職場での争いが殺人未遂に問われたら|裁判員裁判の流れと、執行猶予でも残る在留リスク
2026/08/16
職場での言い争いが、思いがけず重大な結果を招くことがあります。技能実習や就労の在留資格で来日された方が、同僚との口論の末に相手を傷つけ、殺人未遂の疑いで逮捕されたという報道は、決して珍しいものではありません。ご家族にとっては、罪名の重さそのものが理解しにくく、日本の裁判員裁判という仕組みも耳慣れないはずです。この記事は、そうしたご家族に向けて、手続の全体像と在留への影響をお伝えするものです。
本記事の要点
- 殺人未遂は刑法199条・203条の罪であり、法定刑の重い裁判員裁判の対象事件です。
- 殺意の有無が最大の争点となり、傷害罪との境界をどこで引くかで結論が大きく変わります。
- 刑法第2編第26章(殺人の罪)・第27章(傷害の罪)は入管法24条4号の2の列挙に含まれ、別表第一の在留資格をお持ちの方は、執行猶予が付いても退去強制事由に該当し得ます。
- 起訴前の段階から、殺意の不存在と示談の成立に向けた活動を並行させることが要になります。
殺人未遂と傷害はどこで分かれるのか
人を殺した者は死刑または無期もしくは5年以上の拘禁刑に処せられ(刑法199条)、その未遂も処罰されます(同法203条)。他方、傷害罪の法定刑はこれよりはるかに軽く、両者を分けるのは、行為の時点で相手が死ぬかもしれないと認識していたか、という殺意の有無です。
捜査機関は、凶器の種類と大きさ、攻撃した部位、攻撃の回数と強さ、犯行前後の言動、傷の深さといった客観的事情から殺意を推認しようとします。しかし、職場の口論から生じた突発的な事案では、行為者自身に明確な意思がなく、とっさに手元の道具を用いたにすぎないことも少なくありません。この違いを言語化し、証拠に基づいて示すのが弁護人の役割です。
裁判員裁判という舞台
殺人未遂は、市民の裁判員が職業裁判官とともに事実認定と量刑を行う裁判員裁判の対象です。審理の前に公判前整理手続が置かれ、争点と証拠が事前に絞り込まれます。ここでどの主張を掲げ、どの証拠の取調べを求めるかが、審理の枠組みそのものを決めてしまいます。
外国人の被告人にとって、この手続には固有の難しさがあります。法廷での言葉は通訳を介して裁判員に届きますので、訳出の正確さがそのまま印象に直結します。文化的な背景を前提とした説明が、そのまま訳されると誤解を招く場面もあります。弁護人が独自の通訳を確保し、事前に用語を統一しておくことの意味は、この段階で最も大きくなります。
在留への影響は執行猶予でも残る
ここが外国人事件の核心です。入管法24条4号の2は、別表第一の在留資格をもって在留する方について、刑法第2編第26章(殺人の罪)や第27章(傷害の罪)などにより拘禁刑に処せられた場合を退去強制事由として掲げています。この号には、同条4号リのような執行猶予の除外規定が置かれていません。
つまり、技能実習、技術・人文知識・国際業務、留学といった別表第一の在留資格をお持ちの方は、執行猶予付きの判決であっても退去強制事由に該当し得るということです。「執行猶予が付いたから日本に居られる」という説明は、この構造を踏まえていない可能性があります。加えて、無期または1年を超える拘禁刑の実刑となれば、同条4号リにも該当します。
起訴前にできること
重大事件だから起訴は避けられないと考えるのは早計です。殺意が認められず傷害にとどまる評価が可能で、かつ被害者との示談が成立した場合には、処分が大きく変わる余地があります。刑事訴訟法248条は、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況を考慮した検察官の裁量を認めています。
示談交渉は、被害者の心情に配慮しながら、弁護人が窓口となって進めます。中国本土のご家族から示談金を送金される場合には、外貨管理の手続に時間を要しますので、早い段階で見通しを立てておく必要があります。
ご家族にお願いしたいこと
- 逮捕の連絡を受けたら、警察署名・逮捕日・罪名の3点をまず控えてください。この3点が分かれば弁護人が接見に向かえます。
- 勤務先や同僚との関係、事件前の職場環境に関する事情は、量刑上も背景事情として意味を持ちます。記憶が新しいうちに整理していただけると助かります。
- 報道への対応は慎重に。事件の経緯をご家族が外部に語ることが、後の主張と食い違う形で残ることがあります。
当事務所のご案内
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区)の松村大介弁護士は、国際刑事事件、裁判員裁判対象事件、広く報道された事件への対応経験を重ねてまいりました。中国籍の方の重大事件にも数多く関与しております。
また、覚醒剤取締法違反(営利目的所持)で起訴された依頼者について無罪判決を獲得した事例のように、主観的要素が争点となる事件で結論を覆した経験もございます。殺意の有無という争点は、まさにこの種の主観的要素の立証をめぐる争いです。
当事務所の特徴として、松村大介弁護士が接見の初動から公判の結審まで全工程を直接担当いたします(事務員や若手弁護士による代行を行いません)。また、外国人事件に精通した中国語専属通訳が常駐しており、捜査機関が指定する通訳とは別に、依頼者ご本人のために動く立場の通訳を、刑事手続の全般にわたってご利用いただけます。刑事手続が終わった後の在留資格の更新・変更についても、提携の行政書士と連携してワンストップでご対応いたします。
結語
重大事件であるほど、初動の数日で描いた見取り図が最後まで効いてまいります。殺意を争うのか、示談で情状を整えるのか、その両方をどう組み合わせるのか。ご家族だけで判断するのは難しいところですので、まずは手続の段階と罪名を確認のうえ、早い段階でご相談いただければと存じます。
本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。また、過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年8月時点の情報です。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
お問い合わせ
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