舟渡国際法律事務所

精神障害・知的障害が疑われる外国人被疑者への対応|責任能力と言語の壁を切り分ける

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精神障害・知的障害が疑われる外国人被疑者への対応|責任能力と言語の壁を切り分ける

精神障害・知的障害が疑われる外国人被疑者への対応|責任能力と言語の壁を切り分ける

2026/08/18

本記事の要点

  • 外国人被疑者の場合、言語の壁による理解の困難と、精神障害・知的障害による理解の困難とが混同されやすい。
  • 混同されたまま取調べが進むと、内容を理解しないまま作られた供述調書が残り、後の防御を著しく困難にする。
  • 責任能力(刑法39条)と訴訟能力は別の問題であり、それぞれ別のタイミングで主張・立証の対象になる。
  • 不起訴処分を得ることは、刑事責任の回避だけでなく、退去強制事由への該当を避けるうえでも決定的な意味を持つ。
  • 身柄拘束中の医療・服薬・診察の申入れは、記録に残る形で早期に行うべきである。

取調べで質問の意味が分かっていないように見える、家族から見て以前から様子がおかしかった、日本語も母語も会話が噛み合わない。こうした状況で逮捕の連絡を受けたご家族から、当事務所にご相談が寄せられることがあります。外国籍の方の事件では、この「理解できていない」という徴候が言語の問題として片づけられる危険があります。

しかし、通訳を入れれば解決する問題と、通訳を入れても解決しない問題は、性質がまったく異なります。前者は翻訳の質の問題、後者は本人の能力の問題です。両者を早い段階で切り分けなければ、供述調書には「本人が理解して述べた」という外形だけが積み重なっていきます。本記事では、精神障害・知的障害が疑われる外国人被疑者について、初期に何を確認し、何を申し入れるべきかを整理します。

想定される刑事手続の流れ

逮捕から48時間以内に検察官に送致され、24時間以内に勾留請求の可否が決まります。この72時間は、身柄の行方を決めると同時に、本人の状態を記録に残す最初の機会でもあります。弁護人が接見してその日のうちに所見をまとめ、勾留質問や勾留請求の段階で裁判官・検察官に伝えられるかどうかが分岐点です。

勾留が認められれば原則10日、延長でさらに10日となります。この間、検察官の判断で簡易鑑定が行われることがあり、必要と判断されれば鑑定留置による本格的な精神鑑定に進みます。捜査の結果、責任能力が否定される見込みが強ければ不起訴となり、事案によっては医療観察法の手続へと移ります。起訴された場合には、公判で責任能力が争点となり、訴訟能力そのものが問題となる事案もあります。

外国人事件特有のリスク

入管法24条の退去強制事由は、号ごとに要件が異なります。4号リは、無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者を挙げ、但書で刑の全部の執行を猶予された者を除外します。責任能力が否定されて不起訴となれば、そもそも刑に処せられていませんから、この号の問題は生じません。

他方で注意すべきは4号チです。薬物関係の罪については、有罪判決があれば足り、罰金でも執行猶予でも刑の免除でも該当します。刑の免除まで含まれる点は特に重要で、責任能力に問題がある事案でも、有罪判決という形が残れば該当しうるという構造になっています。また、4号ロの不法残留や4号イの資格外活動の専従は、刑事処罰を要件としません。3号の4の不法就労助長も、行為のみで該当します。障害により手続の意味を理解できないまま在留期間が経過してしまった、という事態は現実に起こります。

在留期間の更新(入管法21条)や在留資格の取消し(入管法22条の4)の場面でも、就労や就学の実態が問われます。療養のために活動が中断していた事情は、説明しなければ伝わりません。なお、退去強制事由の判断に故意・過失を要しないとする実務に対し、当事務所は責任主義の射程を問う訴訟を提起し、上訴審まで争ってきました。事理を弁識する能力が制限されていた方にとって、この論点は他人事ではありません。

不起訴処分の重要性

執行猶予判決でも退去強制につながる類型が存在する以上、起訴前に不起訴を得ることの価値は極めて大きくなります。責任能力が問題となる事案では、起訴前の段階で医師の意見書、家族からの生育歴・病歴に関する聴取結果、これまでの受診記録や服薬状況を整理し、検察官に提出することが有効です。

検察官との面談では、本人の供述の信用性がどの程度の基盤に立っているのかを具体的に示します。被害者がいる事件では、本人に代わって謝罪と被害弁償を行い、示談の成立を目指します。あわせて、釈放後の医療機関との連携、家族による監護体制、通院の確保といった環境面を書面化して意見書に添えることで、身柄と処分の双方に働きかけます。

初動対応の3つのポイント

第一に、黙秘権の行使です。理解が十分でない状態で作られた供述は、後から撤回しても痕跡が残ります。まず話さない、という選択が本人を守る場面があります。

第二に、早期の弁護人選任です。障害の徴候は、時間が経つほど記録として拾いにくくなります。逮捕直後の様子、接見時の受け答え、生活歴の聴取は、早いほど価値があります。医療・服薬・診察の申入れも、記録に残る形で行う必要があります。

第三に、通訳の質です。捜査機関が指定する通訳人は捜査のために置かれており、本人が言葉を探している沈黙や、質問の趣旨を取り違えた応答を、そのまま整った日本語に均してしまうことがあります。依頼者本人のために動く通訳は、噛み合っていないという事実そのものを弁護人に伝えます。この違いが、能力の問題を発見できるかどうかを左右します。

当事務所のご案内と解決事例

本テーマに関連する取扱い事案をご紹介します。

  • 覚醒剤取締法違反(営利目的所持)で起訴された依頼者について、証拠を徹底的に分析し、被告人質問と反対尋問を通じて無罪判決を獲得しました。供述の成り立ちそのものを検証することの重要性を示す事案です。
  • 特殊詐欺の出し子に関わったとされた20代女性の事案では、指示役からの欺罔や脅迫的な状況、犯意の不存在を主張し、不起訴処分を獲得しました。本人が置かれていた心理状態を丁寧に立証した事案です。
  • 裁判員裁判の対象事件や、世界的に報道された重大事件を含む国際刑事事件にも対応してきました。中国籍の方の重大事件についても多数の取扱い実績があります。

当事務所では、弁護士松村大介が初動の接見から公判の結審まで全工程を直接担当します。事務員や若手弁護士による代行は行いません。外国人事件に精通した中国語の専属通訳が常駐しており、接見に同行します。刑事手続後の在留資格については、提携する行政書士とともにワンストップで対応します。

結語

言葉が通じないことと、事柄を理解できないことは、外から見れば似ています。しかし法的な意味はまったく違います。この切り分けを最初に行えるかどうかで、その後の手続の景色は大きく変わります。ご家族が把握している生活歴や受診歴は、本人が自分では説明できない事情を補う、代替のきかない資料です。

本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。

執筆者

弁護士 松村大介(第一東京弁護士会・登録番号59077・2019年登録)。舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田)。注力分野は外国人刑事弁護、入管手続(退去強制・在留特別許可)、行政訴訟。最終更新:2026年8月。

舟渡国际法律事务所
网站:https://matsumura-lawoffice.jp/
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