔および脅迫的な状況と犯意の不存在を具体的に主張し、不起訴処分を獲得しました。被害者が多数に及ぶ類型では示談だけでは足りず、関与の実態そのものを立証する必要があります。
被害者側の代理人としての実績もあります。盗撮の被害者代理人として示談金300万円を得た事案、ストーカー被害者の代理人として解決金1,000万円を得た事案です。被害者側の視点は、加害者側での交渉設計にも活きます。
また、取り込み詐欺の被害に遭った卸業の依頼者につき、刑事告訴を端緒として相手方を特定し、7,500万円の解決金を獲得した事案もあります。
当事務所では、弁護士松村大介が初動の接見から公判の結審まで全工程を直接担当し、事務員や若手弁護士による代行はありません。外国人事件に精通した中国語の専属通訳が常駐し、示談交渉の場にも同席します。提携行政書士による在留資格サポートにより、刑事手続後の在留手続までワンストップで対応できます。
結語
示談は、被害者がある事件において最も強い材料のひとつです。その意味で「示談すれば不起訴になる」という言葉には確かな根拠があります。ただしそれは、被害者が存在し、常習性や組織性が問題とならず、適切な書面が起訴前に間に合った場合の話です。まず条件を満たすのかを見極めてください。
本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。
過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
執筆者
弁護士 松村大介(第一東京弁護士会・登録番号59077・2019年登録)。舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田)。注力分野は外国人刑事弁護、入管手続(退去強制・在留特別許可)、行政訴訟。最終更新:2026年8月。
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