永住者と刑事事件|更新のない資格に残るリスクと、取消し事由をめぐる議論の現状
2026/08/24
本記事の要点
- 永住者には在留期間の更新という関門がありませんが、退去強制の対象から外れているわけではありません。
- 入管法22条の4のうち、活動を3か月以上行っていないことを理由とする取消しは別表第一の在留資格に向けられたもので、永住者には適用されません。他方、偽りその他不正の手段による許可や、住居地の届出に関する類型は永住者にも及びます。
- 永住許可の取消し事由を追加する法改正が成立していますが、施行はこれからであり、運用の細目を定めるガイドラインは案の段階にあります。確定した制度として扱うべきではありません。
- 薬物事犯は罰金でも刑の全部の執行猶予でも退去強制事由に該当します。永住者であることは適用を妨げません。
- 一度失った永住者の地位を取り戻すことは極めて困難であり、失う前の段階での防御が決定的です。
永住許可を得るまでには、長い在留期間と、素行、独立生計、国益への適合という要件を満たす必要があります。ようやく得た地位だからこそ、刑事事件の連絡を受けたときの動揺は大きいものです。
永住者は更新申請が不要な分、入管との接点が少なく、自分の在留がどのような枠組みの上に成り立っているかを意識する機会が乏しくなります。本記事では、永住者に何が適用され、何が適用されないのかを整理します。
逮捕から起訴・不起訴までの流れ
逮捕後、警察は48時間以内に検察官へ送致し、検察官は24時間以内に勾留請求の可否を判断します。合計で最大72時間です。この間に弁解の内容と調書の骨格が固まります。永住者の方は日本での生活が長く、日本語で受け答えができる場合が多いため、通訳を付けずに取調べが進むことがあります。しかし、法律用語や微妙な認識の表現になると、日常会話の能力とは別の精度が必要になります。
勾留は原則10日、延長でさらに10日。永住者であっても、この期間は職や住居を失う十分な長さです。永住者だから在留は安全だと考えて刑事手続を軽く見ることが、最も危険な判断です。
永住者に何が適用され、何が適用されないのか
退去強制事由は永住者にも適用されます。入管法24条4号リは無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者を対象としますが、但書があり、刑の全部の執行を猶予された者は除外されます。他方、同条4号チの薬物関係の有罪は、罰金でも執行猶予でも刑の免除でも該当します。この差は非常に大きく、薬物事犯は永住者にとって最も警戒すべき類型です。同条4号の2は危険運転致死傷などの重大犯罪を列挙しています。
在留資格の取消しについては、適用される類型が限られます。入管法22条の4のうち、当該在留資格に係る活動を3か月以上行っていないことを理由とする類型は、別表第一の在留資格に向けられたものであり、永住者には適用されません。他方、偽りその他不正の手段により許可を受けた場合の類型や、住居地の届出に関する類型は永住者にも及びます。転居時の届出は、永住者にとっても実際上の重要事項です。
近年、永住許可の取消し事由を追加する法改正が成立しています。もっとも、施行はこれからであり、運用の細目を定めるガイドラインは現時点では案の段階にあります。案の段階のものを確定した制度として説明することは適切ではありません。当事務所は、確定した内容と検討中の内容を明確に区別してご説明します。
また、退去強制手続に至った場合、在留特別許可の考慮要素は法律に定められています(入管法50条5項)。もっとも、無期又は1年を超える拘禁刑の実刑に処せられた者等については加重された要件があります(同条1項但書)。なお、退去強制事由の判断に故意・過失を要しないとされてきた実務に対し、当事務所は責任主義の射程を問う訴訟を提起し、上訴審まで争ってまいりました。
不起訴処分の重要性
永住者の方にとって不起訴を取る意味は、単に前科を避けることにとどまりません。永住者の地位は一度失えば回復が極めて困難であり、退去強制となれば上陸拒否の問題も生じます。とくに薬物に関しては、上陸拒否の事由に年限の定めがなく、再び日本に入るには上陸特別許可によるほかありません。出国命令の制度も、薬物関係の事由に該当する者には使えません。
ですから、起訴前の活動が決定的です。被害者のある事件では早期に示談を進め、宥恕と再発防止を明記した書面を整えます。検察官には、日本での在留歴、納税と社会保険の履行、家族や地域との結びつき、就労の継続性、永住者の地位を失った場合の不利益の重大性を、資料とともに意見書で示します。事実を争う事案では、証拠の精査を徹底します。
初動対応の3つのポイント
第一に、黙秘権の行使です。長く日本に住む方ほど、説明すれば分かってもらえると考えて話しすぎる傾向があります。弁護人と整理するまでは供述を控えてください。
第二に、早期の弁護人選任です。国選弁護人は原則として勾留決定後に付き、最も重要な72時間が空白になりがちです。永住者の事案では、失うものの大きさを踏まえた初動の設計が必要です。
第三に、通訳の質です。日本語ができるからと通訳を断る方がおられますが、認識や意図に関する微妙な表現は母語でしか正確に語れないことが多いのです。依頼者本人のために動く通訳であれば、表現の差を弁護人に伝え、調書の記載を点検できます。
当事務所のご案内と解決事例
舟渡国際法律事務所では、弁護士松村大介が初動接見から公判結審まで全工程を直接担当します。事務員や若手弁護士による代行はいたしません。外国人事件に精通した中国語の専属通訳が常駐し、刑事手続後の在留資格は提携行政書士とともにワンストップで対応いたします。
- 覚醒剤取締法違反(営利目的所持)で起訴された依頼者について、徹底的な証拠分析と被告人質問・反対尋問により無罪判決を獲得しました。薬物事犯は有罪であれば執行猶予でも退去強制事由に該当するため、永住者にとって争うべき意味が最も大きい類型です。
- 冤罪により不法就労助長罪に問われ強制退去の危機にあった女性の事案では、責任主義の射程を問う訴訟を提起して上訴審まで争い、その後、入管から在留特別許可が認められています。行政実務の前提を問い直す姿勢は永住者の事案でも同じです。
- 国際的な刑事事件、裁判員裁判対象事件、世界的に報道された重大事件への対応実績があり、中国籍の方の重大事件にも多数対応してまいりました。
おわりに
永住者であることは、退去強制されないことを意味しません。更新という定期的な点検がない分、問題が表面化したときには既に深刻になっていることがあります。制度改正の議論も進んでいますが、案の段階の内容を確定した制度と受け取らず、正確な情報に基づいて判断してください。
本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。
過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
執筆者
弁護士 松村大介(第一東京弁護士会・登録番号59077・2019年登録)。舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田)。注力分野は外国人刑事弁護、入管手続(退去強制・在留特別許可)、行政訴訟。最終更新:2026年8月。
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