出頭申告と出国命令|自ら入管に出頭する前に確認すべきこと
2026/08/24
本記事の要点
- 出国命令(入管法24条の3)は、速やかに出国する意思をもって自ら出頭した方について、収容せずに出国を求める制度です。
- 要件のひとつとして、入管法24条4号ハからヨまでのいずれにも該当しないことが求められます。したがって薬物事犯(4号チ)に該当する方は出国命令を利用できません。
- 出国命令により出国した場合の上陸拒否期間は1年とされ、退去強制の場合の5年または10年と大きく異なります。
- 在留の継続を希望するのであれば、出国命令ではなく在留特別許可を求める道を選ぶことになり、出頭前にどちらを目指すかを決めておく必要があります。
- 出頭申告は取消しのきかない行為です。準備なしに出頭すれば、収容され、そのまま手続が進行します。
在留期間が切れたまま日本で生活が続いている。会社が倒産して資格を失った。家族の事情で帰れないまま時間が過ぎた。こうした状況の方から「自分から入管に行ったほうがよいのか」というご相談を頻繁にいただきます。
答えは、目指す結果によって正反対になります。この記事では出国命令の制度を正確に説明したうえで、出頭前に必ず確認すべき事項と、在留継続を望む場合に取るべき別の道筋を整理します。
出国命令制度の位置づけ
出国命令は、退去強制手続の例外として設けられた簡易な出国の枠組みです。通常の退去強制手続では違反調査、違反審査、口頭審理、異議という段階を踏み、その過程で収容令書による収容が行われることが少なくありません。これに対し出国命令では、収容されずに出国期限を指定され、その期限内に自ら出国します。
- 速やかに本邦から出国する意思をもって、自ら入国管理官署に出頭したこと
- 不法残留などの一定の類型にとどまり、入管法24条4号ハからヨまでのいずれにも該当しないこと
- 過去に退去強制を受けたことがなく、出国命令により出国したこともないこと
- 速やかに本邦から出国することが確実と見込まれること
第二の要件は特に重要です。4号ハからヨの範囲には薬物関係の4号チが含まれるため、薬物事犯で有罪となった方は、罰金や執行猶予であっても出国命令を利用できません。さらに薬物関係の上陸拒否事由には期間の定めがなく、再入国の道は上陸特別許可(入管法12条1項)に限られます。この違いは決定的です。
想定される刑事手続の流れ
出頭を検討する方の中には、刑事事件が並行している、あるいは過去に刑事事件があるという方が少なくありません。刑事事件で逮捕された場合、48時間以内に検察官へ送致され、24時間以内に勾留請求の可否が判断されます。逮捕から72時間で勾留の枠組みが決まり、勾留は原則10日、延長で最長20日です。この間の供述が、その後の処分と入管手続の両方を規定します。
外国人事件特有のリスク
入管法24条の各号は効果が異なります。4号ロは不法残留であり、出国命令の対象となり得る典型類型です。4号イは在留資格に応じた活動を行わず他の収入を伴う活動を専ら行っている場合、4号ヘは資格外活動の罪により拘禁刑に処せられた場合です。4号ハは人身取引等に関わった場合で、この号に該当すれば出国命令の要件を満たしません。
4号リは無期または1年を超える拘禁刑に処せられた者を対象としますが、但書により刑の全部の執行を猶予された者は除かれます。他方、4号チは薬物関係の有罪判決を対象とし、罰金でも執行猶予でも刑の免除でも該当します。4号の2は危険運転致死傷などの重大犯罪を列挙し、3号の4は不法就労助長で行為があれば足ります。自分がどの号に当たるのかを把握しないまま出頭することは、結果を運任せにするに等しいのです。在留資格の取消し(入管法22条の4)を受けている方や更新が不許可(入管法21条)となった方は、状況の整理そのものが必要です。なお当事務所は、退去強制事由の判断に故意・過失を要しないとする従来の実務に対し、責任主義の射程を問う訴訟を上訴審まで争ってきました。
不起訴処分の重要性
刑事事件が併存する場合、起訴前に不起訴処分を得られるかどうかが、出国命令の利用可否にも在留特別許可の見通しにも直結します。とりわけ薬物事犯では、有罪判決を受けた時点で4号チに該当し、出国命令の道が閉ざされ、上陸拒否にも期間の定めがなくなります。
- 担当検察官との面談を申し入れ、事案の実態と処分の相当性を直接説明する
初動対応の3つのポイント
第一に、黙秘権の行使です。刑事手続における黙秘は権利であり、行使したこと自体が不利益に扱われることはありません。入管の調査では入国の経緯や在留中の就労内容を尋ねられますが、記憶が不確かな事項について推測で答えれば、その推測が事実として記録されます。
第二に、早期の弁護人選任です。出頭申告は一度行えば取り消せません。出頭前に目指す結果を決め、必要な資料を揃え、想定される質問への回答を整理しておく必要があります。この準備を伴わない出頭は、選択肢を自ら狭める行為になります。
第三に、通訳の質です。入管や捜査機関が手配する通訳は、その機関の手続のために選ばれた通訳です。在留を希望する理由、家族との関係、帰国後に予想される事情は、表現の細部が判断に影響します。当事務所には外国人事件に精通した中国語専属通訳が常駐しており、面談や出頭に際して意思疎通の質を確保します。
当事務所のご案内と解決事例
舟渡国際法律事務所では、弁護士 松村大介が初動の接見から公判の結審まで全工程を直接担当し、事務員や若手弁護士による代行はいたしません。中国語専属通訳が常駐し、提携行政書士による在留資格サポートにより、刑事手続と入管手続を一体としてご対応します。
- 観光目的で来日した後に日本人女性との間にお子さまを授かり、在留資格を失って不法滞在で起訴された事案。婚姻と認知を成立させ、国籍国の公的書類がほとんど無い状況で有利な証拠を集め、1回の申請で在留特別許可を獲得しました。
- 特殊詐欺の受け子で複数回にわたり再逮捕された事案について、取調べ対応と主張立証を徹底し、全件について不起訴処分を獲得しました。身柄拘束の長期化にも一貫して対応した事案です。
- 国際刑事事件、裁判員裁判対象事件、世界的に報道された重大事件への対応実績があります。中国籍の方の重大事件にも多数対応しており、通訳体制を含めた総合的な弁護を行っています。
おわりに
出頭申告は、状況を前に進めるための有力な手段であると同時に、後戻りのできない一歩でもあります。出国して速やかに再出発したいのか、日本での在留継続を求めるのか。この二つは目指す手続がまったく異なり、準備すべき資料も異なります。まだ出頭していない段階でご相談いただければ、選択肢を保ったまま方針を設計できます。
本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。
過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
執筆者
弁護士 松村大介(第一東京弁護士会・登録番号59077・2019年登録)。舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田)。注力分野は外国人刑事弁護、入管手続(退去強制・在留特別許可)、行政訴訟。最終更新:2026年8月。
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