中国の公証処による公証書|日本の刑事手続・入管手続での扱い
2026/08/23
本記事の要点
- 公証書があっても、そこに書かれた事実が日本の手続で自動的に認定されるわけではありません。
- 公証書の説得力は、公証処が何を確認して作成したのかによって変わります。
- 親族関係、婚姻状況、無犯罪記録などの公証書は、身分関係が争点となる場面で有効です。
- 委託公証は民事の代理に関する書面であり、これでご家族が刑事事件の弁護人選任を代行できるわけではありません。
中国では、公証処で公証を受けた書面は強い証明力を持つものとして扱われます。その感覚のまま日本の手続に臨まれると、公証書を出したのに認められなかった、という戸惑いが生じることがあります。
制度の違いを最初に理解しておくと、準備の方向を誤らずに済みます。ここでは、公証書がどう扱われるのか、どの種類がどの場面で効くのか、そして公証では代えられないものは何かを整理します。
日本の手続における公証書の位置づけ
日本の刑事手続では、検察官も裁判所も、提出された書面を証拠のひとつとして評価します。公証書であっても例外ではありません。記載された内容が真実であることを保証するものとして自動的に扱われるわけではありません。在留特別許可の判断では、書面に何と書いてあるかよりも、家族関係が実際に機能しているかどうかが見られます。公証書は単独で出すよりも、送金の記録や通信の履歴など、内容を裏づける生活の記録と組み合わせて出したほうが力を持ちます。
どの公証書が、どの場面で効くのか
- 親族関係公証書。身元引受や監督の体制を説明する場面、在留特別許可で家族関係が問題となる場面で用います。
- 婚姻状況公証書、結婚証の公証。配偶者としての在留資格が問題となる場面や、日本での婚姻手続の前提資料として用います。
最後の点は誤解が生じやすいので補足します。日本の刑事事件で弁護人を選任する権限はご本人にあり、ご家族が委託公証によってその権限を代行することはできません。ご家族ができるのは、費用負担者として契約に関与し、弁護士に接見を依頼することです。選任届への署名は接見の場でご本人からいただきますので、公証を待つ必要はありません。
想定される刑事手続の流れ
逮捕から48時間以内に検察官へ送致され、さらに24時間以内に勾留を請求するかどうかが決まります。合計72時間です。この間ご家族は面会できず、会えるのは弁護人だけです。この72時間に勾留の要否について裁判官へ意見を届けられるかどうかで、その後が変わります。
勾留が認められれば原則10日、延長で最大20日です。公証書の取得には、申請から交付まで日数がかかることがあります。どの書面を優先して取得するかを弁護人と決めておかなければ、間に合わない書面が出てきます。
外国人事件に特有のリスク
入管法24条は退去強制事由を号ごとに定めています。24条4号リは無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者を対象としますが、但書により刑の全部の執行を猶予された者は除かれます。一部猶予でも実際に服する部分が1年以下であれば同様です。
薬物関係の24条4号チは有罪判決があれば足り、罰金でも執行猶予でも該当します。この該当性は、その後の選択肢そのものを狭めます。入管法24条の3が定める出国命令は、24条4号ハからヨまでのいずれにも該当しないことを要件のひとつとしており、薬物に該当する方はこの制度を利用できません。自ら出頭して短期間で出国し、上陸拒否期間を短く抑えるという道が閉ざされるということです。
在留期間の更新(入管法21条)は裁量処分であり、事件の存在は素行の評価として審査に入ります。届出義務違反などがあれば22条の4による在留資格の取消しも問題となります。なお実務は、退去強制事由の判断に故意や過失を要しないとしてきました。当事務所は、責任主義の射程を問う訴訟を担当してきました。
不起訴処分の重要性
公証書をどれだけ丁寧に整えても、有罪判決が生じれば、書面の内容とは無関係に働く規定があります。不起訴であれば有罪判決が存在せず、4号リも4号チも問題になりません。執行猶予でも退去強制事由に該当する薬物事犯のような類型が現に存在し、有罪判決の存在自体が後の更新や変更の審査で不利に働きます。
弁護人は、検察官との面談、示談、犯意や関与の程度を争う意見書の提出、生活環境の整備を、起訴の判断が下りる前に集中して行います。公証書は、この意見書を支える資料として位置づけられます。
初動でおさえる3つのこと
- 黙秘権。中国で書面を整えている数日のあいだにも、日本では取調べが進みます。通訳を介した供述が日本語の調書として固定されると、後から動かすことは容易ではありません。
- 弁護人選任の早さ。国選弁護人は勾留決定の後に選任されるため、最初の72時間には存在しません。この空白を埋められるのは私選の弁護人だけで、ご家族からのお申込みで選任できます。
- 通訳の質。取調べの通訳人は捜査機関が手配します。依頼者のために働く通訳は、弁護方針を理解したうえで、頼まれたのか指示されたのか、預かったのか受け取ったのかを訳し分けます。この差が犯意の評価に直結します。
当事務所のご案内と解決事例
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田)は、外国人の刑事弁護と入管手続を中心に取り扱っています。
- 冤罪により不法就労助長罪に問われ強制退去の危機にあった女性の事案では、退去強制事由に故意も過失も不要とする従来の実務に対し、責任主義の射程を問う訴訟を上訴審まで争い、その後、入管から在留特別許可が認められました。
- 特殊詐欺の受け子として複数回にわたり再逮捕された事案では、取調べ対応の方針を固め、関与の実態と犯意について主張立証を尽くし、全件について不起訴処分を得ました。
- 取り込み詐欺の被害に遭った卸業の依頼者について、刑事告訴を端緒として相手方を特定し、7,500万円の解決金を獲得しました。関係書類を丹念に集めて事実を組み立てた事案です。
ご依頼いただいた事件は、弁護士松村大介が初動の接見から公判の結審まで全工程を直接担当し、事務員や若手弁護士による代行はありません。外国人事件に精通した中国語の専属通訳が常駐し、接見にも同行します。刑事手続後の在留資格は、提携する行政書士とともにワンストップで対応します。
結語
公証書は、日本の手続でも確かに役に立ちます。ただし、それは万能の証明書ではなく、事実を裏づける資料のひとつです。どの公証書を、どの場面のために、いつまでに取得するのか。この三つを決めてから動けば、限られた時間と費用を無駄にせずに済みます。
本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
執筆者
弁護士 松村大介。第一東京弁護士会所属、登録番号59077、2019年登録。舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田)。注力分野は外国人の刑事弁護、入管手続(退去強制、在留特別許可)、行政訴訟。最終更新:2026年8月。
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