過失運転致傷とひき逃げが併合されるとき|量刑と在留資格への影響
2026/08/19
本記事の要点
- 過失運転致傷罪(自動車運転死傷処罰法5条)は7年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金で、傷害が軽いときは情状により刑を免除できます。
- これに道路交通法の救護義務違反(いわゆるひき逃げ)が加わると、評価は一変します。運転者の運転に起因して人を死傷させた場合の救護義務違反は10年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金です。
- 両者が併合罪となる事案では、単なる事故とは異なる重い量刑判断がなされ、実刑の可能性が現実的になります。
- 入管法24条4号リには但書があり、刑の全部の執行を猶予された者は除外されますが、1年を超える実刑となれば退去強制事由に該当します。
パニックになってその場を離れてしまった。相手が立ち上がっていたので大丈夫だと思った。ひき逃げ事件のご相談で最も多く聞くのは、こうした説明です。しかし日本の道路交通法は、事故があれば直ちに停止し、負傷者を救護し、警察官に報告することを運転者に義務づけています。
そして外国人の方の場合、この事件は在留資格の問題に直結します。実刑となるか執行猶予となるかが、日本での生活を続けられるかどうかの分岐点になるためです。
ふたつの罪が併合されるということ
過失運転致傷罪は、自動車の運転上必要な注意を怠り人を負傷させた場合に成立し、7年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金が定められています。単独であれば不起訴や罰金にとどまる事案も少なくありません。
これに対し、救護義務違反は別の罪です。道路交通法72条1項は、交通事故があったときに直ちに運転を停止し負傷者を救護すること、そして警察官に報告することを義務づけています。運転者の運転に起因して人を死傷させた場合の救護義務違反は、10年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金です。両罪が併合罪として処理されると、量刑の枠組み自体が重くなります。争点になるのは、事故の認識があったかどうか、すなわち人と接触したことを認識しながら現場を離れたといえるかです。
逮捕から勾留決定までの72時間
身柄を拘束されると、48時間以内に検察官へ送致され、その後24時間以内に勾留請求の可否が判断されます。ひき逃げ事件では、逃亡と罪証隠滅のおそれが強く主張され、勾留が認められやすい傾向にあります。
この72時間では、ドライブレコーダー、防犯カメラ、車両の損傷状況といった客観証拠の所在を確認することが重要です。あわせて、被害者の負傷の程度と治療状況を早期に把握します。
外国人事件特有のリスク|入管法を号ごとに読む
入管法24条4号リは、無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者を退去強制事由としますが、但書により刑の全部の執行を猶予された者は除外されます。一部猶予でも実刑部分が1年以下であれば除外です。過失運転致傷と救護義務違反が併合される事案では、1年を超える実刑となる可能性が現実にあり、この号が正面から問題になります。
なお、24条4号の2は一定の重大犯罪を列挙した号であり、危険運転致死傷(自動車運転死傷処罰法2条・6条1項)や盗難特定金属製物品処分防止法22条の罪が含まれています。過失運転致傷はこの列挙のなかにはありません。号ごとに対象が異なりますから、自分の事案がどの号の射程にあるのかを正確に確認する必要があります。身柄拘束が長引き在留期限を過ぎれば24条4号ロの不法残留、留学の資格で就労に専従していれば24条4号イ、資格外活動の罪により拘禁刑に処せられれば同4号ヘです。薬物事犯の24条4号チは有罪判決さえあれば罰金でも執行猶予でも該当します。
有罪判決に至れば、在留期間更新(入管法21条)の審査で素行が問われ、在留資格の取消し(同22条の4)も視野に入ります。なお、退去強制事由の該当性判断に故意・過失を要しないとされてきた実務に対し、当事務所は責任主義の射程を問う訴訟を提起し、上訴審まで争ってきました。
不起訴処分の重要性
執行猶予でも退去強制事由に該当する類型が現に存在する以上、判決の見通しだけに頼ることはできません。この類型で最も安定した出口は、起訴前に不起訴処分を得ることです。弁護人は、被害者との示談交渉を進めます。任意保険からの支払とは別に、被害感情に応じた解決を図ることが要点です。加えて、事故の認識がなかったといえる事情を客観証拠から積み上げ、検察官との面談で説明します。
初動対応の3つのポイント
第一に、黙秘権の行使です。この類型では、気づいていたのではないかという追及が繰り返されます。曖昧な記憶のまま認める方向の供述をすると、後から覆すことは極めて困難です。
第二に、早期の弁護人選任です。示談交渉は時間がかかり、映像記録は上書きで失われます。逮捕直後から動き始める必要があります。
第三に、通訳の質です。事故態様の説明には、日本語の交通用語が数多く登場します。徐行、優先、見通し、といった語の理解がずれたまま供述すれば、過失の内容そのものが誤って記録されます。捜査機関が指定する通訳人は捜査手続のために置かれた存在であり、依頼者本人のために言葉を尽くす立場ではありません。弁護人が同行させる通訳は依頼者本人のために動きます。当事務所には外国人事件に精通した中国語専属通訳が常駐しています。
当事務所のご案内と解決事例
舟渡国際法律事務所では、弁護士 松村大介が初動接見から公判結審まで全工程を直接担当します。事務員や若手弁護士による代行はいたしません。中国語専属通訳が常駐し、提携行政書士による在留資格サポートで、刑事手続後の在留期間更新や在留特別許可申請までワンストップでご対応します。
特殊詐欺の出し子に関わったとされた20代女性の事案では、指示役からの欺罔や脅迫的状況、犯意の不存在を主張し、不起訴処分を獲得しました。認識の有無が争点になる事案において、経緯と客観資料から内心を立証していく手法は、ひき逃げの事案にも通じます。
また、当事務所は過去の逮捕報道・前科報道の削除に成功した実績を有しています。交通事故が報道された場合、処分が終わった後も情報が残り、就職や在留資格の場面で影響します。さらに、在留資格を失い不法滞在で起訴された方の事案では、婚姻と子の認知を成立させ、国籍国の公的書類がほとんど存在しない状況下で有利な証拠を積み上げ、1回の申請で在留特別許可を獲得しています。
結語
その場を離れてしまったという一瞬の判断が、事故そのものよりも重い結果を招くことがあります。まだ警察から連絡が来ていない段階であっても、自分から名乗り出るかどうかを含めて、弁護人と相談しながら判断してください。順序を整えるだけで、見通しは変わります。
本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。
過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
執筆者
弁護士 松村大介(第一東京弁護士会・登録番号59077・2019年登録)。舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田)。注力分野は外国人刑事弁護、入管手続(退去強制・在留特別許可)、行政訴訟。最終更新:2026年8月。
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