侮辱罪の厳罰化と外国人事件|ネット上の一言が前科になる時代
2026/08/19
本記事の要点
- 令和4年の刑法改正により、侮辱罪(刑法231条)の法定刑は1年以下の拘禁刑若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料へと引き上げられ、公訴時効も3年になりました。
- これにより、侮辱罪は逮捕・勾留の対象となりうる犯罪へと性質が変わりました。たかが侮辱という理解は通用しません。
- 侮辱罪は親告罪です。告訴がなければ起訴できないため、被害者との示談と告訴取消しが処分に直結します。
- 入管法24条4号リには但書があり、刑の全部の執行を猶予された者は退去強制事由から除外されます。ただし罰金前科は在留期間更新(21条)の審査で説明を要する事実として残ります。
SNSのコメント欄に、感情のままに相手を罵る言葉を書き込んだ。同郷のグループチャットで、ある人物について侮辱的な表現を繰り返した。日本では、こうした行為が侮辱罪として立件され逮捕に至ることがあります。
令和4年の刑法改正が転換点でした。それまでの侮辱罪は拘留又は科料という極めて軽い法定刑にとどまり、身柄拘束の対象になりにくい犯罪でした。改正後は1年以下の拘禁刑が加わり、逮捕と勾留が現実の可能性となりました。
侮辱罪と名誉毀損罪はどこが違うのか
刑法231条の侮辱罪は、事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した場合に成立します。これに対して名誉毀損罪は、公然と事実を摘示して人の名誉を毀損した場合に成立し、法定刑はより重くなります。単なる罵倒であれば侮辱罪、具体的な事実を述べて相手の評価を下げていれば名誉毀損罪の領域です。名誉毀損罪には公共の利害に関する場合の特則がありますが、侮辱罪にはそのような明文の免責構造がなく、弁護の組み立て方が異なります。公然性も争点になり、限定されたグループチャットの場合は、参加人数、参加者の入替りの容易さ、転送の可能性などから判断されます。
逮捕から勾留決定までの72時間
侮辱罪で身柄を拘束された場合も、手続の流れは同じです。48時間以内に検察官へ送致され、その後24時間以内に勾留請求の可否が決まります。この類型では、押収された携帯電話やパソコンの解析が捜査の中心です。投稿の履歴、削除したメッセージ、複数アカウントの使用状況まで確認され、供述が客観的な記録と食い違えば信用性が損なわれます。あわせて、在留カード、賃貸借契約、雇用契約、家族の在住状況といった資料を弁護人が集め、勾留請求前に検察官へ、勾留質問前に裁判官へ提出することで、判断が変わる可能性があります。
親告罪であることを踏まえた解決の設計
侮辱罪は親告罪であり、告訴がなければ公訴を提起できません。被害者と合意に達し告訴が取り消されれば、不起訴という結論に至ります。示談交渉で整えるべき要素は金銭の支払だけではなく、投稿の削除、今後の接触や言及をしない約束、必要に応じた謝罪文、宥恕の文言、告訴取消しの意思表示に及びます。被害者の連絡先は捜査機関が被害者の同意を得たうえで弁護人にのみ伝えるのが通例であり、ご本人やご家族が直接接触すれば罪証隠滅を疑われます。
外国人事件特有のリスク|入管法上の位置づけ
入管法24条4号リは無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者を対象としますが、但書により刑の全部の執行を猶予された者は除外されます。侮辱罪の法定刑は1年以下ですから、この号に該当する余地は構造上ほとんどありません。しかし、それは在留が安泰だという意味ではありません。罰金前科がつけば、入管法21条の在留期間更新の審査で説明を求められる事実として残ります。在留資格の取消し(同22条の4)は、活動の不実施や申請時の虚偽が絡む場合に問題となります。
身柄拘束が長引き在留期限を過ぎれば24条4号ロの不法残留に至ります。留学生が学業を離れて就労に専従していれば24条4号イ、資格外活動の罪により拘禁刑に処せられれば同4号ヘです。薬物事犯の24条4号チは、有罪判決さえあれば罰金でも執行猶予でも該当します。加えて、退去強制事由の該当性に故意・過失は不要とされてきた実務に対し、当事務所は責任主義の射程を問う訴訟を提起し、上訴審まで争ってきました。
不起訴処分の重要性
薬物事犯のように、罰金でも執行猶予でも退去強制事由に該当する類型がある以上、判決さえ軽ければよいという考え方は成り立ちません。したがって目指すべきは不起訴処分です。弁護人が行うのは、投稿の削除と拡散状況の確認、被害者との示談交渉、告訴取消しに向けた調整、検察官との面談です。
初動対応の3つのポイント
第一に、黙秘権の行使です。侮辱罪では、その言葉を書いたのが誰か、どのような意図であったか、公然性の認識があったかが争点になります。方針を決めないまま説明を重ねることは危険です。
第二に、早期の弁護人選任です。勾留期間内に間に合わせるには、逮捕直後から動き出す必要があります。
第三に、通訳の質です。侮辱罪は言葉そのものが構成要件事実である以上、翻訳が結論に直結します。中国語には日本語に一対一で対応しない罵倒表現が多く、訳語が強すぎれば実際以上に悪質な事案に見えてしまいます。捜査機関の通訳人は捜査手続のために置かれた存在であり、依頼者本人のために言葉を尽くす立場ではありません。弁護人が同行させる通訳は依頼者本人のために動き、訳語の適否そのものを検討できます。当事務所には外国人事件に精通した中国語専属通訳が常駐しています。
当事務所のご案内と解決事例
舟渡国際法律事務所では、弁護士 松村大介が初動接見から公判結審まで全工程を直接担当いたします。事務員や若手弁護士による代行はいたしません。中国語専属通訳が常駐し、提携行政書士による在留資格サポートにより、刑事手続後の在留期間更新や在留特別許可の申請までワンストップでご対応します。
関連する実績として、海外のSNSでの侮辱被害について、インターポールを経由して刑事告訴が受理された事案があります。また、インターネット上の誹謗中傷被害について解決金5,000万円で解決に至った事案があり、賠償額がどう形成されるのかを把握していることは、加害者側で示談条件を設計する際に直接役立ちます。
さらに、過去の逮捕報道・前科報道の削除に成功した事案があります。加えて、冤罪により不法就労助長罪に問われ強制退去の危機にあった女性の事案では、責任主義の射程を問う訴訟を提起して上訴審まで争い、その後入管から在留特別許可が認められています。
結語
感情の高ぶりのなかで書いた一行が、逮捕と前科を招き、在留の更新に影を落とす。厳罰化は、その距離を大きく縮めました。すでに書き込んでしまった方は、投稿を慌てて消したり関係者に連絡したりする前に、まず弁護人にご相談ください。
本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。
過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
執筆者
弁護士 松村大介(第一東京弁護士会・登録番号59077・2019年登録)。舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田)。注力分野は外国人刑事弁護、入管手続(退去強制・在留特別許可)、行政訴訟。最終更新:2026年8月。
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