取調べ初日に言うべきこと・言ってはいけないこと|中国籍の方の刑事事件と在留資格
2026/08/18
本記事の要点
- 初日の供述が、その後の捜査・処分・公判の方向を決める。
- 答えるのは人定事項までで足り、中身は弁護人と相談してからでよい。
- 通訳を介した取調べでは、話した内容と調書の文言がずれる。
- 有罪の内容次第で入管法24条の退去強制事由に触れる。
- 逮捕から勾留決定までの72時間の動きが結論を左右する。
朝、警察官が自宅や職場に来て、そのまま署に連れて行かれた。何を疑われているのかも分からないまま、机の向こうの捜査官が日本語で質問を始め、隣の通訳が中国語に訳していく。日本で刑事事件の当事者になった中国籍の方の多くが、最初の数時間をこの状態で過ごしています。
この記事は、その最初の一日に何を話し、何を話さずにおくべきかを、後の入管手続への影響まで含めて整理します。
取調べ初日に実際に起きること
逮捕されると、身柄は警察署の留置施設に入り、通常その日のうちに取調べが始まります。最初は弁解録取と呼ばれる手続で、逮捕の理由とされた事実を読み上げられ、言い分を聞かれます。述べたことは書面に残り、以後の捜査の出発点になります。任意同行の形でも、席を立ちにくい状況が作られる点は変わりません。
この段階で捜査機関が握る情報は、多くの場合まだ断片的です。だからこそ本人の口から出る言葉が重視されます。記憶があいまいなまま「たぶんそうだった」と答えれば、その一言が事実として固定されます。
言ってよいこと、言わなくてよいこと
答えて差し支えないのは、氏名、生年月日、国籍、住居、職業といった人定事項です。黙っていても得るものはなく、在留カードと食い違う住所を述べれば、それ自体が不利に働きます。
一方、事件の中身は、弁護人と話すまで答えを保留してかまいません。「弁護士に相談してから話します」と伝え、その意思を維持することは、法律上認められた正当な対応です。とりわけ共犯者とされる人物の名前、報酬の約束の有無、微信でのやり取りの意味づけは、一言の言い方で法的評価が変わります。日付や金額を確認せずに答えない、他人の行為を推測で語らない。この二点で後の防御の幅が変わります。
避けたいのは、その場を早く終わらせたい一心で、自分では読めない調書に署名押印してしまうことです。読み聞かせを受けても、訳された日本語が自分の話したとおりかをその場で判断するのは容易ではありません。納得できなければ署名を拒めます。
逮捕から勾留決定までの72時間
逮捕後、警察は48時間以内に事件を検察官へ送致し、検察官は身柄を受け取ってから24時間以内、かつ逮捕から通算72時間以内に、勾留を請求するか釈放するかを決めます。勾留決定が出れば原則10日間、延長でさらに最大10日間続きます。
この72時間は、住居不定、罪証隠滅のおそれ、逃亡のおそれという勾留の要件に、弁護人が資料を集めて反論できる最後の局面です。在職証明、賃貸借契約書、家族の身元引受書、在留カードの写しを揃えられるかで勾留の可否が分かれます。外国籍であることのみを根拠に逃亡のおそれが大きいと扱われる場面は今も多く、生活の基盤が日本にあることを具体的に示す作業が欠かせません。
外国人事件に固有のリスク
刑事手続の結論は、そのまま在留資格に跳ね返ります。入管法24条は退去強制事由を号ごとに定め、号によって効き方が違います。
- 24条4号リは、無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者を対象とします。ただし但書があり、刑の全部の執行を猶予された場合は除かれます。一部猶予でも実刑部分が1年以下なら除かれます。執行猶予が付けば直ちにこの号に当たるという理解は誤りです。
- 24条4号チは薬物関係で、有罪判決があれば足ります。罰金でも、執行猶予でも、刑の免除でも該当します。この号は柱書によって4号リの守備範囲から除かれています。
- 24条4号ロは不法残留です。身柄拘束が長引くうちに在留期限が経過し、事件とは別にこの号の問題が生じます。
有罪に至らなくても、素行の評価によって在留期間の更新(入管法21条)が拒まれ、在留資格の取消し(入管法22条の4)が検討されることもあります。従来の実務は、退去強制事由の判断に故意や過失は要しないとしてきました。当事務所は、これに対し責任主義の射程を問う訴訟を提起し、上訴審まで争ってきました。
不起訴処分をとることの意味
執行猶予判決でも退去強制の対象となりうる類型が存在します。薬物事件が典型です。在留を守る観点からは、公判で有利な判決を得るより前に、起訴されないこと自体に決定的な価値があります。
不起訴に向けた活動は勾留期間中に集中します。被害者との示談交渉と被害弁償、嘆願書の取得、事件の経緯と生活状況および在留への影響を整理した意見書の提出、担当検察官との面談です。処分直前では間に合いません。
初動対応の3つのポイント
第一に、黙秘権の行使です。話さないことは反省していないことを意味しません。記憶が整理される前、通訳の精度が確認できる前の供述には、防御上の価値がありません。
第二に、早期の弁護人選任です。逮捕直後は国選弁護人が付く前であり、この空白を埋められるのは私選の弁護人だけです。
第三に、通訳の質です。捜査機関が手配する通訳人は捜査を進めるための通訳であって、本人の代理人ではありません。弁護人が同行させる通訳は依頼者本人のために動きます。この違いの理解が、供述の正確性を守る土台になります。
当事務所のご案内と解決事例
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田)は、外国人の刑事弁護と入管手続を中心に取り扱っています。
- 特殊詐欺の受け子として複数回にわたり再逮捕された事案で、各回の取調べ対応を積み上げ、事実関係と犯意についての主張立証を尽くし、全件について不起訴処分を獲得しました。
- 観光目的で来日した後に在留資格を失い、不法滞在で起訴された事案では、婚姻と認知を成立させ、国籍国の公的書類がほとんど得られない状況で有利な資料を集め、1回の手続で在留特別許可を獲得しました。
- 国際刑事事件、裁判員裁判対象事件、世界的に報道された重大事件への対応実績があり、中国籍の方の重大事件も数多く取り扱っています。
ご依頼いただいた事件は、初動の接見から公判の結審まで、弁護士松村大介が全工程を直接担当します。事務員や若手弁護士による代行はいたしません。外国人事件に精通した中国語の専属通訳が常駐し、接見にも同行します。刑事手続後の在留資格は、提携行政書士と連携してワンストップで対応します。
結語
取調べの初日は、まだ何も決まっていない日です。だからこそ、この日の一言が最も遠くまで届きます。分からないことは分からないと述べ、中身は弁護人と相談してから話す。この二つで防御の範囲は変わります。
本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
執筆者
弁護士 松村大介(第一東京弁護士会・登録番号59077・2019年登録)。舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田)。注力分野は外国人刑事弁護、入管(退去強制・在留特別許可)、行政訴訟。最終更新2026年8月。
舟渡国际法律事务所
网站:https://matsumura-lawoffice.jp/
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