退去強制の後に日本へ戻れるのか|上陸拒否期間の起算点と例外
2026/08/23
本記事の要点
- 上陸拒否期間の起算点は、判決の日でも令書発付の日でもなく、日本を退去した日です。
- 期間は、退去強制歴が初めてか複数回かで異なり、出国命令による出国であればさらに短く扱われます。
- 薬物に関する上陸拒否事由には期間の定めがなく、時の経過だけでは解消しません。
- 期間が満了しても当然に査証が出るわけではなく、過去の事情は改めて審査されます。
- 期間の途中や、期間の定めのない事由がある場合に戻る道は、上陸特別許可に限られます。
- 将来の再入国を最も大きく左右するのは、刑事処分の段階で不起訴を得られるかどうかです。
ご家族が送還された後、多くのご相談は同じ問いから始まります。いつになったら日本へ戻れるのか、という問いです。
答えは一律ではありません。どの事由で退去強制されたのか、退去強制歴が何回目か、出国命令によって出たのか、薬物に関する事由が含まれるのかによって、まったく違う結論になります。本記事では期間の考え方と起算点を整理し、その先にある上陸特別許可にも触れます。
想定される刑事手続の流れ
再入国の可否は、実は刑事事件の初期段階で方向づけられます。逮捕から48時間以内の検察官送致、その後24時間以内の勾留請求という流れの中で、勾留と起訴を回避できるかが決まるからです。不起訴処分を得られれば有罪判決が存在せず、刑事処分を理由とする退去強制事由に該当せず、退去強制されなければ上陸拒否期間も生じません。逆に初動を誤れば、年単位で戻れない状態が続き、事由によっては期間の定めのない上陸拒否となります。
外国人事件特有のリスク
入管法24条4号リは無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者を退去強制事由としますが、但書により刑の全部の執行を猶予された方は除かれ、一部猶予でも実刑部分が1年以下なら除かれます。他方、薬物事犯を定める24条4号チは有罪判決自体で足り、罰金でも執行猶予でも該当し得ます。
この号が特に重いのは、退去強制の後にも影響が続くからです。出国命令の要件のひとつは4号ハからヨまでのいずれにも該当しないことですから、薬物に関する事由がある方は出国命令を利用できません。さらに、上陸拒否事由のうち薬物に関するものには年限の定めがなく、罰金でも、外国の法令に違反した場合でも足りるとされ、時間の経過では解消しません。この場合に戻る道は上陸特別許可のみです。当事務所は、退去強制事由の判断に故意・過失を要しないとされてきた実務に対し責任主義の射程を問う訴訟活動を行ってきましたが、この問題意識は再入国の場面にも及びます。
上陸拒否期間はいつから数えるのか
起算点は日本を退去した日です。退去強制令書によって送還された場合はその送還の日、自ら出国した場合はその出国の日から数えます。判決の日や令書発付の日から数えるという誤解が多いのですが、そうではありません。収容が長引けば令書発付から実際の送還まで間が空き、その分だけ起算点は後ろにずれます。
期間の長さは、退去強制を受けたのが初めてであれば5年、過去にも退去強制歴があり再び受けた場合は10年とされています。これに対し出国命令の制度により自ら出国した場合は1年とされ、大きな差があります。この差があるからこそ、出国命令を目指せる事案ではその可能性を早期に検討する価値があります。ただし薬物に関する事由がある方は出国命令を利用できません。
実務上ご家族にお勧めしているのは、出国の日を客観的に示せる資料を必ず保管することです。旅券の出国印、航空券の記録、送還時に交付された書類などが該当します。
期間の満了と、満了を待てない場合
期間が満了しても、それだけで自動的に入国できるわけではありません。その後の査証審査や上陸審査では、どのような事情で退去強制されたのか、その後どう生活してきたのかが改めて見られます。待つ間に本国での就労状況、家族関係、再発防止の取組みを積み上げておくことに意味があります。
他方、満了を待てない事情もあります。この場合に検討するのが上陸特別許可です。上陸拒否事由がある方についてもなお特別に上陸を許可し得る制度で、日本人配偶者や日本国籍の子との関係、人道的事情が判断の中心に置かれます。
不起訴処分の重要性
最も重要なのは退去強制に至らないことであり、そのためには刑事処分の段階で不起訴処分を得ることです。執行猶予判決でも退去強制事由に当たり得る類型があり、薬物事犯では罰金でも該当し得るのですから、判決を待つ姿勢では遅いのです。不起訴を目指す活動は起訴までの限られた期間に集中します。検察官との面談を重ねて事件の見え方に反論し、被害者がいる事件では通訳を交えて謝罪と被害弁償の協議を進め、関与の程度や認識に争いがあれば客観証拠との整合を示す意見書を提出します。
初動対応の3つのポイント
第一に、黙秘権の行使です。将来の再入国まで見据えるなら、初期にどのような供述を残すかは決定的です。
第二に、早期の弁護人選任です。勾留を争える期間は極めて短く、入管手続を見越した準備も早いほど有利になります。
第三に、通訳の質です。捜査機関が指定する通訳は捜査のための存在で、依頼者の立場から言葉を選ぶ役割は担いません。依頼者のために動く通訳が入ることで本人の説明が正確に記録され、後の手続でも一貫性を保てます。矛盾した記録は数年後の再入国の場面まで影響します。
当事務所のご案内と解決事例
- 覚醒剤取締法違反(営利目的所持)で起訴された依頼者につき、徹底的な証拠分析と被告人質問・反対尋問により無罪判決を獲得しました。薬物事犯は退去強制と上陸拒否の双方で重く扱われるため、刑事手続段階での争いが将来を左右します。
- 観光目的で来日し在留資格を失って不法滞在で起訴された事案。婚姻と認知を成立させ、国籍国の公的書類がほとんど得られない中で有利な証拠を集め、1回の手続で在留特別許可を獲得しました。
当事務所では弁護士松村大介が初動の接見から公判の結審まで全工程を直接担当し、事務員や若手弁護士による代行は行いません。外国人事件に精通した中国語専属通訳が常駐しています。提携行政書士による在留資格サポートで、刑事手続後の在留手続までワンストップで対応いたします。
結語
いつ戻れるのかという問いへの答えは、退去した日、退去の形式、事由の種類で決まります。すでに送還された方は出国日を裏づける資料を保管し、本国での生活実績を積み上げること。これから手続に直面する方は、退去強制そのものを避ける方向でできる限り早く動くこと。この2つが実際に取り得る行動です。
本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。
過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
執筆者
弁護士 松村大介(第一東京弁護士会・登録番号59077・2019年登録)。舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田)。注力分野は外国人刑事弁護、入管手続(退去強制・在留特別許可)、行政訴訟。最終更新:2026年8月。
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