「初犯だから在留資格には影響しない」という誤解|前科の有無ではなく、罪名と刑の種類で決まる
2026/08/20
ご相談の場で、「初めてのことですし、前科もありませんから、在留資格には影響しませんよね」と尋ねられることがございます。日本人の刑事事件であれば、初犯かどうかは量刑を大きく左右いたしますので、この感覚は自然なものです。
しかし、外国籍の方の在留については、話が変わります。入管法が定める退去強制事由は、前科の有無を基準としておりません。何の罪で、どのような刑に処せられたかによって、結論が決まる構造になっているからです。本記事では、その仕組みを整理いたします。
本記事の要点
- 入管法24条各号は、前科の有無ではなく、罪名と刑の種類・重さを基準としている。
- 薬物に関する法令違反での有罪は、初犯であっても入管法24条4号チの退去強制事由となる。
- 1年を超える拘禁刑の実刑は、初犯であっても同条4号リに該当する(全部執行猶予の場合は除外される)。
- 退去強制事由に該当しなくても、在留期間の更新が認められないという別の経路が存在する。
- 初犯であることは、不起訴処分を求める場面と、在留特別許可を求める場面でこそ意味を持つ。
1 入管法は「初犯かどうか」を問うていない
まず、条文の作りを見てまいります。入管法24条4号チは、薬物に関する法令の規定に違反して有罪の言渡しを受けた者を退去強制事由として掲げております。ここには、刑の重さによる限定も、執行猶予による除外も、初犯であることによる例外もございません。大麻の所持で初めて摘発され、執行猶予付きの判決を受けた方であっても、条文上は該当いたします。
他方、同条4号リは、無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者を掲げつつ、刑の全部の執行猶予の言渡しを受けた者を除く旨を定めております。こちらは刑の重さと執行猶予の有無で線が引かれており、罪名は問われません。
この二つを並べれば、構造の違いは明らかです。初犯かどうかという要素は、いずれの号にも書かれておりません。ですから、「初犯だから大丈夫」という説明は、条文の作りに照らして根拠を欠くものと申し上げざるをえません。
2 初犯であることが効いてくる場面
とはいえ、初犯であることに意味がないわけではございません。効いてくる場面が違うのです。
第一は、起訴・不起訴の判断です。検察官は、犯情のほか、犯人の性格、年齢、境遇、犯罪後の情況を考慮して起訴を見合わせることができます(刑事訴訟法248条)。前科がないことは、この判断において確かに有利に働きます。そして、不起訴処分となれば、有罪の言渡しを受けたことにはなりませんので、4号チも4号リも問題となりません。ここに、外国籍の方の弁護が不起訴処分を最優先の目標に据えるべき理由がございます。
第二は、退去強制手続まで進んでしまった場合の在留特別許可の判断です。入管法50条5項は、在留を希望する理由、家族関係、素行、在留の状況、人道上の配慮の必要性その他の事情を考慮する旨を定めております。前科がないことは、素行の評価において意味を持ちます。出入国在留管理庁は許可・不許可の事例を年度ごとに公表しており、これらは行政自身が許可相当と判断した先例です。同種の事情がある事案に許可の実績があるにもかかわらず、本件のみ異なる取扱いをすることは、合理的な理由を欠く限り、憲法14条1項の趣旨に照らして問題があると考えております。
3 もう一つの経路(在留期間の更新)
退去強制事由に該当しなかったとしても、安心はできません。在留期間の更新は法務大臣の裁量的な判断に委ねられており(入管法21条3項)、在留資格の変更・更新のガイドラインは、素行が善良であることを考慮要素として掲げております。初犯で罰金に終わった場合でも、更新の場面で不利益に評価される例は現に存在いたします。
つまり、外国籍の方が日本に住み続けられるかどうかは、退去強制という入口の問題と、更新という出口の問題の二段構えで決まります。「初犯だから」という一言で、両方の関門を通過できると考えるのは危ういと申し上げるほかございません。
4 では、何を目標に据えるべきか
結論は明快です。起訴前の段階で不起訴処分を獲得すること。これに尽きます。執行猶予付きの判決は、日本人にとっては十分な成果でも、外国籍の方にとっては、罪名によっては在留の喪失を意味します。とりわけ薬物事犯では、執行猶予を目標に置いた弁護方針は、在留という観点から目標設定そのものが誤っております。
初犯であるという事情は、示談や被害弁償、更生環境の整備と組み合わせて、勾留期間中に検察官へ届けることによってはじめて力を持ちます。判決の段階で述べても、在留に対する効き目は限られてしまいます。
5 初動で押さえておきたい3つのこと
第一に、黙秘権を行使できること。
憲法38条1項は自己に不利益な供述を強要されない権利を保障しております。初犯の方ほど、早く帰りたい気持ちから不正確な供述をしてしまいがちです。
第二に、早期に弁護人を選任すること。
23日間という限られた時間の中で示談や資料の収集を進めるには、初日からの活動が必要です。
第三に、通訳の質を確かめること。
捜査機関が手配する通訳人を介した供述は、微妙な言い回しが不利に固定される危険を伴います。
6 当事務所について
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区)では、松村大介弁護士(第一東京弁護士会・登録番号59077・2019年登録)が、接見の初動から公判の結審まで全工程を直接担当いたします。外国人事件に精通した中国語専属通訳が常駐しております。
解決事例として、覚醒剤取締法違反(営利目的所持)で起訴された依頼者について無罪判決を獲得した事例(事例A-1)、公的書類がほとんど存在しない困難な状況の中で証拠を集め、過去の許可事例の分析を通じて在留特別許可を獲得した事例(事例D-1)、退去強制事由の判断における故意・過失の要否を正面から争い、その後に在留特別許可が認められた事例(事例D-2)がございます。刑事手続終了後の在留資格の更新・変更については、提携する行政書士と連携して対応いたします。
結語
初めての過ちであることは、日本の刑事手続において確かに考慮されます。ただ、その考慮が働く場所は、判決の場よりも前、起訴するかどうかを決める場面にございます。そして在留を守るという観点からは、そこが最大の分かれ道です。初犯だからと構えずに、早い段階でご相談いただければと存じます。
本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。また、過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年8月時点の情報です。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
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