特定技能1号・2号と刑事事件|受入れ機関の変更、支援体制、通算期間の壁
2026/08/24
本記事の要点
- 特定技能は、特定技能雇用契約と支援体制の存在を前提とする資格であり、身柄拘束による契約解除は資格の前提そのものを失わせます。
- 特定技能1号には在留できる期間の通算上限があり、拘束されている間もその期間は経過します。働けない時間が上限を食いつぶす点が他の就労資格との違いです。
- 特定技能2号は更新回数に上限がなく家族の帯同も可能ですが、更新のたびに素行が審査されるため影響は長期に及びます。
- 受入れ機関の変更や契約の終了は入管法19条の16の届出事項で、次の受入れ先を確保できるかが在留の帰趨を決めます。
- 薬物事犯は罰金でも執行猶予でも退去強制事由に該当し、分野や技能水準とは無関係です。
特定技能の資格で来日された方の多くは、試験に合格し、日本語を学び、契約を得るまでに相当の時間と費用を投じています。その積み重ねが、たった一度の逮捕で崩れかねません。
特定技能は、単に働くことを許す資格ではなく、特定の分野で、特定の受入れ機関との契約に基づき、定められた支援を受けながら働くという枠組みを前提とします。枠組みから外れた瞬間に資格の足場が消えるのです。
逮捕直後の72時間と、受入れ機関への連絡
逮捕から48時間以内に検察官へ送致され、検察官は24時間以内に勾留請求の可否を判断します。この最大72時間の間に弁解の内容と調書の骨格が固まります。特定技能の方の事案では、日本語による取調べで細部の食い違いが生じやすく、それが後に供述の変遷として不利に扱われます。この間に弁護人が入り、通訳を伴って事実関係を確認する意味は大きいのです。
同時に問題になるのが受入れ機関への説明です。無断欠勤が続けば契約が解除される可能性が高く、寮に住んでいれば住居も同時に失います。ご家族や弁護人から状況を伝え、契約維持について協議する余地があるかを早期に探る必要があります。何も手を打たないまま20日が過ぎると、釈放されたときには職も住居も支援体制も無い状態になります。
特定技能に固有のリスク
退去強制事由の基本は他の資格と共通です。入管法24条4号リは無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者を対象としますが、但書により刑の全部の執行を猶予された者は除外されます。一方、同条4号チの薬物関係の有罪は、罰金でも執行猶予でも刑の免除でも該当し、分野や技能水準を問いません。同条4号の2は危険運転致死傷などの重大犯罪を列挙しており、建設や運送に従事する方には現実的な論点です。
固有の問題は三つあります。第一に、特定技能雇用契約が解除されると当該資格に係る活動を行えなくなります。入管法22条の4は、別表第一の在留資格をもって在留する者が当該活動を継続して3か月以上行っていない場合を取消し事由の一つとしています。正当な理由がある場合は除かれますが、次の受入れ先が決まらないまま時間が経つのは危険です。第二に、受入れ機関の変更や契約の終了には入管法19条の16の届出義務があり、留置施設にいることは免除事由になりません。第三に、1号の通算在留期間です。合計に上限があるため、拘束や求職で働けない期間も上限に向かって時間だけが進みます。更新回数に上限のない技術・人文知識・国際業務などとは決定的に異なる点です。
2号は更新回数に上限がなく家族の帯同も認められますが、更新のたびに素行と雇用の安定が審査される以上、影響は一度きりでは終わりません。なお、退去強制事由の判断に故意・過失を要しないとされてきた実務については、当事務所が責任主義の射程を問う訴訟を提起し、上訴審まで争ってまいりました。
不起訴処分の重要性
特定技能の方にとって、不起訴は在留の維持と再就労の両方に直結します。公判が続けば受入れ機関は待ってくれず、新たな受入れ機関も採用に慎重になります。不起訴であれば、事情を説明したうえで次の契約に進める可能性が残ります。とくに薬物事犯は執行猶予でも退去強制事由に該当しますから、執行猶予を目標にするのでは遅いのです。
起訴前の活動は、早期の示談交渉、宥恕文言と再発防止策を含む示談書の作成、検察官面談の申入れ、意見書の提出が中心です。意見書では、来日の経緯と費用負担、母国の家族への送金の実情、受入れ機関や同僚からの評価、再度の受入れ先確保の見込みを資料とともに示します。同僚や監督者の陳述書は、日常の勤務態度を裏づける有力な材料です。
初動対応の3つのポイント
第一に、黙秘権の行使です。同僚に誘われた、断りきれなかったといった経緯の説明は、話し方によって共謀を推認させる材料になります。弁護人と整理するまで供述を控える判断が合理的です。
第二に、早期の弁護人選任です。国選弁護人が付くのは原則として勾留決定後であり、その前の72時間は空白になりがちです。受入れ機関との調整も含め、初動が早いほど選択肢は広がります。
第三に、通訳の質です。捜査機関が指定する通訳は捜査手続を進めるために配置され、専門用語や作業手順の訳出が不正確でも異議を述べる立場にはありません。依頼者本人のために動く通訳であれば、現場で使われる中国語の言い回しや作業指示の言葉づかいの違いを弁護人に伝え、読み聞かせの際に食い違いを指摘できます。
当事務所のご案内と解決事例
舟渡国際法律事務所では、弁護士松村大介が初動接見から公判結審まで全工程を直接担当し、事務員や若手弁護士が代行することはありません。外国人事件に精通した中国語の専属通訳が常駐しています。刑事手続後の在留資格は、提携する行政書士とともにワンストップで対応いたします。
- 覚醒剤取締法違反(営利目的所持)で起訴された依頼者について、徹底的な証拠分析と被告人質問・反対尋問により無罪判決を獲得しました。薬物事犯は有罪となれば執行猶予でも退去強制事由に該当するため、争うべき事案では徹底して争います。
- 特殊詐欺の出し子(中国語では取款者にあたる役割)に関わったとされた20代女性の事案では、指示役からの欺罔や脅迫的な状況、犯意の不存在を主張し、不起訴処分を獲得しました。送金の必要に付け込まれる構図は就労資格の方にも共通します。
- 冤罪により不法就労助長罪に問われ強制退去の危機にあった女性の事案では、責任主義の射程を問う訴訟を提起して上訴審まで争い、その後、入管から在留特別許可が認められています。
おわりに
特定技能は、契約と支援という枠組みに支えられた資格です。枠組みが壊れた状態が続けば、刑事事件が軽い結末を迎えても在留は維持できません。逮捕の日から、刑事弁護と受入れ機関との調整、届出、次の契約先の確保を同時並行で進めてください。とくに1号の方は、待っている時間そのものが通算期間を削っていきます。
本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。
過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
執筆者
弁護士 松村大介(第一東京弁護士会・登録番号59077・2019年登録)。舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田)。注力分野は外国人刑事弁護、入管手続(退去強制・在留特別許可)、行政訴訟。最終更新:2026年8月。
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