舟渡国際法律事務所

実刑判決を受けた後の在留特別許可|入管法50条1項ただし書「特別の事情」の実像を公表事例から読む

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実刑判決を受けた後の在留特別許可|入管法50条1項ただし書「特別の事情」の実像を公表事例から読む

実刑判決を受けた後の在留特別許可|入管法50条1項ただし書「特別の事情」の実像を公表事例から読む

2026/08/22

令和5年改正入管法により、在留特別許可の枠組みは大きく変わりました。とりわけ、無期又は1年を超える拘禁刑の実刑に処せられた方については、「在留を許可しないことが人道上の配慮に欠けると認められる特別の事情」がある場合に限って許可がされることとなりました(入管法50条1項ただし書)。この条文が実際にどう運用されているのかは、抽象的な議論では見えてきません。出入国在留管理庁が公表する事例集を年度横断的に読むことで、初めて輪郭が現れます。本記事では、令和6年後半分及び令和7年分の公表事例に現れたただし書該当の許可事例を素材に、実務の水準を整理いたします。

本記事の要点

  • ただし書により許可された公表事例は、令和6年後半分・令和7年分を合わせて6件です。
  • 6件の量刑は、いずれも1年2月から1年6月の範囲にとどまります。
  • 不許可の側では、2年6月の実刑につき、日本人実子の監護養育と在日約22年という事情があっても不許可とされた事例があります。
  • 許可された6件の本人は、いずれも永住者・定住者・日本人の配偶者・日系人として本邦で出生した方など、別表第二又はこれに準ずる定着性を有する方でした。
  • 別表第一の在留資格で在留していた方が実刑を受けてただし書により許可された公表事例は、現時点で確認できません。

ただし書は何を要求しているか

入管法50条1項本文は、退去強制事由に該当すると認定された者について、法務大臣が在留を特別に許可することができる旨を定めています。同項ただし書は、その対象のうち一定の重い刑に処せられた者について、通常の判断ではなく、「在留を許可しないことが人道上の配慮に欠けると認められる特別の事情」を要求しています。

注意すべきは、この要件が「在留を許可すべき事情」ではなく、「許可しないことが人道上の配慮に欠ける」という否定形で書かれていることです。すなわち、在留を認めることの積極的な理由を示すだけでは足りず、送還という結果が人道上受け入れ難いものであることを示す構造になっています。同条5項の考慮事情(在留を希望する理由、家族関係、素行、入国の経緯、在留期間、法的地位、退去強制の理由、人道上の配慮の必要性等)を逐一検討するにしても、その先にこの一段高いハードルが置かれています。

公表事例に現れたただし書許可の6件

令和6年後半分には3件が掲げられています。覚醒剤取締法違反により1年2月の実刑に処せられ、永住者であった方。同じく覚醒剤取締法違反により1年6月の実刑に処せられ、配偶者が定住者、未成年の子3人がおられた方。盗品等有償譲受け及び運搬により1年6月の実刑及び罰金に処せられ、本邦で出生した永住者の未成年の実子を監護養育しておられた方。いずれも定住者の在留資格が付与されています。

令和7年分にも3件が掲げられています。窃盗により1年2月の実刑に処せられ、日本人配偶者との婚姻が約33年に及ぶ方。窃盗により1年2月の実刑に処せられ、配偶者が定住者、未成年の子が3人おられる方。窃盗により1年6月の実刑に処せられ、日系人として本邦で出生し、本邦の教育機関で教育を受けた方。

(以上は、出入国在留管理庁「在留特別許可された事例及び在留特別許可されなかった事例について」に掲載された各年度の事例に基づきます。同庁ウェブサイトの在留特別許可関係のページで公表されています。)

ここから読み取れる四つの水準

第一に、量刑の水準です。許可された6件の量刑は1年2月から1年6月の範囲に収まっており、これを超える実刑で許可された公表事例は、両年度のいずれにも見当たりません。他方で不許可の側を見ますと、詐欺・有印私文書偽造等により2年6月の実刑に処せられた事案が、日本人実子の監護養育と在日約22年という事情の下でも不許可とされています。組織的犯罪処罰法違反及び詐欺により4年6月の実刑に処せられた事案も、配偶者が永住者であり在留特別許可歴があっても不許可です。実務上の分水嶺は、おおむね拘禁刑2年前後に置かれているとみるのが相当です。

第二に、罪名です。令和7年分の許可3件はいずれも窃盗の実刑であり、令和6年後半分には覚醒剤取締法違反での許可が2件含まれています。罪名そのものよりも、量刑と定着性の組合せが決定的であることが示唆されます。財産犯の実刑だからといって一律に絶望すべきではなく、薬物事犯だからといって一律に排除されるわけでもありません。

