育成就労制度と刑事事件|技能実習からの移行を控えて、いま押さえておくべき在留リスクの構造
2026/08/14
本記事の要点
- 令和6年の法改正により、技能実習制度は育成就労制度へと移行することとなり、2027年4月からの施行が予定されています。
- 運用要領等の整備が順次進められており、2026年8月にも更新が行われています。詳細は今後の政省令・運用要領によって定まる部分が残されています。
- 育成就労は別表第一の在留資格ですので、入管法24条4号の2の適用対象です。窃盗、傷害、詐欺等では、執行猶予付きの拘禁刑でも退去強制事由に該当し得ます。
- 受入機関との雇用関係が刑事事件を契機に失われた場合、在留資格に応じた活動を3か月以上行っていないことを理由とする在留資格の取消し(入管法22条の4)の問題が生じます。
- 制度が変わっても、刑事処分の内容が在留に直結するという構造そのものは変わりません。起訴前の不起訴処分の獲得が目標であることに変わりはありません。
技能実習制度に代わる新たな受入れの枠組みとして、育成就労制度の準備が進んでいます。人材の育成と確保を目的とし、一定の要件の下での転籍を認めるなど、これまでの制度に対して寄せられてきた指摘に応える内容が盛り込まれています。
他方で、外国人の方が刑事事件の当事者となった場合に何が起きるのかという点については、制度が変わっても構造が大きく変わるわけではありません。本記事では、新制度の下でも変わらない部分と、注意すべき点を整理いたします。なお、制度の細目は今後の政省令・運用要領によって定まる部分が残されていますので、実際の手続にあたっては最新の公表資料をご確認ください。
1 育成就労制度の概要と施行の時期
令和6年に成立した法改正により、技能実習制度は廃止され、育成就労制度が創設されることとなりました。施行は2027年4月からとされており、それに向けて、分野別の運用要領をはじめとする関係資料の整備が順次進められています。2026年8月にも運用要領の更新が行われており、施行に向けた実務の詰めが続いている段階です。
新制度は、人材の育成と人材の確保を目的として位置づけられ、育成した人材が特定技能へと移行していくことを想定した設計になっています。また、従来の制度に対して指摘されてきた点を踏まえ、一定の要件の下で本人の意向による転籍を認める仕組みが導入されます。
もっとも、転籍の要件、分野ごとの受入れ人数、日本語能力の要件といった細目は、政省令や運用要領に委ねられている部分があります。本記事の記述も、現時点で公表されている枠組みに基づくものです。
2 育成就労は別表第一の在留資格である
刑事事件との関係で最も重要なのは、育成就労が入管法別表第一に位置づけられる在留資格であるという点です。技能実習と同様、身分又は地位に基づく在留資格(別表第二の永住者、日本人の配偶者等、永住者の配偶者等、定住者)とは異なる扱いを受けます。
入管法24条4号の2は、別表第一の在留資格で在留する方について、刑法第二編の一定の章の罪により拘禁刑に処せられた場合を退去強制事由と定めています。列挙されているのは、住居を侵す罪、通貨・文書・有価証券・印章の偽造に関する各章、賭博、殺人、傷害、逮捕監禁、略取誘拐、窃盗強盗、詐欺恐喝、盗品等に関する罪であり、このほか暴力行為等処罰法、盗犯等防止法、特殊開錠用具所持禁止法の一部、自動車運転死傷処罰法2条及び6条1項、盗難特定金属製物品処分防止法22条の罪が含まれます。
この規定には、刑の全部の執行猶予を除外する但書がありません。すなわち、育成就労の在留資格で在留する方が、窃盗や傷害で執行猶予付きの拘禁刑を受けた場合、それだけで退去強制事由に該当し得ます。別表第二の在留資格をお持ちの方であれば同じ罪名でも4号の2は適用されませんので、ここに構造的な差があります。
加えて、薬物関係については、在留資格の種類を問わず、入管法24条4号チにより有罪判決だけで退去強制事由に該当します。罰金でも執行猶予でも同じです。
3 雇用関係が失われることの意味
もう一つの入口が、在留資格の取消しです。入管法22条の4は、在留資格に応じた活動を継続して3か月以上行っていない場合を、在留資格の取消事由の一つとして定めています。
刑事事件を契機として受入機関との雇用関係が失われた場合、この規定の適用が問題となり得ます。身柄拘束が長期化すれば、その期間中は就労できません。事件が報道されるなどして受入機関が受入れの継続を断念する場合もあります。
