刑の消滅(刑法34条の2)は入管手続にどこまで及ぶか|前科の射程をめぐる制度解説
2026/08/21
「10年経てば前科は消えると聞きました。もう在留や帰化に影響しないのでしょうか」。この質問を、当事務所は繰り返しお受けしてきました。刑法には確かに刑の消滅という制度があります。しかし、その効果が入管手続の各場面にどこまで及ぶのかは、条文を並べただけでは見えてきません。今回は、制度の構造を確認したうえで、実務で生じている問題と、当事務所の考え方を整理いたします。
本記事の要点
- 刑法27条により、刑の全部の執行猶予の期間が経過したときは、刑の言渡しは効力を失います。
- 刑法34条の2は、拘禁刑以上の刑の執行を終わり又は執行の免除を得た者が、その後一定期間、罰金以上の刑に処せられなかったときに、刑の言渡しが効力を失う旨を定めています。
- 退去強制事由の規定は「処せられた者」という過去の事実に着目する構造をとっており、刑の消滅と当然に連動するものではないと理解されてきました。
- 永住許可や帰化の審査においては、素行の評価という別の枠組みが働きます。
- 刑の消滅の効果が及ぶ範囲は、責任主義と比例原則の観点から、なお検討に値する論点です。
刑法上の制度を確認する
刑の全部の執行猶予を受けた方について、猶予の期間が取り消されることなく経過すれば、刑法27条により刑の言渡しは効力を失います。実刑に服した方については、刑法34条の2が、執行終了等の後、拘禁刑以上の刑については10年、罰金以下の刑については5年、罰金以上の刑に処せられることなく経過したときに、刑の言渡しが効力を失うと定めています。これらは、一定期間を無事に過ごした方について、法的な地位を回復させる趣旨の制度です。
入管手続では何が問題になるのか
他方、入管法の退去強制事由は、たとえば24条4号リが「無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者」と規定するように、過去に一定の刑に処せられたという事実に着目する構造をとっています。この構造ゆえに、刑の消滅によって当然に退去強制事由該当性が失われるわけではない、という理解が実務では踏襲されてきました。上陸拒否事由についても同様の議論があります。
また、永住許可の審査における素行の要件や、帰化の審査における素行の要件は、退去強制事由とは別の枠組みで判断されます。刑の言渡しが効力を失ったことは有利な事情として主張し得ますが、それだけで審査が終わるわけではありません。
この構造をどう考えるか
刑法が一定期間の経過をもって法的地位の回復を認めた趣旨は、更生した者に社会復帰の道を開くという点にあります。その趣旨を、行政処分の場面でどこまで尊重すべきなのか。責任主義の射程、そして不利益の期間が実質的に無期限となることの比例原則上の問題は、正面から論じられてよい課題です。松村大介弁護士は、退去強制事由の判断に故意・過失を要しないとする従来の実務に対し、責任主義の射程を問う訴訟を提起し、係争してまいりました(事例D-2)。前科の射程をめぐる本稿の論点も、同じ問題意識の延長線上にあります。
また、行政処分の効力や争い方をめぐる論点についても、当事務所は実務の前提を問い直す姿勢を取ってまいりました。ストーカー規制法4条1項に基づく文書警告の取消し等が争われた事件(令和6年6月26日大阪高裁判決)では、警告が銃砲刀剣類所持等取締法上の欠格事由と結びつけられている点に着目した主張を展開し、訴え自体は却下されたものの、この事件で立てた警告の処分性という論点は、その後、重要判例解説をはじめとする学術誌で取り上げられ、検討の対象となっております(事例G-1)。
実務上の心得
- 過去の刑事処分については、隠すのではなく、記録に基づいて正確に説明することが基本です。申告の不正確さは、それ自体が素行の評価に影響します。
- 判決謄本、執行終了を示す資料、その後の納税や就労の記録を整えておくことが、更生の実体を示す資料になります。
- 刑の消滅の効果をどこまで主張できるかは、手続ごとに異なります。永住、帰化、更新、再入国のいずれを目指すのかによって、組み立てが変わります。
当事務所について
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区)の松村大介弁護士は、刑事弁護と入管・行政訴訟の双方に軸足を置き、実務の前提そのものを検討の対象としてまいりました。入管手続の場面では、婚姻・認知の手続が未了で当局から一旦不受理とされた事案において、憲法的観点から当局と交渉し、過去の許可事例を分析することで在留特別許可を獲得した事例がございます(事例D-1)。
接見の初動から公判の結審まで、松村弁護士が全工程を直接担当いたします。外国人事件に精通した中国語専属通訳が常駐しており、制度の込み入った説明もご本人の言語で丁寧にお伝えいたします。刑事手続の終了後の在留資格の更新・変更については、提携の行政書士とともにワンストップで対応しております。
おわりに
刑を終えた後の時間をどう評価するのか。この問いは、制度の技術的な解釈であると同時に、その人が社会の一員として再び歩むことを認めるかどうかという問題でもあります。条文の文言だけで答えを決めてしまわず、制度の趣旨に立ち返って考えること。当事務所は、その姿勢を大切にしております。
本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。また、過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年8月時点の情報です。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
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