永住許可のガイドライン改定案が示されました|素行善良要件と刑事事件の関係を読む
2026/08/15
出入国在留管理庁は、2026年8月4日、「永住許可に関するガイドライン」の改定案について意見の募集を開始しました(e-Govパブリック・コメント、案件番号315000140。意見の提出期間は令和8年8月4日から同年9月3日まで)。永住を目指しておられる方、既に永住者として生活しておられる方から、刑事事件との関係についてのご質問をいただく機会が増えています。この記事では、条文の枠組みに立ち返って、現時点で確認できることを整理いたします。
本記事の要点
- 永住許可の要件は、入管法22条2項に定められています。素行が善良であること(1号)、独立の生計を営むに足りる資産又は技能を有すること(2号)、そして永住が日本国の利益に合すると認められることです。
- 日本人、永住許可を受けている者、特別永住者の配偶者又は子である場合は、1号・2号への適合を要しません(同項ただし書)。
- 今回のガイドライン改定案は、この3つの要件について考慮すべき事項の基本的な考え方を示すものとされています。独立生計要件については、世帯収入が日本人世帯の平均収入を上回る水準に継続して達しているかを原則的な考慮要素とし、将来受給可能な年金の見込み額を新たに考慮要素とする内容が含まれると説明されています。
- 現時点では改定案の段階であり、内容は確定していません。適用の時期についても、公表資料と各種の解説で言及されている内容にとどまります。
- 刑事事件との関係で最も直接に響くのは、素行善良要件です。
素行善良要件は何を見るのか
入管法22条2項1号は「素行が善良であること」とのみ定めています。具体的な判断は、公表されているガイドラインと運用に委ねられてきました。実務上、前科の有無、交通違反を含む法令違反の状況、納税や社会保険料の納付状況が主な材料となります。
ここで重要なのは、素行善良要件が、退去強制事由の該当性とは別の水準の判断だという点です。退去強制事由は、入管法24条各号に列挙された事実に当たるかどうかという、いわば「線を越えたかどうか」の判断です。これに対して素行善良要件は、その線の手前にある事情を総合的に評価します。罰金の前科があっても退去強制事由には当たらない、しかし永住許可の審査では消極的に評価される。この二段構えを理解しておかないと、見通しを誤ります。
すでに永住者となっておられる方についても、令和6年に成立した改正法により、永住許可の取消しに関する制度が設けられています。施行は今後とされており、現時点での運用は未確定です。動向を追いながら、正確な情報に基づいて判断する必要があります。
刑事事件を抱えたときに考えるべき順序
第一に、当該罪名が入管法24条各号に列挙されているかを確認します。薬物関係であれば4号チ、旅券法違反であれば4号ニというように、有罪判決のみで退去強制事由となる類型があります。
第二に、別表第一の在留資格か別表第二の在留資格かを区別します。24条4号の2は別表第一の在留資格の方のみを対象としており、永住者は別表第二ですので、この号の適用はありません。永住者の方について問題となるのは、主として4号リ(無期又は1年を超える拘禁刑。全部執行猶予は除外)です。
第三に、永住許可の申請を予定しておられる場合、素行善良要件への影響を検討します。不起訴処分を得られるかどうかが、ここでも分岐点になります。
立法の動きを、依頼者の側から読む
制度の改定は、通常、行政の側の必要から出発します。しかし、その改定案がどのような考慮要素を採用するかは、これから永住を申請しようとする方の生活設計に直接関わります。パブリック・コメントは、その考慮要素の当否について、当事者の側から意見を述べることのできる数少ない機会です。
当事務所は、制度や実務の運用が依頼者に不利に働く場面では、その前提そのものを問う姿勢を採ってまいりました。行政の判断について処分性を争った事案、退去強制事由の判断における故意・過失の要否を問うた事案は、いずれもその一環です。改定案の内容を読み込み、必要があれば意見を述べる。それも弁護士の仕事のうちだと考えております。
当事務所のご案内
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区)では、松村大介弁護士(第一東京弁護士会・登録番号59077・2019年登録)が、外国人の刑事弁護と入管手続を主たる注力分野としています。
在留特別許可の分野では、在留資格を失った状態で不法滞在により逮捕・起訴された方について、当局から一旦は不受理とされた婚姻・認知の手続を憲法的観点からの交渉によって成立させ、国籍国の公的書類がほとんど存在しない状況下で有利な事情を積み上げ、過去の許可事例の分析を通じて在留特別許可を獲得した事例があります。また、不法就労助長罪に問われて強制退去の危機に置かれた女性の事案では、退去強制事由の判断に故意・過失を要しないとする従来の実務に対し、責任主義の射程を問う訴訟を提起して上訴審まで争い、その後、在留特別許可が認められました。
行政の判断を争う分野では、ストーカー規制法4条1項に基づく文書警告の取消し等を求めた控訴事件において、大阪高裁が警告に法的効力が生じることを認めています(令和6年6月26日大阪高裁判決)。訴え自体は却下されましたが、この事件で立てた論点は、その後、学術誌において検討の対象となっています。
接見の初動から公判の結審まで松村大介弁護士が全工程を直接担当し、外国人事件に精通した中国語専属通訳が常駐しています。永住許可の申請そのものについては、提携の行政書士と連携して対応いたします。
結語
永住は、日本での生活の見通しを長期に安定させる資格です。だからこそ、その入口の要件は丁寧に設計されなければなりません。改定案が示された今の時期に、ご自身の状況を要件に照らして点検しておくことは、無駄になりません。刑事事件を抱えておられる方は、その処分の選択が数年先の永住の可否に関わることを、どうか念頭に置いてください。
本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年8月時点の情報です
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。
覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
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