高度専門職と刑事事件|ポイント制の優遇は退去強制を止めない
2026/08/24
本記事の要点
- 高度専門職の優遇は活動範囲と永住までの期間に及ぶが、退去強制事由の適用には及ばない。
- 入管法24条4号リは無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者を対象とし、但書により全部執行猶予の者は除外される。
- 薬物事犯は別枠であり、24条4号チは有罪判決があれば罰金でも執行猶予でも該当する。
- 起訴されなければ前科は生じず、起訴前の不起訴処分が最も効果の大きい防御となる。
- 逮捕から勾留決定までの72時間に何をしたかが、身柄も在留も左右する。
高度専門職の在留資格でお仕事をされている方は、受入れ企業や研究機関のなかで責任のある立場に就いておられることが多く、突然の逮捕や捜査機関からの呼出しは、家族滞在で来日されたご配偶者やお子さまの在留にも直結します。ポイント計算で高い評価を受けた方ほど、これだけ貢献してきたのだから多少のことでは在留資格を失わないだろう、とお考えになりがちです。しかし入管法の退去強制事由は、ポイントの高低を考慮する構造になっていません。
この記事では、刑事手続と入管手続の双方で何が起きるのか、どの段階で手を打てば結果を変えられるのかを順に整理します。
逮捕から勾留決定までの72時間
警察に逮捕されると、48時間以内に事件が検察官へ送致され、検察官は身柄を受け取ってから24時間以内に勾留を請求するかどうかを判断します。合計で72時間です。勾留が請求されると裁判官の勾留質問が行われ、勾留が決まれば原則10日間、延長でさらに最大10日間の身柄拘束が続きます。
この72時間は、外部との連絡が最も難しい時間帯でもあります。ご家族は面会できず、勤務先には何の説明もできません。他方で捜査機関は、この間に最初の調書を作ります。最初に作られた調書は後から覆すことが実務上きわめて難しく、起訴・不起訴の判断、さらには入管の判断にまで影響し続けます。だからこそ、この72時間のうちに弁護人が接見し、供述の方針と通訳体制を固めることが必要です。無断欠勤が続けば雇用契約そのものが危うくなりますから、弁護人を通じた連絡経路の確保も急がれます。
高度専門職者が直面する入管法上のリスク
刑事事件の結果が在留に及ぶ経路は、大きく三つあります。
第一に、退去強制事由です。入管法24条4号リは、同号ニからチまでに掲げる者のほか、無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者を退去強制の対象としています。ここには但書があり、刑の全部の執行を猶予された者は除外されます。一部執行猶予の場合も、実際に服する部分が1年以下であれば除外されます。したがって、執行猶予がついても4号リに当たるという説明は正確ではありません。
第二に、薬物事犯の特則です。24条4号チは薬物関係法令違反による有罪を理由とするもので、有罪判決があれば足り、罰金でも執行猶予でも刑の免除でも該当します。4号リの守備範囲からは柱書によって外され、別枠で機能しています。上陸拒否についても薬物事犯には年限の定めがなく、期間の定めのない上陸拒否となります。再来日は上陸特別許可という例外的な道に限られ、出国命令の制度も使えません。
第三に、在留資格そのものへの影響です。在留期間更新の審査(入管法21条)では素行が正面から評価されます。在留資格の取消し(入管法22条の4)は、虚偽の申請や、その在留資格に対応する活動を継続して行っていない状態などを理由とします。身柄拘束や解雇によって高度専門職としての活動が止まれば、この点が問題になります。
なお、退去強制事由の判断には故意や過失を要しないという運用が長く続いてきました。当事務所は、この運用に対して責任主義の射程を問う訴訟を提起し、上訴審まで争ってきました。行政の判断だからといって、そのまま受け入れなければならないわけではありません。
不起訴処分がなぜ決定的なのか
執行猶予判決が出ても退去強制の対象となりうる類型が存在します。薬物事犯はその典型です。実刑さえ避ければ在留は守れる、という理解は成り立ちません。在留を守る観点からは、そもそも有罪判決を受けないこと、すなわち起訴前に不起訴処分を得ることが決定的です。
被害者のいる事件であれば示談交渉を進め、宥恕の意思を書面化します。共犯者との関係、故意の有無、被害額の評価などについて、証拠に即した意見書を検察官に提出します。処分が決まる前に検察官と面談し、意見を直接伝えることも行います。勤務先の受入れ体制、職務実績、再発防止の具体策を客観的資料で示すことは、起訴猶予の判断材料として意味を持ちます。
初動対応の3つのポイント
第一に、黙秘権の行使です。黙秘は隠し事の表明ではなく、法が認めた権利の行使です。事実関係が固まらないうちに供述すると、訂正のきかない記録が残ります。
第二に、早期の弁護人選任です。国選弁護人は勾留が決まってから付きます。最初の72時間は制度上、国選の対象外です。この空白を埋められるのは私選弁護人だけです。
第三に、通訳の質です。取調べに立ち会う通訳人は捜査機関が手配します。捜査機関の側に立って仕事をしているわけではありませんが、依頼者本人の利益のために動く立場でもありません。専門用語や微妙なニュアンスが落ちたまま調書化されることは実際に起きます。弁護人が同行させる通訳は、依頼者本人のために正確に訳し、弁護方針の説明まで担います。
当事務所のご案内と解決事例
舟渡国際法律事務所では、弁護士 松村大介が初動の接見から公判の結審まで全工程を直接担当し、事務員や若手弁護士による代行は行いません。外国人事件に精通した中国語の専属通訳が常駐しています。刑事手続後の在留資格については、提携行政書士と連携し、ワンストップで対応します。
- 覚醒剤取締法違反(営利目的所持)で起訴された依頼者について、押収物の管理経過や供述の変遷を徹底的に分析し、被告人質問と反対尋問で争点を組み立てた結果、無罪判決を獲得しました。
- 冤罪により不法就労助長罪に問われ強制退去の危機にあった女性の事案では、退去強制事由に故意・過失を要しないとする従来の実務に対し、責任主義の射程を問う訴訟を提起して上訴審まで争いました。その後、入管から在留特別許可が認められています。
- 外資系企業の支配権をめぐる紛争において勝訴しました。経営や組織の紛争に巻き込まれる局面でも、民事・会社法務の視点を同時に持って対応できます。
おわりに
高度専門職の在留資格は、専門人材を迎え入れるために設けられた枠組みです。しかし、その枠組みが刑事手続の結果を自動的に和らげてくれるわけではありません。守れるかどうかは、最初の数日で誰がどう動いたかで大きく変わります。
本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。
過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
執筆者
弁護士 松村大介(第一東京弁護士会・登録番号59077・2019年登録)。舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田)。注力分野は外国人刑事弁護、入管手続(退去強制・在留特別許可)、行政訴訟。最終更新:2026年8月。
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