転職に伴う資料の持出しが営業秘密侵害罪に|不正競争防止法21条と技術・人文知識・国際業務の在留資格
2026/08/21
日本企業に勤めておられた外国籍の技術者・営業担当の方が、退職や転職の際に持ち出した資料をめぐって、営業秘密侵害の疑いで捜査を受けるという相談が増えています。「自分が作った資料だから」「後任への引継ぎのつもりだった」というご説明を伺うことも少なくありません。しかし、この類型は法定刑が重く、外国籍の方にとっては在留資格の帰趨にも直結します。この記事は、会社から警告書が届いた段階の方、また警察から連絡を受けた方に向けて書いています。
本記事の要点
- 営業秘密侵害罪(不正競争防止法21条1項)の法定刑は10年以下の拘禁刑若しくは2000万円以下の罰金、又はその併科です。
- 国外において使用する目的である場合には、罰金額が加重される類型が設けられています。
- 成否の分岐点は、秘密管理性・有用性・非公知性という営業秘密の三要件と、図利加害目的の有無です。
- 1年を超える実刑となれば入管法24条4号リの退去強制事由に該当し得るほか、更新審査でも重く見られます。
- 刑事事件と並行して、民事の差止め・損害賠償請求が提起されることもあります。
どのように立件されるのか
端緒は、退職者のパソコンのログ解析や、私用の記憶媒体・クラウドへの送信履歴の発見であることが多いところです。会社が調査結果をもとに刑事告訴を行い、その後、家宅捜索、パソコンや携帯電話の押収へと進みます。逮捕を伴う場合もあれば、在宅で取調べが続く場合もあります。
ここで争点となるのは、まず、持ち出された情報が法的に保護される営業秘密といえるかどうかです。アクセス制限や秘密表示がどの程度なされていたか、社内で広く共有されていた情報ではないかといった点が問題となります。次に、図利加害目的、すなわち不正の利益を得る目的や保有者に損害を加える目的があったかどうかです。単に整理し忘れた私用端末に残っていたにすぎない場合と、転職先での使用が具体的に予定されていた場合とでは、評価は大きく異なります。
外国籍の方にとっての在留リスク
この類型で1年を超える実刑判決を受けた場合、入管法24条4号リの退去強制事由に該当し得ます。もっとも、より現実的な影響は在留期間更新の場面に現れます。技術・人文知識・国際業務の在留資格は、雇用先での活動を前提とするものですから、刑事事件を契機に退職や解雇に至れば、活動の実体そのものが失われます。入管法22条の4は、在留資格に応じた活動を継続して3か月以上行っていない場合を在留資格の取消事由として掲げており、次の就職先を確保できないまま時間が経過することのリスクは小さくありません。
故意・目的を争うことの意味
当事務所は、故意や目的を争うことを、単なる刑事上の防御にとどまらないものと考えています。退去強制事由の判断について、入管実務は長らく故意・過失を要件としないという運用を踏襲してきました。この運用に対し、松村大介弁護士は、責任主義の射程が行政処分にどこまで及ぶのかを正面から問う訴訟を提起し、係争してまいりました。刑事の段階から目的の不存在を裏付ける資料を残しておくことは、将来、入管手続の場面で主張を組み立てる際の土台となります。
初動で押さえたい3つのこと
- 会社の調査担当者からのヒアリングに、弁護人に相談しないまま応じることは避けたいところです。その場での説明が、そのまま告訴状に添付される場合があります。
- 端末やクラウド上のデータを自ら消去することは、証拠隠滅と評価される危険を伴います。対応は弁護人と相談のうえ決めてください。
- 取調べでは、技術的な説明が通訳を介して行われます。専門用語の訳出が不正確であれば、供述の意味が変わってしまいます。当事務所では、外国人事件に精通した中国語専属通訳が同席し、正確な意思疎通を支えます。
当事務所について
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区)の松村大介弁護士は、中国籍の依頼者を中心に、企業をめぐる紛争と刑事事件の双方に対応してまいりました。外資系企業の支配権紛争において依頼者側の勝訴を得た事例(事例H-2)、虚偽の株主総会決議による代表取締役解任事件で東京地裁・東京高裁のいずれにおいても勝訴した事例(事例H-1)がございます。
また、インターネットをめぐる紛争にも取り組んでおり、Facebookのなりすましアカウントを仮処分手続によって削除した事例(事例F-3)のように、デジタル上の証拠を扱う経験を有しております。営業秘密事案では、ログや通信記録といったデジタル証拠の意味を正確に読み解くことが不可欠です。
接見の初動から公判の結審まで、松村弁護士が全工程を直接担当いたします。刑事手続の終了後の在留資格の更新・変更については、提携の行政書士とともに対応しております。
おわりに
職業人としての技能や経験は、その方自身のものです。しかし、その技能を形にした資料が誰に帰属するのかは、別の問題として法が線を引いています。この線引きは必ずしも直感的ではなく、悪意なく越えてしまう方が少なくありません。だからこそ、経緯を丁寧に説明し、目的がなかったことを示していく作業に意味があります。
本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。また、過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年8月時点の情報です。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
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住所 : 東京都豊島区高田3丁目4-10布施ビル本館3階
電話番号 :050-7587-4639
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