特殊詐欺で「受け子を紹介しただけ」と言われる立場|あっせん役の刑事責任と在留資格
2026/08/15
報道によれば、2026年8月、警察官や金融機関の職員を装って高齢の男性から多額の現金をだまし取ったとされる特殊詐欺事案で、20歳前後の中国籍の男性が再逮捕されたと伝えられています。報じられている役割は、自ら現金を受け取りに行く「受け子」そのものではなく、受け子を別の共犯者に紹介した、いわば人員のあっせんに当たる部分でした。ご家族から「本人は現金を受け取っていない。知人を紹介しただけだと言っている」というご相談を頂くことは、決して珍しくありません。ここでは、その「紹介しただけ」という立場が刑事手続と在留資格の上でどのように扱われるのかを整理いたします。
本記事の要点
- 受け子を紹介・勧誘した行為は、実行行為を分担していなくても詐欺罪の共同正犯と評価される場合がある。
- 争点になるのは、詐欺であることの認識(未必の故意を含む)、報酬の有無と額、組織との結びつきの強さである。
- 詐欺罪は刑法第2編第37章の罪であり、別表第一の在留資格の方は入管法24条4号の2により、執行猶予付きの拘禁刑でも退去強制事由に該当し得る。
- 同号には4号リのような執行猶予の除外規定がなく、「執行猶予が付いたから在留できる」という説明は正確ではない。
- したがって、公判で執行猶予を得ることではなく、起訴前に不起訴処分を得ることを弁護方針の中心に据える必要がある。
紹介・あっせん役はどう評価されるのか
詐欺罪の法定刑は10年以下の拘禁刑です(刑法246条1項)。自ら現金を受け取っていなくても、二人以上が共同して犯罪を実行したと評価されれば、全員が正犯として処罰されます(刑法60条)。裁判実務では、実行行為の分担の有無だけでなく、その関与が組織の犯行にとってどれほど不可欠であったかが重視されます。人員の供給は、特殊詐欺の組織にとって代替の難しい機能ですから、単なる幇助(刑法62条)にとどまらず共同正犯と評価される例が多く見られます。
もっとも、これは自動的に決まる話ではありません。紹介した相手の人数、繰り返しの回数、受け取った報酬の有無と額、指示役との連絡方法、被害額の認識といった事情の積み重ねで、共同正犯か幇助か、あるいは犯意を欠くのかが分かれます。「割のよい荷物の受け取りの仕事だと聞いて知人に伝えただけ」という説明が事実であれば、それは詐欺の故意を争う根拠となり得ます。ただし、報酬の異常な高さや、身分証の写真を送らせるといった不自然な段取りを認識していた場合には、未必の故意が認定される方向に働きます。
在留資格への影響は「詐欺罪が何章の罪か」で決まる
外国人事件では、罪名そのものよりも、その罪が入管法のどの条項に引っかかるかを確認することが出発点になります。詐欺罪は刑法第2編第37章(詐欺及び恐喝の罪)に位置します。入管法24条4号の2は、別表第一の在留資格(留学、技術・人文知識・国際業務、技能実習、特定技能、経営・管理、家族滞在などの活動に基づく資格)で在留する方について、同章を含む一定の罪により拘禁刑に処せられたことを退去強制事由としています。
ここで見落とされがちなのは、4号の2には、24条4号リのような「刑の全部の執行猶予の言渡しを受けた者を除く」という但書が置かれていない点です。つまり、執行猶予付きの拘禁刑であっても、別表第一の在留資格の方は退去強制事由に該当し得ます。他方、永住者、日本人の配偶者等、定住者などの別表第二の在留資格の方は4号の2の対象外であり、この場合は4号リ(1年を超える実刑)が問題となります。同じ判決でも、在留資格の種類によって結論が変わるということです。
加えて、退去強制手続に進んだ場合、詐欺罪で拘禁刑に処せられた方は出国命令制度を利用できません(入管法24条の3第3号)。上陸拒否の面でも、1年以上の拘禁刑に処せられた経歴は入管法5条1項4号に触れます。
不起訴処分を取ることの意味
以上の構造から導かれる結論は明快です。別表第一の在留資格の方にとって、公判で執行猶予を得ることは、刑事事件としては軽い結末であっても、在留の観点では退去強制事由の成立を意味し得ます。日本での生活を続けることを目標に置くのであれば、起訴前の段階で不起訴処分を得ること、それが最も確実な出口となります。
そのために弁護人が行うのは、被害弁償と示談の交渉、関与の程度を裏づける客観資料(通信履歴、報酬の授受の有無、勧誘の経緯)の収集、そして検察官に対する意見書の提出です。紹介役の事案では、被疑者本人が組織の全体像を知らされていないことが多く、その情報の非対称性を丁寧に主張することが、起訴猶予の判断を左右します。
初動で押さえておきたい3つのこと
- 取調べでは黙秘権があります。記憶が曖昧なまま「たぶんそうだと思います」と答えた供述が、後に未必の故意の根拠として引用される例が少なくありません。
- 弁護人はできる限り早く選任してください。勾留の可否が決まる逮捕からの72時間は、弁護活動の密度が結果に直結する時間帯です。
- 通訳の質を軽視しないことです。捜査機関が手配する通訳人は依頼者のために動く立場ではありません。「知っていた」と「知り得た」の訳し分けが、そのまま調書に残ります。
当事務所のご案内
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区)は、松村大介弁護士(第一東京弁護士会・登録番号59077・2019年登録)が、中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護と入管手続を主たる注力分野としています。
特殊詐欺の類型では、出し子行為に関与したとされた20代の女性について、指示役から欺かれ、また脅迫的な状況に置かれていた事情を含めて主観面を総合的に主張し、不起訴処分を獲得した事例があります。また、受け子として複数回の再逮捕を受けた事案において、取調べへの対応と不当な取調べへの抗議を積み重ね、全ての事件について不起訴処分を得た事例もあります。組織性の高い事案や社会的関心を集めた事件については、裁判員裁判対象事件を含む重大事件への対応経験を踏まえて弁護方針を立てています。
当事務所の特徴として、松村大介弁護士が接見の初動から公判の結審まで全工程を直接担当いたします。事務員や若手弁護士による代行は行いません。また、外国人事件に精通した中国語専属通訳が常駐しており、捜査機関の指定する通訳とは別に、依頼者ご本人のために動く通訳を刑事手続の全般にわたってご利用いただけます。刑事手続の終了後の在留資格の更新・変更については、提携の行政書士と連携してご対応いたします。万一、退去強制手続に進んだ場合にも、在留特別許可の獲得実績を踏まえて対応いたします。
結語
「紹介しただけ」という言葉の内側には、報酬の受領、勧誘の回数、指示役との距離といった、評価を左右する事実が幾重にも折り重なっています。その事実を早い段階で整理し、正確に伝えることが、起訴か不起訴かの分かれ目になります。ご家族が置かれている状況が見えないまま時間だけが過ぎることのないよう、まずは接見によって本人の言い分を確かめるところから始めてまいります。
本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年8月時点の情報です
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。
覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
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