実習先から失踪した後に空き家侵入で逮捕されたら|住居侵入・窃盗と不法残留の二重立件をどう受け止めるか
2026/08/20
2026年8月19日、ガラスを焼いて割る、いわゆる「焼き破り」の手口で空き家に侵入したとして、ベトナム国籍の男性3人が逮捕されたと報じられました。報道によれば、3人はいずれも技能実習生として来日した後、仕事を辞めて在留期間を超過した状態にあったとされています。同様の構造は、中国籍の元技能実習生・元留学生の方にも見られ、当事務所にも同種のご相談が寄せられております。
この類型の特徴は、財産犯の嫌疑と入管法違反の嫌疑が同時に立つことにあります。ご本人にとっては「働けなくなって生活に困った末のこと」であっても、手続の上では二つの別々の問題として進行いたします。ご家族の方が最初に混乱されるのも、まさにこの点です。
本記事の要点
- 住居侵入罪(刑法130条前段)は3年以下の拘禁刑又は10万円以下の罰金、窃盗罪(刑法235条)は10年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金である。
- 空き家であっても、人の看守する邸宅・建造物にあたれば侵入罪は成立しうる。
- 不法残留は入管法24条4号ロの退去強制事由であり、刑事処分の結果にかかわらず独立して手続が進む。
- 実習実施機関から失踪した経緯そのものが、在留特別許可の判断で重要な事情として評価される場面がある。
- 刑事処分の見通しと入管手続の見通しは別々に立てる必要があり、刑事弁護人は当初から両方を視野に入れて活動すべきである。
1 二つの手続が同時に動くという構造
まず押さえていただきたいのは、刑事手続と入管手続が別の建物で、別の担当者によって、別の基準で進むという点です。刑事手続では、住居侵入や窃盗といった個別の行為について、証拠に基づいて罪責が判断されます。他方、入管手続では、在留期間を超えて日本に残っていたという客観的事実があれば、入管法24条4号ロの退去強制事由に該当するものとして手続が始まります。
そのため、仮に窃盗の嫌疑について不起訴処分を得たとしても、それだけで日本に残れることが確定するわけではございません。逆に、刑事手続が続いている間は入管への引渡しが行われないため、その期間をどう使うかが、後の在留特別許可の可能性を大きく左右いたします。
2 空き家への侵入をめぐる法的な整理
住居侵入罪は、正当な理由なく人の住居や、人の看守する邸宅・建造物に侵入する行為を処罰するものです(刑法130条前段)。長期間人が住んでいない家屋であっても、所有者や管理者が施錠し、定期的に見回るなどして管理していれば、人の看守する邸宅にあたると判断される場合がございます。したがって「誰も住んでいなかった」という認識だけでは、侵入罪の成立を否定することはできません。
他方、複数人が関与した事案では、誰がどの家屋に、どの範囲で関与したのかが必ずしも明確ではないことがあります。捜査機関は往々にして、一連の被害を一体のものとして構成しようといたします。一件ごとに、関与の有無と態様を証拠に照らして切り分けていく作業は、量刑にも、後述する退去強制事由の該当性にも直結いたします。
3 退去強制と在留への影響
不法残留の状態にある方は、それだけで入管法24条4号ロの退去強制事由に該当いたします。加えて、1年を超える拘禁刑の実刑判決を受けた場合には、同条4号リにも該当いたします。もっとも、4号リには刑の全部の執行猶予の言渡しを受けた者を除く旨の除外規定がございます。
そのうえで、退去強制手続に進んだ場合、最後の関門となるのが在留特別許可です。ここでは、在日期間の長さ、家族関係、発覚の経緯が出頭申告か摘発か、素行、そして人道上の配慮を要する事情が総合的に考慮されます(入管法50条5項各号)。出入国在留管理庁は許可・不許可の事例を年度ごとに公表しており、これらは行政自身が許可相当と判断した先例です。同種の事情がある事案について許可の実績があるにもかかわらず、本件についてのみ異なる取扱いをすることは、合理的な理由を欠く限り、法の下の平等を定める憲法14条1項の趣旨に照らして問題があると考えております。
4 なぜ不起訴処分を目指すのか
在留特別許可の判断では、素行が重要な考慮要素となります。刑事処分の内容は、そのまま素行の評価に反映されます。起訴されて有罪判決を受けた場合と、不起訴処分にとどまった場合とでは、入管手続における出発点が大きく異なります。ですから、この類型では、まず起訴前の段階で被害弁償や示談に取り組み、関与の程度を正確に示して不起訴処分を求めることが、在留を守るための第一歩となります。
「執行猶予が付いたから日本に居られる」という説明は、入管法24条各号の構造を踏まえたものとは言えません。当事務所では、刑事手続の初動の段階から退去強制手続を一体的に視野に入れ、不起訴処分の獲得を最優先の目標として弁護方針を組み立てております。
5 初動で押さえておきたい3つのこと
第一に、黙秘権を行使できること。
取調べでは供述を拒むことができます(憲法38条1項)。特に余罪の有無を尋ねられる場面では、記憶の曖昧なまま答えることが、関与していない被害まで背負う結果につながりかねません。
第二に、早期に弁護人を選任すること。
当番弁護士制度により、逮捕後1回は無料で弁護士を呼ぶことができます。その後の継続的な活動には私選弁護人の選任をご検討ください。
第三に、通訳を通じた供述の正確性に注意すること。
捜査機関側の通訳人を介した調書は、微妙な言い回しが不利に固定される危険があります。弁護人の側で独自に通訳を手配することの意味は、この点にございます。
6 当事務所について
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区)では、松村大介弁護士(第一東京弁護士会・登録番号59077・2019年登録)が、接見の初動から公判の結審まで全工程を直接担当いたします。中国語専属通訳が常駐しており、接見・打合せ・取調べへの対応にご利用いただけます。
入管手続の面では、観光目的で来日した相談者が在留資格を失い、不法滞在で逮捕・起訴された事案において、婚姻・認知の手続を実現させたうえで、国籍国発行の公的書類がほとんど存在しないという状況の中から有利な証拠を集め、過去の許可事例を分析することで在留特別許可を獲得した事例がございます(事例D-1)。また、不法就労助長罪に問われて強制退去の危機にあった女性の事案では、退去強制事由に故意・過失は不要とする従来の実務に対し、責任主義の射程を問う訴訟を提起して争い、その後に在留特別許可が認められました(事例D-2)。特殊詐欺の出し子とされた事案で、主観的事情を総合的に主張して不起訴処分を得た事例もございます(事例B-1)。刑事手続終了後の在留資格の手続については、提携する行政書士と連携して対応いたします。
結語
実習先を離れた後の生活の困窮という背景事情は、罪を軽くする万能の理由にはなりません。けれども、それを含めた経緯を、証拠とともに正確に伝えることは、刑事処分の内容にも、その後の在留の判断にも意味を持ちます。二つの手続が同時に動くこの類型では、早い段階で全体の見取り図を描いておくことが何よりも重要です。
本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。また、過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年8月時点の情報です。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
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