補完的保護対象者と刑事事件|認定を受けた後に在留を失わないために
2026/08/24
本記事の要点
- 補完的保護対象者の制度は令和5年改正入管法により創設され、令和6年6月に施行された。認定を受けた場合には定住者の在留資格が与えられる扱いとなっている。
- 認定を受けた後でも、退去強制事由に該当すれば在留は危うくなる。認定は刑事処分の効果を打ち消す仕組みではない。
- 入管法24条4号リには但書があり、刑の全部の執行を猶予された者は除外される。他方、薬物事犯の24条4号チは罰金でも執行猶予でも該当する。
- 定住者の在留期間更新(入管法21条)では素行が正面から評価されるため、不起訴処分を得ておく意味が大きい。
- 逮捕直後の72時間に弁護人と通訳を確保できるかどうかが、刑事と入管の双方の結果を左右する。
補完的保護対象者という制度は、比較的新しいものです。難民条約上の難民には当たらないものの、本国に戻れば重大な危害を受けるおそれがあるため、難民に準じて保護すべき方を対象とします。認定を受けた場合には定住者の在留資格が付与される取扱いとなっており、就労の制限もありません。ようやく生活の基盤ができたと感じておられる方も多いはずです。
その方が刑事事件の当事者になったとき、これまで積み上げてきたものがどうなるのか。この記事は、そのご不安に正面から答えるために書きます。
刑事手続はどう進むのか
逮捕された場合、警察は48時間以内に検察官へ送致し、検察官は24時間以内に勾留請求の可否を決めます。この72時間が、その後の全体を規定します。勾留が認められれば原則10日、延長でさらに最大10日、身柄拘束が続きます。
この期間中に、最初の供述調書が作られます。日本語が十分でない状態で作られた調書は後から訂正することが実務上難しく、公判でも入管の審査でも参照され続けます。だからこそ、72時間のうちに弁護人が接見し、供述方針を固めることが必要です。定住者として就労している方であれば、勤務先への連絡や賃金の問題も同時に発生します。弁護人を通じて必要最小限の連絡経路を確保することが、生活の崩壊を防ぎます。
認定を受けていても在留が危うくなる場面
補完的保護対象者としての認定は、本国での危害のおそれに着目した判断です。日本国内での行為に基づく退去強制事由の適用を止める仕組みではありません。したがって、次の点を確認する必要があります。
入管法24条4号リは、無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者を対象とします。但書があり、刑の全部の執行を猶予された者は除外されます。一部執行猶予の場合も、実際に服する部分が1年以下であれば除外されます。実刑で1年を超える判決を受けた場合には、在留資格の種類を問わず該当します。
24条4号チは薬物関係法令違反による有罪を理由とするもので、有罪判決があれば足ります。罰金でも、刑の全部の執行猶予でも、刑の免除でも該当します。この号は柱書によって4号リの守備範囲から外され、別枠で機能しています。薬物事犯については、上陸拒否にも年限の定めがなく、出国命令の制度も使えません。
また、24条4号の2には一定の重大犯罪が列挙されており、危険運転致死傷なども含まれます。日常の運転が思わぬ形で在留に響く可能性があるということです。
在留資格の側からも影響があります。定住者の在留期間更新(入管法21条)では素行要件が正面から評価され、在留資格の取消し(入管法22条の4)は虚偽の申請や活動の不継続などを理由とします。認定を受けたときに提出した資料と、その後の生活実態が食い違えば、そこも問題になりえます。
なお、退去強制事由の認定に故意・過失を要しないとする実務が続いてきました。当事務所は、この実務に対して責任主義の射程を問う訴訟を提起し、上訴審まで争ってきた経験があります。
不起訴処分を目指す理由
執行猶予判決でも退去強制の対象となりうる類型がある以上、有罪判決自体を避けることが最も確実です。補完的保護対象者の方の場合、送還されれば本国での危害のおそれに直面するという事情があり、刑事処分の意味は他の方より重くなります。
起訴前の弁護活動としては、被害者のいる事件での示談交渉と宥恕文言の獲得、事件に至った背景事情の説明、支援団体や職場を含む再発防止体制の提示、検察官との面談による処分に関する意見の伝達を行います。母語での事情説明を正確に翻訳して資料化することも、実際には大きな意味を持ちます。
初動対応の3つのポイント
黙秘権の行使。本国での経緯や渡航の事情を問われても、その場で語る必要はありません。保護に関する手続で述べた内容との整合を確認してから話すべきです。
早期の弁護人選任。国選弁護人は勾留決定後に付きます。最初の72時間は私選弁護人でなければ埋められません。入管手続の見通しまで同時に立てられる弁護人であることが望まれます。
通訳の質。取調べの通訳人は捜査機関が手配します。捜査機関の味方というわけではありませんが、依頼者本人のために動く立場でもありません。母語の方言や、宗教・政治に関わる語の訳し方によって、供述の意味が変わってしまうことがあります。弁護人が同行させる通訳は、依頼者本人のために正確に訳し、手続の意味を説明します。
当事務所のご案内と解決事例
舟渡国際法律事務所では、弁護士 松村大介が初動接見から公判結審まで全工程を直接担当します。事務員や若手弁護士による代行は行いません。外国人事件に精通した中国語の専属通訳が常駐しており、接見や打合せの場で通訳を欠くことはありません。刑事手続後の在留資格については提携行政書士と連携し、ワンストップで対応します。
- 観光目的で来日した後に日本人女性との間に子を授かり、在留資格を失って不法滞在で起訴された事案では、婚姻と認知を成立させ、国籍国の公的書類がほとんど得られない状況で有利な証拠を集め、1回の申請で在留特別許可を獲得しました。本国の書類が揃わない事案でも、組み立て方はあります。
- 冤罪により不法就労助長罪に問われ強制退去の危機にあった女性の事案では、退去強制事由に故意・過失を要しないとする従来の実務に対し、責任主義の射程を問う訴訟を提起して上訴審まで争いました。その後、入管から在留特別許可が認められています。
- ストーカー規制法4条1項の文書警告をめぐる控訴事件(令和6年6月26日大阪高裁判決)を担当しました。警告の処分性という論点については、学術誌において多数の言及と検討がなされています。
おわりに
補完的保護対象者として認定されるまでには、長い時間と多くの手続を要したはずです。それを一件の刑事事件で失わないために必要なのは、早い段階で正確な見通しを立てることに尽きます。まだ何も決まっていない今こそが、動くべき時です。
本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。
過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
執筆者
弁護士 松村大介(第一東京弁護士会・登録番号59077・2019年登録)。舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田)。注力分野は外国人刑事弁護、入管手続(退去強制・在留特別許可)、行政訴訟。最終更新:2026年8月。
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