不正アクセス禁止法とアカウントの売買|他人のIDでログインした行為が在留資格に及ぼす影響
2026/08/19
本記事の要点
- 他人のIDとパスワードを用いてログインする行為は、金銭的な利益を得ていなくても不正アクセス禁止法違反として立件されます。
- アカウントの売買や譲渡は、ログインの有無を問わず、識別符号の不正な取得・提供・保管として処罰の対象になります。
- 入管法24条4号リは無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者を退去強制事由としますが、但書により刑の全部の執行を猶予された者は除外されます。
- 起訴前の段階で不起訴処分を得られるかどうかが、その後の在留の帰趨を実質的に決めます。
使っていない微信やゲームのアカウント、あるいはインターネットバンキングのIDを、頼まれて知人に渡した。報酬を受け取って第三者に譲った。こうした行為は、本人の感覚では「たいしたことではない」と受け止められがちです。しかし日本の法律は、他人の識別符号を用いたアクセスと、その識別符号の流通そのものを、独立した犯罪として明確に禁じています。
外国籍の方の場合、事件は刑事手続の中だけで完結しません。捜査機関の記録は在留審査に持ち込まれ、更新や変更の判断材料になります。この記事では、アカウントをめぐる事件がどのように立件され、どこで在留資格に接続するのかを整理します。
想定される刑事手続の流れ
端緒は被害者の相談や事業者の通報であることが多く、捜査機関はまず接続元の記録を保全します。通信記録の照会には時間がかかるため、行為から相当の期間が経ってから連絡が来ることも珍しくありません。最初の接触が任意の出頭要請であっても、そこで説明した内容は書面に残ります。
逮捕された場合、警察は48時間以内に検察官へ身柄を送致し、検察官は24時間以内かつ逮捕から72時間以内に勾留を請求するかを判断します。この72時間は、家族も面会できず、本人が孤立したまま最も重要な供述が形づくられる時間です。勾留が決まれば10日間、延長されればさらに10日間拘束が続き、その間に処分が検討されます。
不正アクセス行為そのものは3年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金、識別符号の不正な取得・保管・提供などは1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金です。アカウントの売買は詐欺や犯罪収益に関わる法令違反と併せて立件されることが多く、その場合は全体の評価が一段重くなります。
外国人事件特有のリスク
まず押さえるべきは入管法24条4号リです。同号は「無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者」を対象としますが、但書があり、刑の全部の執行を猶予された者は除外されます。一部猶予でも実際に服する部分が1年以下であれば同様です。したがって「執行猶予でも4号リに当たる」という説明は正確ではありません。誤解したまま帰国の準備を始める方が少なくないため、注意が必要です。
退去強制事由に該当しないことと、在留が続くこととは別問題です。在留期間更新(入管法21条)の許否には広い裁量があり、素行の善良性が正面から審査されます。刑事事件の存在は、罰金や執行猶予でも更新の場面で不利に働きます。留学や就労の資格をもつ方が本来の活動を行わず転売等に専従していたと評価されれば、資格外活動として在留資格の取消し(同法22条の4)の検討対象にもなります。
退去強制事由の判断について、実務は長く故意や過失を要しないという立場をとってきました。当事務所は、この扱いが責任主義の観点から維持できるのかを問う訴訟を担当し、上訴審まで争ってきました。名義を貸しただけという事案では、この視点が具体的な主張になります。
不起訴処分の重要性
在留を守る観点からは目標が明確です。有罪判決を避けること、そのために起訴前に不起訴処分を獲得することです。執行猶予付きの判決でも前科として記録に残り、更新審査で説明を求められます。類型によっては執行猶予でも退去強制の対象となり得るものがあり、判決を待つという発想自体が危険です。
起訴前にできることは具体的です。被害者が特定できる事案では謝罪と被害弁償を進め、示談の成立を目指します。アカウントを渡した経緯について、報酬の有無、勧誘の態様、断りにくい関係性の有無を整理し、故意の内容と関与の程度を検察官に伝えます。加えて、在留資格への影響や就学・就労の状況を資料とともに意見書にまとめ、検察官面談を求めて口頭でも説明します。
初動対応の3つのポイント
第一に、黙秘権の行使です。技術的な用語が飛び交う取調べでは、記憶が曖昧な部分を推測で答えてしまい、それが確定的な自白として調書に残ることがあります。方針が定まるまで話さないという選択は、正当な権利の行使です。
第二に、早期の弁護人選任です。通信記録の保全期間や被害者との連絡可能性を考えると、動き出しの早さが結果に直結します。逮捕前に相談できていれば、任意の段階で説明の枠組みを整えられます。
第三に、通訳の質です。捜査機関が手配する通訳人は捜査の進行のために置かれた存在であり、微妙な言い回しの含みまで依頼者の利益のために配慮する立場にはありません。弁護人が同行させる通訳は、依頼者本人のために動きます。アカウントの管理権限や同意の有無といった、一語の訳で結論が変わる争点では、この差が決定的です。
当事務所のご案内と解決事例
舟渡国際法律事務所の関連する解決事例をご紹介します。
- 特殊詐欺の受け子に関与したとされ、複数回にわたって再逮捕された事案について、取調べ対応を一貫して管理し、関与の実態と認識の内容を主張立証して、全件について不起訴処分を獲得しました。
- Facebook上でなりすましアカウントを作られた被害について、仮処分の手続によりアカウントの削除を実現しました。アカウントの帰属や本人性が争点となる手続に、双方の立場から関与してきた経験があります。
- 観光目的で来日した後に在留資格を失い、不法滞在で起訴された方について、婚姻と認知を成立させ、国籍国の公的書類がほとんど得られない状況下で有利な資料を積み上げ、1回の申請で在留特別許可を獲得しました。
当事務所では、弁護士松村大介が初動の接見から公判の結審まで全工程を直接担当し、事務員や若手弁護士が代わりに接見に行くことはありません。外国人事件に精通した中国語専属の通訳が常駐し、接見にも打合せにも同席します。提携行政書士による在留資格サポートも備え、刑事手続後の更新や在留特別許可の申請までワンストップで対応できます。
結語
アカウントは、本人にとっては数字と文字の並びにすぎません。しかし法的には他人の領域に入る鍵であり、その流通は独立して禁じられています。渡した理由も、断れなかった事情も、放っておけば誰も語ってくれません。最初の72時間のうちに体制を整えてください。
本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
執筆者
弁護士 松村大介。第一東京弁護士会所属、登録番号59077、2019年登録。舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田)。注力分野は外国人刑事弁護、入管手続(退去強制・在留特別許可)、行政訴訟。最終更新:2026年8月。
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