銅線やケーブルの持ち出しで逮捕されたら|金属盗対策法の施行と外国人事件への影響
2026/08/22
太陽光発電所からの銅線ケーブルの抜き取り、工事現場からの金属材の持ち出し、解体現場からのスクラップの持ち去り。いわゆる金属盗は近年著しく増加し、外国籍の方が関与したとして摘発される事案も相次いでいます。この分野では、令和7年に金属盗対策法(特定金属製品の窃盗の防止に関する法律)が制定され、買い取る側への規制が加わりました。取り締まりの構造が変わったということは、立件のされ方も変わるということです。
本記事の要点
- 持ち出した側は窃盗罪(刑法235条・10年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金)に問われます。夜間に建物へ立ち入れば建造物侵入罪(130条前段)が併合されます。
- 金属盗対策法により、特定金属製品を買い受ける事業者に本人確認・記録・保存等の義務が課され、買取ルートからの遡及的な立件が容易になりました。
- 買い取る側の外国籍事業者は、同法の義務違反と古物営業法上の無許可営業の双方が問題となり得ます。
- 複数回の犯行が認定されれば実刑の可能性が高まり、入管法24条4号リの退去強制事由が現実化します。
- 被害の弁償と示談が可能な類型であり、起訴前の示談交渉に取り組む実益が大きい分野です。
持ち出す側にかかる罪
中核は窃盗罪です。他人の占有する財物を、その意思に反して自己の支配下に移せば既遂となります。銅線が敷設済みの設備の一部であっても、屋外に放置されているように見えても、所有者の管理下にある以上は他人の財物です。「捨ててあると思った」という弁解は、現場の状況次第で成り立つ場面もありますが、切断工具を持参していた、夜間に複数人で行動していた、といった事情があれば、その主張は通りにくくなります。
敷地内に立ち入る態様によっては、建造物侵入罪(刑法130条前段)が加わります。囲繞地の性質、看板の設置状況、施錠の有無が判断の材料になります。
さらに、複数人で役割を分担していれば共同正犯となり、運搬役や見張り役も窃盗の正犯として扱われます。SNSの募集に応じて現場に行っただけ、という立場の方が、実行者と同じ責任を問われる構造は、他の匿名流動型の類型と共通しています。
買取ルートへの規制が変えたこと
従来、金属盗の捜査は、現場の遺留物と防犯カメラの映像に依存する部分が大きく、換金された後の追跡は容易ではありませんでした。金属盗対策法は、特定金属製品を買い受ける事業者に対し、相手方の本人確認、取引の記録の作成と保存、不審な取引についての届出等を求めています。これにより、換金の側から実行者へと遡る捜査の道筋が整備されました。
この変化は、外国籍の方が経営するスクラップ回収・買取の事業者にも直接の影響を及ぼします。本人確認を怠って買い受けた場合、同法上の義務違反の問題が生じるほか、古物営業法3条の許可を得ていなければ無許可営業の問題が重なります。さらに、盗品であることを知りながら買い受けたと評価されれば、盗品等有償譲受け罪(刑法256条2項)に至ります。
経営・管理の在留資格で事業を営んでおられる方にとって、この立件は事業の継続そのものを揺るがします。刑事の帰趨と並行して、在留資格の維持について検討を進める必要があります。
在留への影響
窃盗罪の法定刑には罰金が定められており、被害額が小さく初犯であれば罰金や不起訴で終わる場面もあります。もっとも、金属盗は反復されやすく、複数の被害が併合されると求刑が重くなります。1年を超える拘禁刑の実刑となれば、入管法24条4号リの退去強制事由に該当し得ます(同号は執行猶予が全部付された場合を除いています)。
なお、在留特別許可の公表事例を読みますと、窃盗により1年2月から1年6月の実刑に処せられた事案について、在留特別許可がされた例が令和7年分に複数見られます。もっとも、それらの本人はいずれも日本人の配偶者、定住者、日系人として本邦で出生した方など、別表第二又はこれに準ずる定着性を有する方でした。就労資格や留学等の別表第一の在留資格で在留する方が実刑を受けて許可された公表事例は、現時点では確認できません。この事実は、別表第一で在留しておられる方にとって、実刑を回避することの重みを端的に示しています。
示談と被害弁償の意味
金属盗は、被害者が特定でき、被害額の算定も比較的容易な類型です。すなわち、個人的法益の侵害としての性格が強く、被害弁償と示談によって反社会性を個別に解消できる余地が、社会的法益を侵害する類型(薬物、入管秩序の侵害など)よりも広く残されています。
起訴前に被害弁償を尽くし、宥恕の意思を書面で得ることは、不起訴処分の獲得に直結し得ます。設備の復旧費用は被害額を大きく上回ることがありますので、資金の準備には時間を要します。ご家族から中国本土を経由して送金する場合、外貨管理の手続に日数がかかる点も、あらかじめ織り込んで動く必要があります。
当事務所の対応と解決事例
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区)は、外国籍の依頼者の財産犯事案に数多く取り組んでまいりました。
特殊詐欺の出し子行為に関わったとされた20代女性について、指示役からの働きかけの状況や犯意の不存在を総合的に主張し、不起訴処分を獲得した事例がございます(事例B-1)。募集に応じて現場に行った立場の方について、どこまでが本人の意思決定であったかを描き出す作業は、金属盗の共犯事案にも通じます。
また、国際刑事事件・裁判員裁判対象事件への対応経験(事例E-1)を通じて、複数の被害が併合される事案の見通しの立て方についても、実務に即したご説明が可能です。
入管手続の側では、困難な状況の下で在留特別許可を獲得した事例(事例D-1)がございます。刑事の結論が厳しかった場合にも、次の手続で組み立てるべき主張は残されています。
当事務所の最大の特徴として、松村大介弁護士が接見の初動から公判の結審まで全工程を直接担当いたします(事務員・若手弁護士による代行を行いません)。また、当事務所には外国人事件に精通した中国語専属通訳が常駐しており、捜査機関が指定する通訳とは別に、依頼者ご本人のために動く立場の通訳を、刑事手続全般にわたってご利用いただけます。刑事手続終了後の在留資格の更新・変更については、提携の行政書士とワンストップで対応いたします。
おわりに
金属は換金しやすく、だからこそ「拾ってきただけ」という説明との距離が近い。その近さが、この類型の弁護を難しくもし、可能にもしています。現場の状況、道具の由来、同行者との関係。細部にこそ、語るべきことが残っております。
本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。また、過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年8月時点の情報です。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
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