第三に、本人の地位です。許可された6件の本人は、永住者、定住者、日本人の配偶者、日系人として本邦で出生した者など、いずれも別表第二又はこれに準ずる定着性を有する方でした。技術・人文知識・国際業務、経営・管理、留学、家族滞在といった別表第一の在留資格をもって在留していた方が、実刑判決を受けてただし書により許可された公表事例は、現時点で確認できません。別表第一の事案では、この一事をもって見込みが相当に低くなることを前提に方針を立てる必要があります。

第四に、教育歴の機能です。令和7年分の許可事例の一つは、特記事項として「日系人として本邦で出生し、本邦の教育機関で教育を受けたもの」を挙げています。本邦の教育機関における教育歴が、ただし書の「特別の事情」の認定において積極的に機能したことを示す実例です。在留特別許可のガイドラインは、本邦の初等中等教育機関で相当期間教育を受けた実子との関係を家族関係の一類型として挙げていますので、この点は主張として組み立てる余地があります。

主張をどう組み立てるか

以上を踏まえますと、ただし書該当事案における主張の骨格は、次の三点に整理できます。

  • 量刑が1年6月以下であることを最大限に活かすこと。これを超える場合には、量刑を上回るだけの定着性と人道的事情を示すこと。
  • 本人又は実子の本邦における出生・教育歴を、学校の在籍証明・成績・言語習得の状況といった具体的資料によって立証すること。
  • 配偶者及び子の在留資格が別表第二であればこれを前面に出し、別表第一であれば教育歴と共同養育の実態によって補うこと。

ここで、当事務所が繰り返し申し上げてきた視点を付け加えます。公表事例は、行政庁自身が「許可相当」と判断した先例の集積です。同種の事情を有する事案について過去に許可の実績があるにもかかわらず、本件についてのみ異なる取扱いをすることには、合理的な理由が必要です。この対比を具体的な事例の摘示とともに提示することは、憲法14条1項の平等原則の観点からも意味を持ちます。

また、公表事例は行政庁の判断の集積であって、司法審査の結論とは異なることにもご留意ください。裁判所が子の教育歴を正面から評価して裁決及び退去強制令書発付処分を取り消した事例は複数存在します。行政庁の水準がそのまま司法の水準であるとは限りません。

刑事段階からの設計が結論を決める

ただし書の存在は、刑事弁護の目標設定を根本から変えました。1年6月と2年の間に、事実上の分水嶺があるということは、量刑を1年6月以下に収めることに、刑期の長短を超えた意味があるということです。そして、そもそも実刑を回避すること、さらに遡って起訴を回避することの重みは、この改正によって一段と増しました。

刑事の弁論において、被告人の家族関係、本邦での在留期間、子の就学状況を具体的に立証しておくことは、量刑資料であると同時に、その先の入管手続における「特別の事情」の立証資料そのものです。刑事と入管を別々の弁護士が別々に担当する体制では、この連続性が失われます。

当事務所の対応と解決事例

舟渡国際法律事務所(東京都豊島区)は、在留特別許可の案件において、入管庁公表事例の年度横断的な分析を一貫して行ってまいりました。

不法就労助長罪に問われ強制退去の危機に瀕した女性の事案では、退去強制事由の判断に故意・過失を要しないとする従来の実務に対し、責任主義の射程を問う訴訟を提起して上訴審まで争い、その後、入管から在留特別許可が認められました(事例D-2)。行政処分の要件論そのものに踏み込む姿勢は、ただし書の解釈においても同様に必要になると考えております。

また、観光目的で来日した相談者が日本人女性との間に子を授かりながら在留資格を失った事案では、婚姻・認知の手続が未了として一旦不受理とされたところを、憲法的観点から交渉して成立させ、国籍国発行の公的書類がほとんど存在しない状況の下でも有利な証拠を収集し、過去の許可事例の分析を踏まえて在留特別許可を獲得いたしました(事例D-1)。

当事務所の最大の特徴として、松村大介弁護士が接見の初動から公判の結審まで全工程を直接担当いたします(事務員・若手弁護士による代行を行いません)。また、当事務所には外国人事件に精通した中国語専属通訳が常駐しており、捜査機関が指定する通訳とは別に、依頼者ご本人のために動く立場の通訳を、刑事手続全般にわたってご利用いただけます。刑事手続終了後の在留資格の更新・変更については、提携の行政書士とワンストップで対応いたします。

おわりに

ただし書は、実刑を受けた方の在留の道を狭めました。しかし、閉ざしたわけではありません。6件という数字は少なく見えますが、そこには、量刑・地位・教育歴という読み取れる筋道があります。筋道が読めるということは、こちらから組み立てられるということでもあります。ご自身の事案がどの位置にあるのかを確かめることから、始めていただければと存じます。

本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。また、過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。

本記事は2026年8月時点の情報です。

執筆者

松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士

第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)

舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)

中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。

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ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/

微信ID:matsumura1119

本記事の中国語版(简体字)はこちら

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