偽計業務妨害とインターネット上の投稿|口コミ・SNSが刑事事件になるとき
2026/08/19
本記事の要点
- 偽計業務妨害罪(刑法233条)は、虚偽の風説を流布し又は偽計を用いて業務を妨害する行為を処罰します。法定刑は3年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金です。
- 口コミサイトの投稿、SNSの書き込み、動画の公開が、虚偽の内容を含み店舗や企業の業務に影響を及ぼした場合、この罪で立件されることがあります。
- 投稿を削除しても捜査は終わりません。プラットフォームには通信記録が残り、発信者情報開示や捜査関係事項照会を通じて投稿者が特定されます。
- 入管法24条4号リには但書があり、刑の全部の執行を猶予された者は退去強制事由から除外されます。もっとも在留期間更新(21条)や在留資格取消し(22条の4)は別の問題です。
- 被害企業からは刑事とは別に民事の損害賠償請求を受けることがあり、両者を一体で解決する設計が要ります。
退職した会社について虚偽の書き込みをした。同郷のコミュニティ向けのSNSグループに、ある店について根拠のない情報を流した。こうした行為が偽計業務妨害として捜査の対象になることは、実際に起きています。
日本語以外の言語で書かれた投稿だから捜査されない、中国のアプリだから日本の警察には見えない、といった見立ては正確ではありません。
偽計業務妨害はどのような行為を処罰するのか
刑法233条は、虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害する行為を処罰します。ネット上の投稿では虚偽の風説の流布が中心です。実際には起きていない出来事を体験談として書く、事実の一部だけを取り出して全体像を歪める。これらが業務に影響を与えた場合に成立が検討されます。争点は、何が事実の摘示か、その内容が虚偽か、妨害の危険が生じたかに集約されます。
投稿者はどのように特定されるのか
投稿を削除すれば足りるというのは誤解です。プラットフォーム側にはアクセスログが保存されており、捜査機関は捜査関係事項照会や令状によって記録を取得できます。海外のサービスだから安全だという前提は成り立ちません。
逮捕から勾留決定までの72時間
この類型では突然の逮捕から始まることもあります。逮捕された場合、48時間以内に検察官へ送致され、その後24時間以内に勾留請求の可否が判断されます。とりわけ問題になるのが押収された携帯電話です。投稿に使った端末は差し押さえられ、SNSのやり取り、検索履歴、削除済みデータの復元まで解析の対象になりえます。何を話し何を話さないかを弁護人と決めてから臨むことが不可欠です。あわせて、定住実績、家族の状況、勤務先、賃貸借契約といった資料を弁護人が早期に集め、勾留請求前に検察官へ、勾留質問前に裁判官へ提出します。
外国人事件特有のリスク|入管法の各号を正確に読む
入管法24条4号リは無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者が対象ですが、但書により刑の全部の執行を猶予された者は除外されます。偽計業務妨害の法定刑は3年以下ですので、この号に直接該当する事案は限られます。他方、身柄拘束が長期化して在留期限を徒過すれば24条4号ロの不法残留です。留学生が学業を離れて就労に専従していれば24条4号イ、資格外活動の罪により拘禁刑に処せられれば同4号ヘが問題になります。薬物事犯の24条4号チは、有罪判決さえあれば罰金でも執行猶予でも該当するという点で他と異なります。
この類型で実際に重くのしかかるのは、入管法21条の在留期間更新です。就労資格の場合、勤務先とのトラブルが原因で事件化していると、雇用関係の継続そのものが失われ、活動の実態がないと判断されるおそれがあります。在留資格の取消し(同22条の4)も視野に入ります。なお、退去強制事由の該当性判断に故意・過失を要しないとされてきた実務に対し、当事務所は責任主義の射程を問う訴訟を提起し、上訴審まで争ってきました。
不起訴処分の重要性と、民事との一体的な解決
薬物事犯のように執行猶予でも退去強制事由に該当する類型がある以上、判決で猶予を得れば在留は安全だという理解は成り立ちません。前科を作らないこと、すなわち起訴前の不起訴処分が最も安定した出口です。この類型の特徴は、刑事と民事が同時に走ることです。刑事の示談だけを先に済ませて民事が残ると解決にならず、民事の賠償と刑事の宥恕を一つの合意にまとめられれば双方が同時に片づきます。弁護人としては、投稿の削除、訂正文の掲載の要否、賠償額、清算条項、再発防止の約束を一体で組み立て、被害企業側の代理人と交渉します。あわせて検察官との面談を求め、投稿に至った経緯、認識の内容、被害回復の状況、在留への影響を意見書として提出します。
初動対応の3つのポイント
第一に、黙秘権の行使です。この類型では、投稿内容が虚偽であることを知っていたか、業務を妨害する認識があったかという内心が最大の争点になります。ここで曖昧な説明をすることの危険は、他の類型より大きいといえます。
第二に、早期の弁護人選任です。国選弁護人の選任を待つと、最も重要な期間の主導権を失います。
第三に、通訳の質です。中国語で書かれた投稿を捜査機関側の通訳が日本語に訳した文言が、そのまま証拠として扱われます。捜査機関が指定する通訳人は捜査手続のために置かれた存在であり、依頼者本人のために働く立場ではありません。弁護人が同行させる通訳は依頼者本人のために動きます。当事務所には外国人事件に精通した中国語専属通訳が常駐しており、投稿の訳文の妥当性まで含めて検討します。
当事務所のご案内と解決事例
舟渡国際法律事務所では、弁護士 松村大介が初動接見から公判結審まで全工程を直接担当します。事務員や若手弁護士による代行はいたしません。中国語専属通訳が常駐し、提携行政書士による在留資格サポートで、刑事手続後の在留期間更新や在留特別許可申請までワンストップでご対応します。
インターネット関連の実績として、インターネット上の誹謗中傷被害について、解決金5,000万円で解決に至った事案があります。また、Facebookのなりすましアカウントについて仮処分により削除を実現した事案があり、プラットフォームに対してどの手続をどの順序で用いるかという実務知識は、加害者側で削除対応を進める場面でも直接役立ちます。
さらに、過去の逮捕報道や前科報道の削除に成功した事案もあります。処分の獲得と報道の後始末を一続きの課題として扱うことができます。
結語
ネット上の数行が、逮捕、前科、在留資格の喪失にまでつながることがあります。ただし、端末の初期化、慌てての削除、関係者への口裏合わせの依頼は、罪証隠滅と評価され事態を悪化させます。まず弁護人にご相談ください。
本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。
過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
執筆者
弁護士 松村大介(第一東京弁護士会・登録番号59077・2019年登録)。舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田)。注力分野は外国人刑事弁護、入管手続(退去強制・在留特別許可)、行政訴訟。最終更新:2026年8月。
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