勤務先への説明と解雇リスク|逮捕された社員と在留資格の実務
2026/08/23
本記事の要点
- 逮捕されただけで当然に解雇が有効となるわけではありません。起訴休職や自宅待機など、段階的な措置が先に検討されるのが通常です。
- いつ誰がどこまで会社に説明するかは、刑事手続の見通しと在留資格の維持を踏まえて設計します。
- 就労資格の方が退職した場合、所属機関に関する届出(入管法19条の16)の期限が進行し、活動の実体が失われれば在留資格の取消し(入管法22条の4)も問題となります。
- 不起訴処分を得られれば、復職の交渉も転職も在留資格の維持も進めやすくなります。結果は事案により異なります。
社員が逮捕されたという連絡が入ったとき、会社もご家族も、まず判断に迷うのが情報の扱いです。何も伝えなければ無断欠勤として処理され、詳しく伝えすぎれば未確定の事実が社内に広まります。中国本土のご家族からも、勤務先に連絡すべきかというご相談を頻繁にいただきます。
この記事では、説明のタイミングと範囲、解雇や休職をめぐる考え方、在留資格の届出と維持について整理します。労働契約や就業規則により扱いは異なりますので、実際の対応は個別にご確認ください。
刑事手続の流れと、会社が判断を迫られる時期
逮捕後48時間以内に検察官へ送致され、検察官は逮捕時から72時間以内に勾留を請求するかを判断します。勾留が決まれば原則10日、延長で最大20日。起訴されれば、保釈が認められない限りさらに続きます。会社から見れば最初の数日は連絡が取れないだけですが、2週間を超える不在は業務上の対応を迫られる長さです。最初の72時間で釈放の可能性を追えるかは、雇用の維持という観点でも大きな意味を持ちます。
説明のタイミングと範囲をどう設計するか
実務上は、弁護人が本人の意向を確認したうえで、必要最小限の事実を責任のある窓口へ適切な時期に伝えます。中心となるのは、身柄拘束により出社できないこと、見通しは未確定であること、連絡窓口は弁護人であることです。罪名や詳細を必要以上に開示すると、後に不起訴となっても社内での評価が戻りにくくなります。
- 報道が既に出ている場合は、事実関係の訂正が必要かどうかを含めて対応を検討します。
- 会社から事情聴取を求められた場合、内容が刑事手続に影響し得るため、弁護人と協議してから応じます。
- 本人が退職届の提出を求められた場合、拘束下で判断させることの当否を含め、慎重な検討が必要です。
解雇・休職をめぐる基本的な考え方
日本の労働法制では、解雇に客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が求められます。逮捕という事実だけで直ちに解雇が有効になるわけではなく、業務との関連性、企業の社会的信用への影響、勾留の長さ、他の措置の可能性が総合的に考慮されます。多くの就業規則には起訴された場合の休職規定が置かれ、まずこれが適用されます。不起訴や無罪判決の場合の取扱いも規定の有無を確認してください。
外国人事件に特有の在留資格上のリスク
就労資格をお持ちの方にとって、雇用の帰趨は在留資格の帰趨とほぼ重なります。退職すれば所属機関に関する届出(入管法19条の16)の期限が進行し、在留資格に応じた活動を行っていない状態が続けば在留資格の取消し(入管法22条の4)が問題となります。在留期間の更新は入管法21条に基づき審査され、安定した就労の継続と素行が判断材料です。拘束中に在留期間が満了すれば更新申請ができず、不法残留として入管法24条4号ロの退去強制事由に該当し得ます。
刑事処分との関係では、入管法24条4号リが無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者を退去強制事由としますが、但書により刑の全部の執行を猶予された者は除かれます。薬物関係の有罪は24条4号チに該当し、罰金でも執行猶予でも刑の免除でも該当します。資格外活動の罪により拘禁刑に処せられた場合は24条4号ヘが問題となります。
受入れ企業の側にも注意が必要です。不法就労助長は入管法24条3号の4に位置づけられ、行為のみで該当し刑事処罰を経ることを要しません。在留カードの確認と資格外活動許可の範囲の管理は、企業のリスク管理として不可欠です。なお、退去強制事由の該当性に故意・過失を要しないとされてきた運用に対し、当事務所は責任主義の射程を問う訴訟を提起し上訴審まで争ってきました。
不起訴処分の重要性
雇用を守る観点から見ても、起訴前に不起訴処分を得る意味は非常に大きいものです。起訴されなければ起訴休職の規定は発動せず、社内での説明も容易になります。有罪判決が存在しない以上、退去強制事由の該当性の議論にも入りません。他方、執行猶予付き判決でも、薬物事案などでは退去強制の対象となり得ます。
起訴前の弁護活動は、検察官との面談による処分見通しの把握、被害者がいる事案での被害弁償と示談、就労の継続可能性と生活の安定を示す意見書の提出が柱です。勤務先が復職を受け入れる意向を示していれば、その書面は処分の判断に影響し得る有力な資料です。
初動対応の3つのポイント
第一に黙秘権の行使です。会社に迷惑をかけたくないという思いから事実と異なる説明をすれば、その調書は刑事手続にも在留資格の審査にも残ります。第二に早期の弁護人選任です。会社との窓口を弁護人に一本化できれば、拘束下で不利な判断をする場面を減らせます。第三に通訳の質です。捜査機関が指定する通訳は捜査のために働き、依頼者本人のために働く通訳とは役割が異なります。業務内容や指揮命令関係の説明は専門的で、訳が粗いと事実関係が歪みます。
当事務所のご案内と解決事例
舟渡国際法律事務所は、外国人の刑事弁護と入管手続を中心に扱っています。参考として次の事例をご紹介します。
- 冤罪により不法就労助長罪に問われ強制退去の危機にあった女性の事案では、退去強制事由に故意・過失は不要とする従来の実務に対し責任主義の射程を問う訴訟を提起して上訴審まで争い、その後、入管から在留特別許可が認められました。
- 特殊詐欺の出し子に関与したとされた20代女性の事案では、指示役からの欺罔や脅迫的な状況、犯意の不存在を主張し、不起訴処分を獲得しました。
当事務所では、弁護士松村大介が初動の接見から公判の結審まで全工程を直接担当します。外国人事件に精通した中国語の専属通訳が常駐し、ご家族への報告も中国語で対応します。刑事手続後の在留資格は、提携する行政書士と連携してワンストップでお引き受けします。
結語
勤務先への説明は単なる連絡ではなく、雇用と在留資格の双方に効いてくる行為です。時期、相手、範囲を誤ると、後に不起訴を得ても元の生活に戻れない結果になりかねません。就業規則と雇用契約書、在留カードの期限をそろえ、会社へ連絡する前にご相談ください。
本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。
過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
執筆者
弁護士 松村大介(第一東京弁護士会・登録番号59077・2019年登録)。舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田)。注力分野は外国人刑事弁護、入管手続(退去強制・在留特別許可)、行政訴訟。最終更新:2026年8月。
舟渡国际法律事务所
网站:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
----------------------------------------------------------------------
舟渡国際法律事務所
住所 : 東京都豊島区高田3丁目4-10布施ビル本館3階
電話番号 :050-7587-4639
東京にて中国人の方をサポート
東京を中心に刑事事件の弁護
----------------------------------------------------------------------