偽装結婚の「紹介役」として摘発されたら|斡旋側の刑事責任と自らの在留資格
2026/08/22
在留資格を得たい人と、報酬を条件に婚姻届に応じる日本人とを引き合わせた。SNSで希望者を募り、書類の作り方を教え、双方から手数料を受け取った。こうした仲介行為で中国籍の方が逮捕されたという報道が、繰り返し伝えられています。ご相談の場では、「自分は結婚していないし、偽の書類を出したのは本人たちだ」というお話をよく伺います。しかし、日本の刑事実務における斡旋役の位置づけは、そのご認識よりもかなり重いものです。
本記事の要点
- 斡旋役は、電磁的公正証書原本不実記録及び同供用(刑法157条1項・158条1項)の共同正犯として構成されるのが通例です。
- 在留資格の取得に関与すれば、入管法70条1項2号の2(偽りその他不正の手段による在留資格の取得)への関与、及び入管法74条の6(営利目的の不法在留援助)が問題となります。
- 営利の目的が認定されると、法定刑が重くなり、実刑の可能性が高まります。
- 斡旋役自身の在留資格も、入管法22条の4第1項の取消し、及び24条4号リの退去強制事由の双方から検討されます。
- 報酬の授受と反復性の立証を崩せるかどうかが、弁護の分水嶺です。
斡旋役が問われる罪の構造
この類型では、実際の婚姻をする意思がないにもかかわらず婚姻届を提出し、戸籍という公正証書原本に不実の記載をさせる行為が中核にあります。電子化された戸籍については、電磁的公正証書原本不実記録罪(刑法157条1項)及び同供用罪(158条1項)が適用されます。届出人本人でなくとも、計画を立て、相手方を探し、書類の作成を指導した者は、共同正犯として同じ責任を負い得ます。
これに加えて、婚姻を前提に在留資格の変更・取得の申請がされていれば、偽りその他不正の手段により在留資格を取得させた点で入管法70条1項2号の2の問題が生じます。さらに、営利の目的で不法に在留する外国人を助けた場合には、入管法74条の6の適用が検討されます。
捜査機関の関心は、常に「営利性」と「反復性」に向かいます。1件だけの紹介なのか、複数件を継続的に扱っていたのか。無償の親切なのか、手数料を取っていたのか。ここが量刑を大きく分けます。SNS上のやり取り、送金記録、複数の関係者の供述が、この点の立証に用いられます。
「頼まれて紹介しただけ」という説明が届くために
同郷のつながりの中で、困っている人に人を紹介した。そのお礼として食事をご馳走になった。ご本人の主観としては、それだけのことだった、という事案は確かに存在します。問題は、その主観をどう外形化するかです。
弁護人が検討するのは、次のような点です。紹介の経緯に営業性を示す痕跡があるか(募集広告の有無、価格表の有無、定型的な説明文の使い回し)。金銭の授受が実費の精算にとどまるか。婚姻の実体がないことを、斡旋役がどの程度具体的に認識していたか。婚姻を装う意図は当事者間で後から生じた可能性がないか。
ここで重要なのは、故意の内容を精密に切り分けることです。当事務所は、退去強制事由の判断についてすら故意・過失の要件を正面から問う訴訟に取り組んでまいりました(事例D-2)。まして刑事責任においては、本人が何を認識していたかを離れて処罰することは許されません。この基本を、資料に基づいて具体的に主張することが弁護活動の骨格になります。
斡旋役自身の在留はどうなるか
第一に、退去強制事由です。営利目的が認定されて実刑となり、その刑が1年を超える拘禁刑であれば、入管法24条4号リに該当し得ます。同号は執行猶予が全部付された場合を除外していますが、この類型は求刑が重くなりやすく、除外規定に頼るのは危険です。
第二に、在留資格の取消しです。斡旋役自身が虚偽の資料により在留資格を得ていた場合には入管法22条の4第1項2号ないし4号が、勤務先の実体がない場合には同項7号が、それぞれ検討の対象となります。
第三に、在留特別許可の見通しです。出入国在留管理庁が公表する事例集を年度横断的に読みますと、出入国在留管理秩序それ自体を侵害する罪名(不法就労のあっせん、偽造在留カードの行使、有印公文書偽造など)については、執行猶予付き判決であっても不許可とされた事例が積み重なっています。斡旋行為はまさにこの中核に位置します。したがって、この類型では刑事段階での不起訴獲得の意味が、他の罪名よりもさらに大きくなります。
初動で押さえていただきたいこと
第一に、SNSの履歴を自ら削除しないことです。削除は罪証隠滅と評価され、勾留の理由(刑訴法60条1項2号)や保釈却下の理由(同法89条4号)として機能します。ご家族が本人のアカウントを操作することも、同じ危険を招きます。
第二に、関係者への連絡を控えることです。口裏合わせと受け取られる連絡は、事案そのものより重く扱われることがあります。
第三に、弁護人と通訳の確保です。この類型では、日本語での婚姻手続の説明を本人がどこまで理解していたかが争点になります。取調べの通訳の質が、そのまま争点の帰趨に影響します。
当事務所の対応と解決事例
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区)は、入管手続と刑事弁護を切り離さずに取り扱ってまいりました。
観光目的で来日した相談者が日本人女性との間に子を授かりながら在留資格を失い、不法滞在で逮捕・起訴された事案では、婚姻・認知の手続が未了であるとして当局から一旦不受理とされたところ、憲法的観点から交渉して手続を成立させ、国籍国発行の公的書類がほとんど存在しないという状況の下でも有利な証拠を収集し、過去の許可事例の分析を踏まえて在留特別許可を獲得いたしました(事例D-1)。婚姻の実体をどう立証するかという課題は、偽装結婚の嫌疑をかけられた事案の裏返しでもあります。
また、不法就労助長罪に問われ強制退去の危機に瀕した女性の事案では、責任主義の射程を問う訴訟を上訴審まで争い、その後、入管から在留特別許可が認められました(事例D-2)。
海外SNSを用いた侮辱被害について、日本の警察と国際刑事警察機構(インターポール)の捜査を経て刑事告訴が受理された事例(事例F-1)もあり、SNS上の証跡を扱う実務にも取り組んでおります。
当事務所の最大の特徴として、松村大介弁護士が接見の初動から公判の結審まで全工程を直接担当いたします(事務員・若手弁護士による代行を行いません)。また、当事務所には外国人事件に精通した中国語専属通訳が常駐しており、捜査機関が指定する通訳とは別に、依頼者ご本人のために動く立場の通訳を、刑事手続全般にわたってご利用いただけます。刑事手続終了後の在留資格の更新・変更については、提携の行政書士とワンストップで対応いたします。
おわりに
紹介する側は、往々にして自分を脇役だと考えています。しかし捜査機関の図面では、紹介する側こそが仕組みの中心に描かれます。この位置づけの差を埋める作業は、早いほど有利です。ご相談は、任意で話を聞きたいと言われた段階からで十分に間に合います。
本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。また、過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年8月時点の情報です。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
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舟渡国際法律事務所
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