新制度では一定の要件の下での転籍が認められる方向ですが、刑事事件を理由に離職した方が円滑に転籍できるかどうかは、実際の運用を見なければ分かりません。この点も、今後の運用要領等を確認する必要がある事項です。
したがって、身柄の拘束期間を短くすること、受入機関との関係を可能な限り維持することは、単なる生活上の問題ではなく、在留資格を守るための実質的な弁護活動の一部です。
4 制度が変わっても、目標は変わらない
以上を踏まえれば、育成就労制度の下でも、外国人の方の刑事弁護の目標は変わりません。起訴前の段階で不起訴処分を獲得することです。
執行猶予付きの判決を目標に置く弁護方針は、この類型では成り立ちません。4号の2には執行猶予を除外する但書がなく、4号チには刑の重さによる限定すらないからです。刑事手続で執行猶予を得たとしても、退去強制手続がそこから始まるという事態が生じます。
不起訴を求めるための弁護活動としては、被害者との示談と被害弁償、検察官に対する意見書の提出、受入機関や監理団体の協力を得た身元引受体制の整備が中心となります。技能実習生・育成就労者の事案では、来日の経緯、渡航費用の負担、寮での生活状況といった背景事情が、動機の形成に影響していることが少なくありません。こうした事情を丁寧に整理して主張することにも意味があります。
5 初動で押さえておきたい3点
- 受入機関・監理団体への連絡と、弁護人の選任は別の話です。所属先が対応してくれるだろうと待っている間に、勾留の期間は進みます。ご家族の側から弁護人を選任することもできます(刑事訴訟法30条2項)。
- 取調べでは黙秘権が保障されています。日本語での取調べに不安がある場合、無理に答えることは避け、通訳を通じた正確なやり取りを求めてください。
- 在留カードと雇用契約の資料は、早い段階で写しを確保しておいてください。刑事と入管の双方で必要になります。
6 当事務所のご案内
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区)は、中国籍の依頼者を中心とする外国人の刑事弁護と入管手続を主たる注力分野としております。松村大介弁護士(第一東京弁護士会・登録番号59077・2019年登録)が、初動の接見から公判の結審まで全工程を直接担当いたします。
就労に関わる在留資格の事案では、不法就労助長罪に問われ強制退去の危機に瀕した女性の事案において、退去強制事由の判断には故意・過失を要しないとする従来の実務に対し、責任主義の射程を問う訴訟を提起して上訴審まで争い、その後、入管から在留特別許可が認められた経過がございます。この論点は現在も松村大介弁護士が係争中の争点です。
刑事事件については、特殊詐欺の受け子として複数回にわたり再逮捕された事案において、徹底した取調べ対応と主張立証を積み重ね、全件について不起訴処分を獲得した事例がございます。身柄拘束が長期化しやすい類型において、一件ごとに争う姿勢を維持することの実務的な意味を、経験として蓄積しております。
当事務所には外国人事件に精通した中国語の専属通訳が常駐しております。捜査機関が指定する通訳人とは別に、依頼者ご本人のために動く通訳を、接見・打合せ・公判の各段階でご利用いただけます。刑事手続終了後の在留資格の更新・変更等は、提携の行政書士と連携して対応いたします。
7 おわりに
制度の名称と枠組みは変わりますが、日本で働きながら生活を組み立てている方が、一つの事件によってその全てを失いかねないという構造は残ります。だからこそ、事件が起きたときに、刑事と在留の両面を同時に見られる体制が必要になります。受入機関の方からのご相談も含め、早い段階でお声がけいただければと思います。
本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。制度の細目は今後の政省令・運用要領によって定まる部分が残されていますので、最新の公表資料をあわせてご確認ください。
過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年8月時点の情報です。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
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住所 : 東京都豊島区高田3丁目4-10布施ビル本館3階
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