舟渡国際法律事務所

刑事事件の記録は入管にどう流れるのか|退去強制手続の三段階と、在留特別許可の考慮事情

お問い合わせはこちら

刑事事件の記録は入管にどう流れるのか|退去強制手続の三段階と、在留特別許可の考慮事情

刑事事件の記録は入管にどう流れるのか|退去強制手続の三段階と、在留特別許可の考慮事情

2026/08/16

刑事手続が終わっても、外国人の方の事件は終わりません。次に始まるのが入管の手続です。そして、この二つの手続は別個のものでありながら、実際には刑事手続で作られた記録が、そのまま入管の判断材料として流れ込んでいきます。この構造を知らないまま刑事手続を終えてしまうと、後から取り返しがつかない場面が生じます。制度の骨格を、条文に即して整理いたします。

本記事の要点

  • 入国警備官は、入管法24条各号に該当すると思料する外国人について違反調査を行うことができます(入管法27条)。
  • 違反調査では容疑者の出頭を求めて取り調べ、供述を調書に記載します(同法29条)。
  • 退去強制手続は、入国審査官の審査(45条)、特別審理官の口頭審理(48条)、法務大臣への異議の申出(49条)という三段階の構造を採っています。
  • 在留特別許可の判断では、退去強制の理由となった事実を含む8つの事情が考慮されます(同法50条5項)。

刑事と入管は別の手続である

まず押さえるべきは、刑事手続と退去強制手続は、目的も判断権者も異なる別個の手続だという点です。刑事手続は犯罪に対する国家の刑罰権の行使であり、裁判所が判断します。退去強制手続は行政上の措置であり、入国審査官、特別審理官、法務大臣という行政機関の系統で判断されます。

したがって、刑事で不起訴となったからといって、入管が同じ事実を認定できなくなるわけではありません。逆に、刑事で有罪となっても、退去強制事由に当たるかどうかは条文の要件に照らして別途判断されます。この独立性が、外国人事件の弁護を難しくすると同時に、争う余地を残す出発点でもあります。

退去強制手続の三段階

入国警備官は、入管法24条各号のいずれかに該当すると思料する外国人があるときは、違反調査をすることができます(同法27条)。調査のため必要があるときは容疑者の出頭を求めて取り調べ、その供述を調書に記載しなければなりません(同法29条1項・2項)。この調書は、容疑者に閲覧させ、または読み聞かせて署名させることとされています(同条3項)。

その後、事件が入国審査官に引き渡されると、退去強制対象者に該当するかどうかが審査され、審査に関する調書が作成されます(同法45条)。認定に異議があれば、通知の日から3日以内に特別審理官への口頭審理を請求でき(同法48条1項)、その判定にも異議があれば、3日以内に法務大臣へ異議を申し出ることができます(同法49条1項)。

注意していただきたいのは、この3日という期間の短さです。刑事手続の感覚で構えていると、争う機会を失いかねません。在留特別許可の申請は、退去強制令書が発付された後はできず(同法50条3項)、認定または判定に服し、あるいは異議の申出が理由がないと裁決された後でなければすることができません(同条4項)。手続の順序と期限を把握しておくことが、それ自体で防御になります。

刑事記録はどう流れるのか

入管の判断は、白紙から行われるわけではありません。逮捕の事実、罪名、判決の主文と理由、そして刑事手続で作成された供述調書の内容は、退去強制事由の該当性と、在留特別許可の要否の双方について、判断の土台になります。

ここに、刑事弁護の段階で意識しておくべき実務的な含意があります。第一に、供述調書に何を残すかは、入管の判断への影響まで見通して決める必要があります。刑事の量刑を軽くするために事実を広く認めることが、退去強制事由の認定を容易にしてしまう場面があるからです。第二に、事実関係のうち、故意や認識の有無に関わる部分は、後の入管手続で最も争いにくくなる部分です。第三に、家族関係、在留期間、就労状況といった、入管法50条5項が掲げる考慮事情に関わる資料は、刑事の段階から意識的に収集しておくべきです。

