留置施設での食事・健康上の配慮の申入れ|持病と服薬をどう伝えるか
2026/08/18
本記事の要点
- 持病・服薬・食物アレルギー・宗教上の事情は、身柄拘束の初日に伝えるべき事項であり、後回しにしてはならない。
- 体調不良や薬の中断は、取調べにおける判断力を大きく損ない、供述の内容にも影響する。
- 申入れは口頭で終わらせず、弁護人を通じて書面で行い、記録として残すことに意味がある。
- 医師の診察を求めることは可能であり、必要に応じて外部の医療機関との連携も検討する。
- 健康状態は、勾留の必要性を争う場面や、処分・量刑を検討する場面でも考慮されうる事情である。
留置施設の生活は、食事も睡眠も運動も、すべて決められた枠の中で進みます。健康な方であっても環境の変化は負担になりますが、持病がある方、服薬を続けている方、食事に制約がある方にとっては、その負担は別次元のものになります。中国籍の依頼者から、常用していた薬が手元になく数日が過ぎている、食べられないものが出るが説明できない、といった訴えを接見で聞くことは珍しくありません。
健康上の問題は、単なる生活の快適さの問題ではありません。体調が悪ければ、取調べで正確に受け答えすることはできません。薬が切れれば、判断力そのものが落ちます。そして、そうした状態で作られた調書は、後に本人を縛ります。本記事では、身柄拘束下での健康上の配慮をどう求めるか、その方法と意味を整理します。
想定される刑事手続の流れ
逮捕から48時間以内に検察官へ送致され、そこから24時間以内に勾留請求の可否が判断されます。この72時間が最初の分岐点です。健康上の問題は、この段階で把握され、記録される必要があります。逮捕時の身体検査や健康状態の確認の場で申告する機会がありますが、言語の壁により十分に伝わらないことがあります。
勾留が認められると原則10日、延長でさらに10日となります。この間、施設内での診察や投薬が問題になります。処方薬については、施設の判断を経たうえで管理された形で提供されるのが通常であり、外部の医療機関で処方を受けた薬をそのまま自由に服用できるとは限りません。だからこそ、どの薬をどの量で服用しているのかを、家族や主治医の協力を得て早期に明らかにすることが必要です。起訴後に拘置所へ移送されれば、また体制が変わります。
外国人事件特有のリスク
健康上の問題は、入管手続にも影を落とします。入管法24条の退去強制事由は号ごとに要件が異なり、4号リは無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者を挙げますが、但書により刑の全部の執行を猶予された者は除かれます。一部猶予の場合も実刑部分が1年以下であれば除外されます。他方、4号チは薬物関係の罪について有罪判決があれば足り、罰金でも執行猶予でも刑の免除でも該当します。
ここで注意が必要なのは、持参していた医薬品の性質です。母国で合法的に処方・購入した薬であっても、日本では規制対象となる成分を含む場合があります。渡航の際に持ち込んだ薬について問題が生じた事例は現実に存在します。薬物関係で有罪となれば、上陸拒否事由にも年限の定めがなく、期間の定めのない上陸拒否となり、再入国は上陸特別許可という例外的な道に限られます。また、出国命令の制度も薬物該当者は利用できません。
療養のために就労や就学を中断していた場合、在留期間の更新(入管法21条)や在留資格の取消し(入管法22条の4)の審査で、その空白の説明を求められます。診断書や通院記録は、事情を裏づける資料になります。なお、退去強制事由の判断に故意・過失を要しないとされてきた実務に対し、当事務所は責任主義の射程を問う訴訟を提起し、上訴審まで争ってきました。
不起訴処分の重要性
執行猶予判決でも退去強制となりうる類型がある以上、起訴前に不起訴を得ることが決定的です。健康状態は、この段階でも意味を持ちます。体調不良や治療の必要性は、勾留の必要性を争う際の資料になり、身柄が解かれれば防御活動の幅は大きく広がります。
弁護人は、検察官との面談を重ねて事案の見方と本人の状況を伝え、被害者がいる事件では謝罪と被害弁償を尽くして示談を目指します。あわせて、治療の継続計画、家族の支援体制、通院先の確保といった資料を整え、意見書として提出します。健康上の事情は同情を求めるための材料ではなく、再発防止と生活再建の具体性を示す資料として提示することに意味があります。
初動対応の3つのポイント
第一に、黙秘権の行使です。体調が悪いときほど、早く終わらせたいという気持ちが強くなります。その状態で述べた内容は、後から訂正が困難です。健康上の申告と、事件についての供述は、切り分けて考えてください。
第二に、早期の弁護人選任です。健康上の申入れは、弁護人から書面で行い、記録に残す形をとってください。ご家族が把握している病名、処方内容、かかりつけの医療機関の情報は、弁護人に速やかに伝えてください。
第三に、通訳の質です。症状の説明は、日常会話よりはるかに高い精度を要求します。捜査機関が指定する通訳人は捜査のために置かれており、体調の訴えを丁寧に扱うことが役割ではありません。依頼者本人のために動く通訳が接見に同行すれば、症状の経過や薬の名称を正確に確認し、申入書に反映することができます。
当事務所のご案内と解決事例
本テーマに関連する取扱い事案をご紹介します。
- 覚醒剤取締法違反(営利目的所持)で起訴された依頼者について、証拠を徹底的に分析し、被告人質問と反対尋問により無罪判決を獲得しました。本人の状態を含め、事実を一つずつ検証した事案です。
- 特殊詐欺の出し子に関わったとされた20代女性の事案では、指示役からの欺罔や脅迫的な状況、犯意の不存在を主張し、不起訴処分を獲得しました。
- 冤罪により不法就労助長罪に問われ強制退去の危機にあった女性の事案では、退去強制事由に故意・過失は不要とする従来の実務に対し責任主義の射程を問う訴訟を提起し、上訴審まで争いました。その後、入管から在留特別許可が認められています。
当事務所では、弁護士松村大介が初動の接見から公判の結審まで全工程を直接担当し、事務員や若手弁護士による代行を行いません。外国人事件に精通した中国語の専属通訳が常駐しており、接見にも同行します。刑事手続後の在留資格については、提携する行政書士とともにワンストップで対応します。
結語
健康の問題は、我慢すれば済むものではありません。身柄拘束下では、自分で医療機関を選ぶことも、薬局に行くこともできない以上、申し入れなければ何も動きません。そして、その申入れが記録に残っているかどうかが、後の手続で効いてきます。ご本人が言い出せない場合、ご家族と弁護人がその役割を担うことになります。
本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
執筆者
弁護士 松村大介(第一東京弁護士会・登録番号59077・2019年登録)。舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田)。注力分野は外国人刑事弁護、入管手続(退去強制・在留特別許可)、行政訴訟。最終更新:2026年8月。
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