舟渡国際法律事務所

取調べ受忍義務論と外国人被疑者|取調べ室に行かなければならないのか

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取調べ受忍義務論と外国人被疑者|取調べ室に行かなければならないのか

取調べ受忍義務論と外国人被疑者|取調べ室に行かなければならないのか

2026/08/18

本記事の要点

  • 身柄を拘束された被疑者に取調べを受ける義務があるかどうかは、学説上の対立が続いている論点である。
  • いずれの立場に立っても、質問に答える義務がないこと、すなわち黙秘権が保障されることに変わりはない。
  • 外国人被疑者は、この区別が伝わりにくく、取調べ室に呼ばれること自体を答えなければならない義務と受け取りやすい。
  • 取調べを受ける姿勢は、方針として弁護人と決めるべき事項であり、その場の判断で変えるべきではない。
  • 取調べ対応の積み重ねは、不起訴処分の獲得と、その後の在留の維持に直結する。

接見で「明日も取調べがあるそうです。行かないという選択はできますか」と尋ねられることがあります。これは素朴な疑問のようでいて、日本の刑事訴訟法の中でも長く議論されてきた論点に触れています。身柄を拘束された被疑者が、取調べのために取調べ室へ行き、そこに留まらなければならないのかという問題です。

この論点は、実務上は明確な結論が示されないまま運用が続いており、依頼者にとっては分かりにくい部分です。しかし、ここを整理しないまま日々の取調べに臨むと、答える義務と出頭する義務が本人の中で混ざり合い、結果として黙秘の方針が崩れます。本記事では、この論点の構造と、外国人被疑者にとっての実際上の意味を説明します。

想定される刑事手続の流れ

逮捕されると、警察は48時間以内に事件を検察官に送致し、検察官は24時間以内に勾留を請求するか釈放するかを判断します。この合計72時間で身柄の行方が決まります。取調べはこの段階から連日行われます。

勾留が認められれば原則10日、延長でさらに10日にわたって身柄拘束が続き、その間、警察官と検察官の双方から取調べを受けます。ここで問題になるのが、取調べのために取調べ室に赴くこと、そして取調べが終わるまでその場に留まることが義務なのかという点です。刑事訴訟法は、身柄を拘束されていない被疑者について出頭を拒み、また退去できる旨を定めていますが、身柄拘束中の被疑者についてこの規定がどう働くのかをめぐって、義務を肯定する立場と否定する立場が対立してきました。

外国人事件特有のリスク

この論点は、外国人事件でとりわけ重い意味を持ちます。母国の刑事手続に関する経験や理解が背景にある方の場合、取調べに呼ばれること自体を、答えなければならない場面と受け止めやすいためです。日本語での説明が通訳を介して届くとき、義務の有無という微妙な区別は、しばしば失われます。

そして、そこで生まれた供述は入管手続にも影響します。入管法24条の退去強制事由は号ごとに要件が異なります。4号リは、無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者を挙げますが、但書により刑の全部の執行を猶予された者は除かれます。一部猶予でも実刑部分が1年以下なら除外されます。他方、4号チは薬物関係の罪について有罪判決があれば足り、罰金でも執行猶予でも刑の免除でも該当します。両者は守備範囲が異なり、4号チは4号リの柱書から除かれています。

さらに、4号ロの不法残留、4号イの資格外活動の専従、3号の4の不法就労助長は、いずれも刑事処罰を要件としません。取調べの中で語られた就労状況や滞在状況が、こうした事由の認定材料として使われることがあります。在留期間の更新(入管法21条)や在留資格の取消し(入管法22条の4)の審査でも同様です。なお、退去強制事由の判断に故意・過失を要しないとされてきた実務に対し、当事務所は責任主義の射程を問う訴訟を提起し、上訴審まで争ってきました。取調べで語られた事実が、意思とは無関係に不利に作用しうるという構造が、ここにあります。

不起訴処分の重要性

執行猶予判決でも退去強制につながる類型がある以上、起訴前に不起訴を得ることが決定的な意味を持ちます。取調べへの向き合い方は、その成否を直接左右します。捜査機関が立証しなければならない事項について、こちらから材料を提供するのか、しないのか。この判断を毎回の取調べで一貫させることが必要です。

並行して、弁護人は検察官との面談を重ねて事案の見方を伝え、被害者がいる事件では謝罪と被害弁償を尽くして示談の成立を目指し、身元引受や生活基盤に関する資料を整えて意見書として提出します。本人が取調べで語らない部分を、弁護人が正確な形で補うという役割分担です。

初動対応の3つのポイント

第一に、黙秘権の行使です。取調べ室に行くかどうかという問題と、質問に答えるかどうかという問題は別です。仮に取調べ室に行くことになったとしても、そこで何を話すかは本人が決めます。

第二に、早期の弁護人選任です。取調べは逮捕の当日から始まります。方針を決める前に日数が過ぎれば、その分だけ記録が積み上がります。取調べのたびに接見し、何が行われたかを確認していく体制が必要です。

第三に、通訳の質です。捜査機関が指定する通訳人は捜査のために置かれており、義務の有無に関する説明が正確に訳されているかを検証する立場にはありません。依頼者本人のために動く通訳は、弁護人と一体となって、権利の内容を本人が理解できる言葉で伝えます。この違いが、方針を維持できるかどうかを分けます。

当事務所のご案内と解決事例

本テーマに関連する取扱い事案をご紹介します。

  • 覚醒剤取締法違反(営利目的所持)で起訴された依頼者について、証拠を徹底的に分析し、被告人質問と反対尋問により無罪判決を獲得しました。
  • 特殊詐欺の受け子として複数回にわたり再逮捕された事案では、取調べ対応と主張立証を積み重ね、全件について不起訴処分を獲得しました。連日の取調べに一貫した姿勢で臨めたことが、結果を支えた事案です。
  • 冤罪により不法就労助長罪に問われ強制退去の危機にあった女性の事案では、退去強制事由に故意・過失は不要とする従来の実務に対し責任主義の射程を問う訴訟を提起し、上訴審まで争いました。その後、入管から在留特別許可が認められています。

当事務所では、弁護士松村大介が初動の接見から公判の結審まで全工程を直接担当し、事務員や若手弁護士による代行を行いません。外国人事件に精通した中国語の専属通訳が常駐しています。刑事手続後の在留資格については、提携する行政書士とともにワンストップで対応します。

結語

学説の対立そのものは、依頼者が覚えるべき事柄ではありません。押さえるべきは、答える義務はないという一点です。そのうえで、日々の取調べにどう臨むかを弁護人と決め、決めた方針を維持する。当たり前のようでいて、隔離された環境の中でこれを続けることは容易ではありません。だからこそ、弁護人が繰り返し接見に足を運ぶ必要があります。

本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。

執筆者

弁護士 松村大介(第一東京弁護士会・登録番号59077・2019年登録)。舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田)。注力分野は外国人刑事弁護、入管手続(退去強制・在留特別許可)、行政訴訟。最終更新:2026年8月。

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