在留特別許可の枠組み

入管法50条1項は、退去強制対象者に該当する場合であっても、法務大臣が在留を特別に許可することができると定めています。ただし、無期もしくは1年を超える拘禁刑に処せられた者(刑の全部の執行猶予の言渡しを受けた者などを除く)や、同法24条3号の2、3号の3、4号ハ、4号オからヨまでのいずれかに該当する者については、在留を許可しないことが人道上の配慮に欠けると認められる特別の事情があると認めるときに限る、とされています。

そして同条5項は、判断にあたり、在留を希望する理由、家族関係、素行、本邦に入国することとなった経緯、本邦に在留している期間、その間の法的地位、退去強制の理由となった事実、人道上の配慮の必要性を考慮するほか、内外の諸情勢等を考慮するものと定めています。令和5年の改正で考慮事情が法律上明示されたことにより、書面はこの8項目を逐条的に埋めていく形で構成するのが基本になりました。

故意・過失は入管でも問えるのか

ここが、当事務所が正面から取り組んでいる論点です。入管の実務は、退去強制事由の該当性を客観的な事実のみで判断し、故意や過失を要件としない扱いを長く続けてきました。しかし、刑事責任の追及において当然の前提とされている責任主義の考え方が、退去強制という重大な不利益処分に一切及ばないという結論は、憲法上の適正手続の要請との関係で検討を要すると考えております。

当事務所は、不法就労助長の嫌疑を受けて強制退去の危機に瀕した女性の事案において、この論点を正面から掲げて争ってまいりました。その後、入管から在留特別許可が認められております。訴訟上の結論と在留特別許可の獲得とは別の事柄であり、この論点は現在も係争中の議論ですが、刑事の段階で認識に関する証拠を残しておくことが、後の入管手続における主張の土台になるという実務的な含意は、既に明確です。

当事務所のご案内

舟渡国際法律事務所(東京都豊島区)の松村大介弁護士は、刑事弁護と入管手続を一体として設計する方針を採っております。在留資格を喪失した状態で刑事事件となった依頼者について、婚姻・認知の手続を進め、国籍国発行の公的書類がほとんど存在しないという困難な状況のなかで有利な証拠を収集し、入管当局の過去の許可事例を分析することで、在留特別許可を獲得した事例もございます。

入管庁が公表している許可事例は、行政庁自身が許可相当と判断した先例です。本件と本質的な事情を同じくする先例が存在するにもかかわらず異なる取扱いをすることは、平等原則との関係で問題を生じ得ます。この視点から公表事例を年度横断的に検証することを、当事務所の標準的な作業としております。

松村大介弁護士が全工程を直接担当し、外国人事件に精通した中国語専属通訳が常駐しております。刑事手続の終了後の在留資格の更新・変更についても、提携の行政書士と連携してご対応いたします。

結語

刑事の判決が出た日は、外国人の方にとって折り返し地点にすぎません。そこから先の手続には、3日という短い期限が並んでいます。刑事の段階で何を残し、何を集めておくか。その設計を早い時期から共有できれば、入管の場で取り得る手段は確実に広がってまいります。

本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。また、過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。

本記事は2026年8月時点の情報です。

執筆者

松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士

第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)

舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)

中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。

お問い合わせ

舟渡国際法律事務所

ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/

微信ID:matsumura1119

本記事の中国語版(简体字)はこちら

----------------------------------------------------------------------
舟渡国際法律事務所
住所 : 東京都豊島区高田3丁目4-10布施ビル本館3階
電話番号 :050-7587-4639


東京にて中国人の方をサポート

東京を中心に刑事事件の弁護

----------------------------------------------------------------------

当店でご利用いただける電子決済のご案内

下記よりお選びいただけます。