会社の代表者に名前を貸してほしいと頼まれたら|電磁的公正証書原本不実記録と「経営・管理」の在留資格
2026/08/20
近時、国際的な犯罪組織の関係者が、日本国内に実体のない会社を設立し、あるいは虚偽の届出を行って身元を整えていたとされる事案が相次いで報じられております。2026年6月には、大規模な国際犯罪組織の幹部とされる人物が、虚偽の転入届を提出した疑いで逮捕されたとの報道もございました。
こうした構造の周辺には、必ず「名前を貸しただけ」という立場の方がいらっしゃいます。知人から頼まれて代表取締役に就任した、口座の開設に協力した、事務所の賃貸借契約の名義人になった。ご本人の意識としては単なる手伝いであっても、法的にはご自身の刑事責任と在留資格の双方が問われる場面が生じます。
本記事の要点
- 実体のない会社の設立登記に関与すれば、電磁的公正証書原本不実記録罪(刑法157条1項)として、5年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金の対象となりうる。
- 居住実態のない住所での転入届も、同様に公正証書原本不実記録等の問題となる。
- 設立された会社が詐欺やマネー・ローンダリングに用いられた場合、幇助や共同正犯としての責任が問われうる。
- 「経営・管理」の在留資格は事業の実体を前提としており、実体を欠けば在留資格取消しの対象となる。
- 名義を貸した経緯と認識の内容が、刑事・入管の双方における最大の争点となる。
1 名義貸しがどの犯罪にあたりうるのか
会社の設立登記は、登記官という公務員に対して申請を行い、登記記録という電磁的な公文書を作らせる手続です。実体のない会社について、あるいは真実の意思のない代表者を掲げて登記を経由させれば、公務員に対し虚偽の申立てをして電磁的公正証書の原本に不実の記録をさせた行為として、刑法157条1項の問題となり、法定刑は5年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金です。その登記記録を利用すれば、供用罪も問題となります。居住実態のない住所への転入届も、同じ構造で捉えられます。
さらに、その会社の名義で開設された銀行口座が特殊詐欺の振込先として用いられたり、犯罪収益の移転に使われたりした場合には、詐欺罪の幇助あるいは共同正犯、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反といった、より重い構成が検討されることになります。
2 「知らなかった」は争えるのか
争える場合はございます。ここでも決め手となるのは、ご本人の認識の内容です。単に会社を作る手伝いを頼まれたにすぎないのか、それとも、その会社が正常な事業のためのものではないと感じながら関与したのか。この違いが、幇助の故意の有無を分けます。
捜査機関は、報酬の額と名目、依頼者との関係の深さ、設立から口座開設までの時間の短さ、通帳やカードを直ちに引き渡したかどうかといった事実から、認識を推認しようといたします。他方、弁護の側からは、依頼を受けた際の説明内容、事業計画の存在、実際に業務を行おうとした形跡、報酬が相場から逸脱していないことなどを、記録に基づいて示していくことになります。
当事務所は、こうした故意・過失の議論を刑事事件の中だけの問題とは捉えておりません。退去強制事由の判断にあたって故意・過失は不要であるとする入管実務の運用に対し、責任主義の射程を問う訴訟を提起して争ってまいりました(事例D-2)。名義を貸したという外形だけで一律に不利益を課してよいのかという問題意識は、この類型にも共通いたします。
3 「経営・管理」の在留資格への影響
「経営・管理」の在留資格は、日本において事業の経営を行い、又は管理に従事する活動を前提とするものです(入管法別表第一の二)。したがって、会社に事業の実体がなく、代表者が経営に関与していない場合には、在留資格に対応する活動を行っていないことになります。この状態が3か月以上継続すれば、入管法22条の4第1項5号による在留資格の取消しが問題となります。また、虚偽の資料を提出して在留資格を得ていたと判断されれば、同項1号ないし2号の系列による取消しの対象ともなりえます。
加えて、刑事処分の結果として1年を超える拘禁刑の実刑を受ければ入管法24条4号リの退去強制事由に該当いたします。同号には刑の全部の執行猶予を受けた者を除く旨の除外規定がございますが、執行猶予であっても在留期間の更新が認められるとは限りません。この点は、入管法21条3項の裁量判断の問題として、別に検討する必要がございます。
4 不起訴処分を目標とすること
名義貸しの事案では、関与の程度に大きな幅がございます。事情を知りつつ組織的に多数の会社を設立していた方と、知人に頼まれて一度だけ代表者に就任した方とでは、責任は同じではありません。その違いを、勾留期間中に検察官へ具体的に示すことができれば、不起訴処分の余地は現実に存在いたします。
在留を守るという観点からは、有罪判決を避けること自体に独立した価値がございます。執行猶予を得ることを最終目標に据えるのではなく、起訴前の段階で決着を図るという方針を、初動から明確にすることが重要です。
5 初動で押さえておきたい3つのこと
第一に、黙秘権を行使できること。
誰から、どのような説明を受けて名義を貸したのかという点は、後に故意の有無を決する核心となります。憲法38条1項に基づき、方針が定まるまで供述を控えるという選択肢がございます。
第二に、早期に弁護人を選任すること。
この類型では、会社の登記・契約・送金に関する資料が多数存在いたします。散逸する前に確保できるかどうかが結論を左右いたします。
第三に、通訳の正確性を確保すること。
経営の実態や事業計画に関する説明は、専門用語を伴います。訳出が不正確であれば、事業の実体そのものが否定されかねません。
6 当事務所について
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区)は、外国人刑事弁護と入管手続に注力しております。松村大介弁護士(第一東京弁護士会・登録番号59077・2019年登録)が、接見の初動から公判の結審まで全工程を直接担当し、外国人事件に精通した中国語専属通訳が常駐しております。
企業をめぐる紛争については、虚偽の株主総会決議によって代表取締役を解任されたとされる事案において、決議の不存在を主張し、東京地方裁判所・東京高等裁判所のいずれにおいても認められた事例がございます(事例H-1)。また、卸売業を営む依頼者が取り込み詐欺の被害に遭った事案では、刑事告訴を端緒として相手方を特定し、被害額を上回る7,500万円の解決金を得た事例もございます(事例C-1)。入管手続の面では、退去強制事由の判断における故意・過失の要否という論点を正面から争い、その後に在留特別許可が認められた事例がございます(事例D-2)。刑事手続終了後の在留資格の手続については、提携する行政書士と連携して対応いたします。
結語
名前を貸すという行為は、貸した側にとっては一瞬の判断です。しかし、その名前は登記簿に残り、口座に残り、契約書に残ります。頼まれた段階でご相談いただければ避けられたはずの事態も少なくございません。すでに事情を聴かれている段階であっても、経緯を正確に整理することで採りうる道はございます。
本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。また、過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年8月時点の情報です。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
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住所 : 東京都豊島区高田3丁目4-10布施ビル本館3階
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