天然記念物や希少種を持ち帰ったら|「知らなかった」は通じるのか、在留への影響は
2026/08/16
南西諸島で、国の天然記念物に指定されている甲殻類を大量に捕獲したとして、中国籍の方が摘発されたとの報道がありました。観光や滞在の途中で、珍しい生き物や貝殻、植物を持ち帰ろうとしただけのつもりが、思いがけず刑事事件になってしまう。この類型は、ご本人にもご家族にも実感が湧きにくく、それゆえに初動が遅れがちです。日本での滞在資格をお持ちの方、ご旅行中の方、そのご家族に向けて、何が罪になり、在留にどう響くのかを整理いたします。
本記事の要点
- 天然記念物の捕獲・採取は、文化財保護法125条1項の許可を受けずに行えば、同法197条1号により50万円以下の罰金の対象となります。
- 捕獲した個体を死なせたり傷つけたりした場合は、同法196条1項により5年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金と、格段に重くなります。
- 国内希少野生動植物種にあたる場合は、種の保存法9条の捕獲等の禁止に触れ、同法57条の2により5年以下の拘禁刑もしくは500万円以下の罰金、またはその併科となります。
- これらの罪は入管法24条4号の2の列挙罪名には含まれませんが、在留期間更新の素行善良要件には影響し得ます。
どの法律に触れるのか
まず、天然記念物です。国の指定を受けた史跡名勝天然記念物について、その現状を変更し、または保存に影響を及ぼす行為をするには、文化庁長官の許可を要します(文化財保護法125条1項)。指定された動物を捕獲する行為は、この現状変更にあたると解されており、許可を受けずに行えば同法197条1号の罰則が適用されます。さらに、捕獲の過程で個体を死なせ、または傷つけた場合には、同法196条1項の罪となり、法定刑は5年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金です。
次に、種の保存法です。国内希少野生動植物種に指定された動植物の生きている個体は、原則として捕獲・採取・殺傷・損傷が禁じられており(同法9条)、違反には5年以下の拘禁刑もしくは500万円以下の罰金、またはその併科が科されます(同法57条の2第1号)。天然記念物と希少種は指定の根拠法が異なりますので、同じ生き物について双方の規制が重なることもあります。
加えて、国外に持ち出そうとすれば、関税法上の輸出規制やワシントン条約に基づく規制が問題となり、空港での摘発に至る例もあります。土産物として購入した加工品であっても、原材料が規制対象であれば同様です。
「知らなかった」は通用するのか
ご相談で最も多いのが、この点です。結論から申し上げれば、「その生き物が天然記念物や希少種に指定されていると知らなかった」という主張は、事案によっては故意を否定する方向に働きます。他方で、「捕まえてよいと思っていた」という程度の認識、すなわち規制の存在自体を知らなかったにとどまる場合は、法律の不知として故意を阻却しないと整理されるのが一般的です。
したがって弁護活動としては、ご本人の認識の対象が何であったのかを丁寧に切り分ける作業が要になります。現地の看板・掲示の有無、同行者の説明、購入先の説明、捕獲の態様と数量、持ち帰りの目的(自家消費か販売か)といった事情を、供述だけに頼らず客観資料で裏づけていくことになります。数量が多い、繰り返している、販売目的がうかがわれるといった事情があると、認識を推認する材料にされますので、そこにどう反論するかが勝負どころです。
在留資格にどう影響するのか
ここは外国人事件特有の視点です。入管法24条4号の2は、別表第一の在留資格をお持ちの方について、刑法第2編の一定の章の罪などにより拘禁刑に処せられた場合を退去強制事由としていますが、その列挙に文化財保護法や種の保存法は含まれていません。また、同条4号リは無期または1年を超える拘禁刑に処せられた者を対象としつつ、刑の全部の執行猶予の言渡しを受けた者を除いています。ですから、この類型で直ちに退去強制手続に移行する事態は、一般には想定しにくいところです。
もっとも、それで安心というわけではありません。在留期間の更新や在留資格の変更は、入管法21条3項の裁量的判断に委ねられており、出入国在留管理庁のガイドラインは素行が善良であることを考慮要素に掲げています。罰金であっても前科は前科ですから、次回の更新審査で不利に働く可能性は残ります。刑事手続の結論をどう作るかが、そのまま在留の安定に跳ね返る構造は、この類型でも変わりません。
不起訴処分を目標に据える
以上を踏まえると、目標は執行猶予ではなく不起訴処分に置くべきです。検察官は、犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況を考慮して公訴を提起しないことができます(刑事訴訟法248条)。この類型では、捕獲した個体を速やかに返還・放獣したこと、原状回復に協力したこと、規制の内容を理解し再発防止を約したこと、日本での生活基盤や就労状況といった事情を、意見書の形で整理して提出することが有効です。
初動で押さえたい3点
- 取調べでは、記憶にない事柄まで安易に認めないこと。数量や目的についての供述は、後の在留審査まで影響します。
- 早い段階で弁護人を選任すること。当番弁護士制度を利用できますが、入管への影響まで一貫して見通せる私選弁護人の選任をお勧めいたします。
- 通訳の質を確認すること。生物の名称や「知っていたか」という微妙な問いは、訳語のずれが供述調書に残りやすい場面です。
当事務所のご案内
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区)の松村大介弁護士は、中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護と入管手続を主たる注力分野としております。
故意の有無が正面から争点となる事件では、覚醒剤取締法違反(営利目的所持)で起訴された依頼者について、証拠の徹底した分析と反対尋問により無罪判決を獲得した事例がございます。所持や捕獲といった外形的事実が動かない事案でも、認識の内容に切り込むことで結論が変わり得ることを示すものです。
また、不法就労助長の嫌疑を受けて強制退去の危機にあった女性について、退去強制事由の判断にも故意・過失の検討が及ぶべきではないかという論点を正面から掲げて争い、その後に在留特別許可が認められた事例もございます。この論点は現在も係争中の先進的な議論ですが、刑事の段階で認識に関する証拠を残しておくことが、後の入管手続での主張の土台になるという実務的な含意を持ちます。
当事務所の特徴として、松村大介弁護士が接見の初動から公判の結審まで全工程を直接担当いたします(事務員や若手弁護士による代行を行いません)。また、外国人事件に精通した中国語専属通訳が常駐しており、捜査機関が指定する通訳とは別に、依頼者ご本人のために動く立場の通訳を、刑事手続の全般にわたってご利用いただけます。刑事手続が終わった後の在留資格の更新・変更についても、提携の行政書士と連携してワンストップでご対応いたします。
結語
珍しい生き物を持ち帰るという行為は、悪意のない旅行者にも起こり得ます。だからこそ、事実関係と認識の内容を早い段階で正確に固め、不起訴処分という着地点を目指すことに意味がございます。ご家族が摘発の連絡を受けられた場合も、まずは落ち着いて、手続の段階と罪名を確認するところから始めていただければと存じます。
本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。また、過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年8月時点の情報です。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
お問い合わせ
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
----------------------------------------------------------------------
舟渡国際法律事務所
住所 : 東京都豊島区高田3丁目4-10布施ビル本館3階
電話番号 :050-7587-4639
東京にて中国人の方をサポート
東京を中心に刑事事件の弁護
----------------------------------------------------------------------