一度日本を出されると、何年入れないのか|入管法5条1項の上陸拒否事由を、号ごとに読み解く
2026/08/17
「5年経てば戻れると聞いた」「いや、10年だと言われた」「薬物だから一生無理らしい」。退去強制を受けた方やそのご家族から伺うお話は、しばしば食い違います。
食い違いが生じるのは当然でして、入管法5条1項の上陸拒否事由は、号ごとに趣旨も期間の定め方もまったく異なる構造をとっているためです。ある号は期間の定めがなく、ある号は5年、ある号は1年です。「何年か」という問いに一つの答えはありません。本記事では、この構造を号ごとに整理いたします。
本記事の要点
- 上陸拒否事由には、期間の定めのないものと、期間の定めのあるものの二種類があります。
- 1年以上の拘禁刑に処せられた経歴(5条1項4号)と、薬物関係の法令違反による処罰の経歴(同項5号)は、期間の定めのない拒否事由です。
- 退去強制歴に基づく拒否(同項9号)は、初回の退去強制であれば5年、それ以外であれば10年が原則です。
- 出国命令により出国した場合は1年に短縮されます(同項9号ニ)。
- 期間の経過を待てない事情がある場合には、上陸特別許可(同法12条1項)や上陸拒否の特例(同法5条の2)を求める道筋があります。
期間の定めのない上陸拒否事由
まず押さえていただきたいのは、退去強制歴とは無関係に働く拒否事由があるという点です。
入管法5条1項4号は、日本国又は日本国以外の国の法令に違反して1年以上の拘禁刑に処せられたことのある者について、上陸を拒否する旨を定めています。ここには期間の制限が付されておりません。すなわち、判決から何年経過しても、この事由は残ります。なお、政治犯罪により刑に処せられた者については除外されています。
同項5号は、麻薬、大麻、あへん、覚醒剤等に係る法令に違反して刑に処せられたことのある者を掲げています。こちらは、刑の重さを問いません。罰金であっても、執行猶予付きであっても、該当します。そして、やはり期間の定めがありません。薬物事犯が外国人にとってきわめて重い意味を持つのは、退去強制の場面(同法24条4号チ)だけでなく、この上陸の場面でも同様なのです。
このほか、人身取引等に関わる者、売春に関係する業務に従事したことのある者、銃砲刀剣類等の規制に違反した者についても、期間の定めのない拒否事由が置かれています。
退去強制歴に基づく期間の定めのある拒否事由
同項9号は、退去強制や出国命令を受けた者について、一定の期間を経過していない場合に上陸を拒否する旨を定めています。実務でよく問題になるのは、次の区分です。
初回の退去強制、すなわち、その退去の日前に退去強制を受けたことも、出国命令により出国したこともない方については、退去した日から5年です。
これに対し、二度目以降の退去強制を受けた方については、退去した日から10年となります。
出国命令により出国した方については、1年です。出国命令制度は、不法残留であって一定の要件を満たす方が、収容されることなく自ら出国できる制度であり、その代わりに上陸拒否期間が大幅に短縮されています。この差は5年と1年ですから、決して小さくありません。摘発される前に、要件を満たすうちに出頭を検討する意味が、ここにあります。
なお、上陸を拒否された経歴そのものに基づく1年の拒否期間も定められており、複数の事由が重なる場合には、それぞれの期間を個別に検討する必要があります。
期間の経過を待てないとき
家族が日本にいる、事業の拠点が日本にある、治療を日本で受ける必要がある。期間の経過を待てない事情は、現実には少なくありません。
この場合の道筋が二つあります。
第一が、上陸特別許可です。入管法12条1項は、法務大臣が特別に上陸を許可すべき事情があると認めるときに、上陸を許可することができる旨を定めています。これは、上陸の審査で拒否事由に該当すると判断された後に、特別審理官の口頭審理を経て求めていくものです。
第二が、上陸拒否の特例です。同法5条の2は、法務大臣が、外交上の考慮又は人道上の配慮その他特別の事情があると認めるときは、一定の上陸拒否事由について、当該事由に該当しないものとみなすことができる旨を定めています。査証の申請段階から、この特例の適用を求めていく方法です。
いずれも、行政の広範な裁量のもとにある判断であり、結果を保証できるものではありません。もっとも、判断の枠組みが定められている以上、そこに向けて主張と資料を組み立てることは可能です。日本における家族関係の実態、退去強制に至った事情の性質、その後の期間における生活状況、再び同様の事態を招かないための具体的な担保。これらを、公表されている過去の許可事例と対照しながら示していくことになります。
期間の定めのない拒否と、憲法的な視座
期間の定めのない上陸拒否は、制度として重い効果を伴います。日本に配偶者や子がいらっしゃる方にとって、それは家族生活の継続そのものを困難にする効果を持ちます。
この点について、当事務所は、行政の裁量が広いとされる領域であっても、その行使は比例原則に服し、家族生活の尊重(市民的及び政治的権利に関する国際規約17条、23条)や個人の尊重(憲法13条)と調和的に解釈されるべきである、との立場から主張を組み立ててまいりました。同時に、行政自身が公表してきた過去の許可事例との対比を通じ、合理的な理由なく異なる取扱いをすることは平等原則(憲法14条1項)に照らして問題があると論じる方法も、実務上有効です。
さらに、退去強制事由の判断そのものについて、故意・過失を要件としない従来の運用の当否は、責任主義の射程をめぐる問題として、なお議論が続いております。この論点は、当事務所の松村大介弁護士が正面から問うてきたものであり、現在も進行中の議論として位置づけられます。
当事務所のご案内
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区)は、松村大介弁護士(第一東京弁護士会・登録番号59077・2019年登録)が、中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護と入管手続に注力しております。
入管手続の解決事例としては、在留資格を失って不法滞在で逮捕・起訴された方について、婚姻・認知の手続が未了であったところを憲法上の観点から当局と交渉して整え、国籍国発行の公的書類がほとんど存在しない状況下で有利な資料を収集し、入管当局の過去の許可事例を分析したうえで、一度の申請で在留特別許可を獲得した事例がございます。また、不法就労助長罪に問われて強制退去の危機に瀕した女性の事案において、従来の実務に対し責任主義の射程を問う訴訟を提起して上訴審まで争い、その後、入管から在留特別許可が認められた事例もございます。
松村大介弁護士が接見の初動から公判の結審まで全工程を直接担当し、外国人事件に精通した中国語専属通訳が常駐しております。在留資格の更新・変更については、提携の行政書士とともに対応いたします。
なお、過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
おわりに
「何年で戻れるのか」という問いに正確に答えるには、どの号に該当しているのかを特定するところから始める必要があります。号を取り違えたまま時間だけが過ぎてしまうことは、避けたいところです。ご自身やご家族の状況について、まずは事実関係の整理からご相談いただければと存じます。
なお、条文の号の細部は改正により変動し得ますので、実際の手続にあたっては、その時点の条文をご確認ください。
本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年8月時点の情報です。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。
覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
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住所 : 東京都豊島区高田3丁目4-10布施ビル本館3階
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