模倣品を販売・保管して商標法違反に問われたら|越境ECの事業者と在留資格
2026/08/15
日本国内の倉庫やご自宅に商品を保管し、通販サイトやSNSを通じて販売する。この形態の取引が広がるにつれ、商標権を侵害する商品、いわゆる模倣品の取扱いを理由に摘発される事案が増えています。ご相談では、「仕入先から本物だと聞いていた」「自分は発送を手伝っていただけだ」というお話を伺うことが少なくありません。ここでは、商標法違反の刑事責任の構造と、それが在留資格に及ぼす影響を整理いたします。
本記事の要点
- 商標権又は専用使用権を侵害した者は、10年以下の拘禁刑若しくは1,000万円以下の罰金に処せられ、又はこれらが併科されます(商標法78条)。
- 侵害とみなされる行為(類似商標の使用、譲渡のための所持など。商標法37条)を行った者は、5年以下の拘禁刑若しくは500万円以下の罰金、又はその併科となります(同法78条の2)。
- 販売していなくても、譲渡・引渡しのために所持していれば処罰の対象になり得ます。倉庫での保管が争点になるのはこのためです。
- 商標法違反は入管法24条4号チにも4号の2にも列挙されていません。退去強制事由として問題となるのは、1年を超える実刑となった場合の4号リです。
- ただし、経営・管理や技術・人文知識・国際業務の在留資格の方は、事業内容そのものが在留資格該当性の審査対象となるため、刑事処分の軽重とは別に在留への影響が生じます。
どこからが犯罪になるのか
商標法78条は、商標権又は専用使用権を侵害した者を処罰します。他方、同法37条は、指定商品に類似する商品に登録商標を付して譲渡・引渡し・輸出のために所持する行為などを侵害とみなしており、これに当たる場合は78条の2により処罰されます。つまり、実際に売れたかどうかは決定的ではありません。売るために置いてあった、という状態で足りるのです。
そのうえで、刑事責任を問うには故意が必要です。ここでいう故意とは、その商品が権利者の許諾を受けていないものであると認識していたことを指し、確定的な認識でなくとも、そうかもしれないと思いながら容認していた場合(未必の故意)を含みます。仕入価格が正規品の相場から著しくかけ離れていた、正規の流通経路をたどれない仕入先であった、商品説明で真正品であることをことさら強調していた。こうした事情は、故意を推認させる方向に働きます。
逆に言えば、仕入時のやり取り、権利者や輸入代理店への確認の記録、仕入先から受け取った証明書類が残っていれば、それは故意を否定する材料になります。事業として継続的に取引をしている方ほど、こうした資料が残っている可能性があります。早い段階で保全してください。
在留資格への影響
商標法違反は、入管法24条4号チが列挙する薬物関係の法令には含まれません。また、同法24条4号の2が列挙する刑法の各章や特別法にも含まれていません。したがって、罰金や執行猶予付きの判決を受けたことのみを理由に退去強制事由が直ちに成立するという関係にはなく、問題となるのは1年を超える実刑に処せられた場合の4号リです。商標法78条の法定刑は10年以下の拘禁刑ですから、組織的で大規模な事案では、この水準が現実的な射程に入ります。
もっとも、事業者の方にとって、より切実なのは在留資格そのものの維持です。経営・管理の在留資格は、適法な事業を営むことを前提としています。摘発によって取引先を失い、事業活動が停止した場合、入管法22条の4第1項6号(別表第一の在留資格の方が、当該在留資格に応じた活動を継続して3か月以上行っていないこと。正当な理由がある場合を除く)による在留資格の取消しが視野に入ります。刑事処分が軽く済んでも、事業が止まれば在留が揺らぐ。この二つの経路を同時に見ておく必要があります。
不起訴処分を目指す活動
商標法違反は、権利者が存在する犯罪です。権利者との示談、すなわち損害の賠償と在庫の廃棄、再発防止の誓約が成立すれば、起訴猶予の判断に大きく影響します。権利者側は模倣品対策として一定の方針を持っていることが多く、代理人を通じた交渉の道筋を早期に立てることが有効です。
あわせて、押収された在庫の点数、販売の期間と数量、利益額を客観的に確定させる作業が必要になります。捜査機関の見立てより実際の規模が小さいことは珍しくありません。数量と利益の争いは、起訴・不起訴の判断にも量刑にも直結します。
初動で押さえておきたい3つのこと
- 取引記録、仕入先とのやり取り、決済履歴は消さないでください。故意を否定する資料も、そこに含まれています。
- 従業員や配偶者が発送だけを担当していた場合、その方の関与の程度は別に評価されます。一括して扱わず、個別に整理することが大切です。
- 事業を止めるかどうかの判断は、刑事の見通しだけでなく在留資格の維持という観点からも検討する必要があります。
当事務所のご案内
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区)では、松村大介弁護士(第一東京弁護士会・登録番号59077・2019年登録)が、外国人の刑事事件と、その背後にある事業・家族の事情を含めて取り扱っています。
商取引をめぐる事案としては、卸売業を営む依頼者が取り込み詐欺の被害に遭った事件で、刑事告訴を端緒に相手方を特定し、被害額を大きく上回る7,500万円の解決金を得た事例があります。また、外資系企業の支配権紛争において依頼者側の主張を通した事例もあり、事業の構造や資金の流れを読み解く作業は、当事務所が日常的に行っているところです。インターネット上の権利侵害に関しては、なりすましアカウントを仮処分によって削除した事例もあり、ネット取引の記録をたどる実務にも慣れております。
接見の初動から公判の結審まで、松村大介弁護士が全工程を直接担当いたします。外国人事件に精通した中国語専属通訳が常駐しており、取調べの立会いや打合せにご利用いただけます。刑事手続の終了後の在留資格の更新・変更については、提携の行政書士と連携して対応いたします。
結語
模倣品の事案は、「売った・売らない」よりも「知っていたか」と「どれだけの規模か」で結論が動きます。そして事業者の方の場合、刑事事件の帰趨とは別に、事業を止めないことが在留資格の維持に直結します。二つの時間軸を同時に管理することが、この類型の弁護活動の要になります。
本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年8月時点の情報です
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。
覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
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