無車検・無保険での運行|自動車損害賠償保障法違反と外国籍の方が負う二重の負担
2026/08/19
本記事の要点
- 車検が切れた車を公道で運行すれば道路運送車両法違反となり、6月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金の対象となる。
- 自賠責保険が切れた状態での運行は自動車損害賠償保障法違反であり、1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金とより重い。
- 無保険の状態で事故を起こせば賠償を自己負担することになり、示談が成立せず不起訴が遠のく。
- 名義変更をしないまま譲り受けた車が原因となる事案が多く、譲渡の場面での確認が後の刑事責任を分ける。
同郷の知人から安く車を譲ってもらった。名義変更はいずれやればよいと言われた。車検証の中身を確認したことはない。日本で生活する外国籍の方から、こうした経緯の相談を受けることは少なくありません。そして検問や事故をきっかけに、車検も自賠責保険も切れていたことが判明します。
この類型は、悪質性の高い犯罪とは異なる顔をしています。しかし法定刑には拘禁刑が定められており、事故が絡めば賠償の面で生活設計そのものが崩れかねません。
無車検運行と無保険運行はどう違うのか
自動車検査証の有効期間が切れた車を公道で運行することは、道路運送車両法が禁じています。違反すれば6月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金です。他方、自動車損害賠償責任保険は被害者救済のために加入が強制されている保険であり、有効な契約がない状態で運行すれば自動車損害賠償保障法違反となり、1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金という、無車検よりも重い法定刑が適用されます。
車検と自賠責は有効期間が連動していることが多く、車検切れの車は自賠責も切れているのが通常です。この場合、両方の違反が同時に成立し、点数は合計されて免許停止に至ります。実務上の争点は故意の有無です。無車検運行は故意犯であり、車検切れを認識していなければ成立しません。ただし車検証を見ていないという事情がそのまま故意の否定につながるとは限らず、譲渡の経緯を客観的な資料とともに示す作業が必要です。
事故が起きた場合の深刻さ
無保険の状態で人身事故を起こせば、被害者への賠償は原則として自己負担です。任意保険にも加入していなければ、治療費、休業損害、慰謝料のすべてを本人が負担します。政府保障事業という制度は存在しますが、これは被害者を救うためのものであり、支払われた分は加害者に求償されます。
想定される刑事手続の流れ
事故を伴う場合や他の違反が重なる場合には現行犯逮捕がありえます。逮捕されれば、警察は48時間以内に事件を検察官に送致し、検察官は24時間以内に勾留を請求するか釈放するかを決めます。この72時間で、その後の身柄の見通しが決まります。
逮捕されない場合でも、任意の取調べのために呼び出されます。この段階で「車検が切れていることは知っていた」と述べれば故意が認定され、事実上、争点は消えます。呼出しを受けた時点で、まず弁護人に相談すべきです。
外国人事件特有のリスク
入管法24条4号リは無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者を退去強制事由としますが、但書により刑の全部の執行を猶予された者は除かれます。無車検・無保険運行が単独で問題となる事案では多くが罰金で処理されるため、この号に直ちに該当することはありません。
しかし、事故を伴い過失運転致死傷が加われば量刑は一段と重くなり、実刑の可能性が出てきます。さらに飲酒や無免許が重なれば、危険運転致死傷(自動車運転死傷処罰法2条・6条1項)として入管法24条4号の2が列挙する重大犯罪の枠組みで検討される場面もあります。
加えて、在留期間の更新(入管法21条)は裁量による許可であり、素行の善良性が重要な考慮要素です。無保険運行は責任を取れない状態で運転していたという評価を受けやすい類型です。長期の身体拘束や解雇により、在留資格に対応する活動を3か月以上行わない状態になれば、在留資格の取消し(入管法22条の4)も問題となりえます。なお実務は長く、退去強制事由の該当性に故意・過失を要しないという前提をとってきました。当事務所はこれに対し、責任主義の射程を問う訴訟を提起し上訴審まで争ってきました。
不起訴処分の重要性
前科を残さない唯一の道は不起訴処分です。他方、薬物事犯のように有罪判決そのものが退去強制事由となる類型(入管法24条4号チ)があり、この場合は罰金でも執行猶予でも該当します。
この類型で不起訴を目指す活動は次のようなものです。譲渡の経緯を示す資料の収集と、故意を否定する主張の構成。車検と自賠責の即時の付保と、その証明の提出。車両の使用停止または処分。被害者がいる場合の示談交渉と、現実的な賠償計画の提示。そして検察官との面談と意見書の提出です。
初動対応の3つのポイント
第一に、黙秘権の行使です。故意の有無が争点となる類型では、取調べでの一言が決定的です。「たぶん切れていると思っていた」という程度の発言が、認識ありと評価されることがあります。
第二に、早期の弁護人選任です。逮捕直後の72時間は国選弁護人が付かない時間帯です。逮捕されない事案でも、最初の取調べの前に方針を固めておくかどうかで結論が変わります。
第三に、通訳の質です。捜査機関が手配する通訳人は捜査を進めるために置かれた存在であり、依頼者本人のために動く通訳とは役割が違います。当事務所は日本固有の制度を理解した中国語専属通訳を弁護活動に組み込んでいます。
当事務所のご案内と解決事例
- 取り込み詐欺の被害に遭った卸業の依頼者につき、刑事告訴を端緒として相手方を特定し、7,500万円の解決金を獲得しました。刑事と民事を組み合わせる経験は、賠償が争点となる事案でも活きています。
- 特殊詐欺の出し子(現金自動預払機から金銭を引き出す役割を指す用語)に関わったとされた20代女性の事案では、指示役からの欺罔や脅迫的な状況、犯意の不存在を主張し、不起訴処分を獲得しました。
- 観光目的で来日し日本人女性との間に子を授かったものの在留資格を失い、不法滞在で起訴された事案では、婚姻と認知を成立させ、1回の申請で在留特別許可を得ました。
ご依頼をお受けした事件は、舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田)の弁護士松村大介が初動接見から公判結審まで全工程を直接担当し、事務員や若手弁護士による代行は行いません。外国人事件に精通した中国語専属通訳が常駐し、接見にも同行します。刑事手続後の在留資格は、提携行政書士と連携してワンストップで対応します。
おわりに
この類型は、「知らなかった」という言葉だけでは前に進みません。譲渡の経緯を丁寧に立証すれば、故意の認定が動く余地は十分にあります。車検証や保険の書類、譲渡人とのやり取りの記録は保管しておいてください。
本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
執筆者
弁護士 松村大介(第一東京弁護士会・登録番号59077・2019年登録)。舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田)。注力分野は外国人刑事弁護、入管手続(退去強制・在留特別許可)、行政訴訟。最終更新:2026年8月。
舟渡国际法律事务所
网站:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
----------------------------------------------------------------------
舟渡国際法律事務所
住所 : 東京都豊島区高田3丁目4-10布施ビル本館3階
電話番号 :050-7587-4639
東京にて中国人の方をサポート
東京を中心に刑事事件の弁護
----------------------------------------------------------------------