「刑事事件が終わってから入管のことを考える」では間に合わない理由|証拠は刑事段階でしか集められない
2026/08/14
本記事の要点
- 刑事手続と入管手続は別の手続ですが、時間軸は連続しています。刑事の身柄拘束が解けた瞬間に、入管の収容手続が始まる場合があります。
- 退去強制手続は、違反調査、違反審査、口頭審理、法務大臣への異議の申出という段階を踏みます。各段階に期限があり、後から資料を揃える余裕は多くありません。
- 在留特別許可の判断で重視される事情の多くは、刑事段階で最も集めやすい資料です。示談書、被害者の宥恕、身元引受書、家族関係の資料がこれにあたります。
- 令和5年改正入管法により、在留特別許可の申請手続が法定され、考慮事情が入管法50条5項に明示されました。逐条的に主張を組み立てる余地が広がっています。
- 退去強制事由の判断に故意・過失を要しないとする従来の実務については、松村大介弁護士が責任主義の射程を問う訴訟を提起し、現在も係争中です。
刑事事件のご相談を受ける中で、「まずは刑事に集中して、入管のことは判決が出てから考えます」というお話を伺うことがあります。順序としては自然な発想です。しかし、外国人の方の事件では、この順序は多くの場合うまくいきません。
理由は単純です。入管手続で必要になる資料の多くが、刑事手続の進行中にしか集められないものだからです。本記事では、この時間の構造を具体的に説明いたします。
1 刑事と入管は、時間差ではなく連続している
刑事手続が終われば身柄が解放され、そこから落ち着いて入管対応を考えられる。この理解は、事案によっては現実と異なります。
在留資格を失っている方、退去強制事由に該当する疑いがある方については、刑事手続における釈放と同時に、入国警備官への引継ぎが行われる場合があります。実刑判決を受けて服役した場合も、刑期の満了時に入管職員が待っているという状況が生じ得ます。保釈が認められた場合であっても、そのまま入管施設に収容されることがあります。
つまり、刑事が終わってから考えるという時間的な余裕は、必ずしも与えられません。刑事の最終盤には、入管手続の準備が整っている必要があります。
2 退去強制手続には期限がある
退去強制手続は、入国警備官による違反調査、入国審査官による違反審査、特別審理官による口頭審理、法務大臣に対する異議の申出という段階を踏みます。各段階には短い期限が定められており、口頭審理の請求や異議の申出は、告知を受けてから数日以内に行う必要があります。
この短い期間に、婚姻の実態を示す資料、子の就学状況の資料、納税や社会保険の記録、就労の実態を示す資料、身元引受人の書面といったものを新たに揃えるのは、現実的ではありません。ましてご本人が収容されている状態では、資料の収集はご家族と代理人に委ねられます。
したがって、これらの資料は、刑事手続が進行している間に、並行して準備しておく必要があります。
3 刑事段階でしか集められない資料がある
在留特別許可の判断で重視される事情の中には、刑事段階でこそ集めやすいものが少なくありません。
第一に、被害者との示談書と宥恕の意思を示す書面です。示談交渉は刑事手続の中で行われるものであり、判決が確定した後に改めて被害者と交渉することは、実務上きわめて困難です。示談書は、量刑資料であると同時に、その後の入管手続において反省と被害回復を示す資料になります。
第二に、身元引受書と監督体制を示す資料です。保釈請求や情状証人の準備の過程で作成されたこれらの書面は、そのまま入管手続における生活の安定性の疎明に使えます。
第三に、家族関係・生活実態の資料です。婚姻関係、子の養育、居住の継続、勤務の実態といった事情は、情状立証のために整理する過程で自然に揃います。
刑事弁護人が入管手続を視野に入れているかどうかで、これらの資料が残るかどうかが変わります。同じ弁護活動をしていても、何を書面化して保存しておくかという意識の差が、後の段階で決定的な差になります。
4 令和5年改正入管法と、在留特別許可の主張の組み立て方
令和5年改正入管法(令和6年6月10日施行)により、在留特別許可については、申請手続が法律上明記され、法務大臣が考慮すべき事情が入管法50条5項に列挙されました。在留を希望する理由、家族関係、素行、入国の経緯、在留の期間、法的地位、退去強制の理由となった事実、人道上の配慮といった事情です。
この改正により、主張の組み立て方が明確になりました。すなわち、同項各号を逐条的にトレースし、各号に対応する事実と資料を対置していくという構成です。加えて、出入国在留管理庁が公表している過去の許可事例を分析し、本件と同種の事情について許可の実績があることを示して、合理的な理由なく異なる取扱いをすることは憲法14条1項の平等原則に反すると主張する方法があります。
これらの主張を支える事実の多くは、繰り返しになりますが、刑事段階で最も集めやすいものです。
5 退去強制事由と責任主義 ― 係争中の論点として
もう一点、当事務所が重視している論点に触れます。入管実務においては、退去強制事由の判断にあたり故意・過失の有無は要件とされないという運用が長年踏襲されてきました。刑事事件で故意を争って争点としても、入管手続では客観的な事実のみで判断されるという構造です。
しかし、これは責任主義、すなわち責任なくして処罰なしという原則の射程を、行政処分にどこまで及ぼすべきかという憲法上の問題を含んでいます。松村大介弁護士は、不法就労助長の事案において、この論点を正面から問う訴訟を提起し、上訴審まで争いました。その後、当該事案では入管から在留特別許可が認められています。この論点は現在も係争中であり、確立した解釈があるわけではありません。
実務的な含意は明確です。刑事段階で故意・過失を具体的に争い、その争点と証拠を記録に残しておくことが、入管段階における主張の基礎になります。刑事で有罪となったとしても、責任の程度に関する主張は残ります。
6 当事務所のご案内
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区)は、中国籍の依頼者を中心とする外国人の刑事弁護と入管手続を主たる注力分野としております。松村大介弁護士(第一東京弁護士会・登録番号59077・2019年登録)が、初動の接見から公判の結審まで全工程を直接担当いたします。
在留特別許可については、観光目的で来日された方が在留資格を失い、不法滞在で逮捕・起訴された事案において、婚姻・認知の手続が未了であったところを憲法的観点から当局と交渉して成立させ、入管当局の過去の許可事例を分析することで在留特別許可を獲得した事例がございます。国籍国発行の公的書類がほとんど存在しないという困難な状況下での対応でした。
また、不法就労助長罪に問われ強制退去の危機に瀕した女性の事案では、前述のとおり責任主義の射程を問う訴訟を提起して争い、その後、入管から在留特別許可が認められました。刑事段階から入管段階までを一本の戦略として設計することを、当事務所の基本方針としております。
当事務所には外国人事件に精通した中国語の専属通訳が常駐しております。刑事手続終了後の在留資格の更新・変更等については、提携の行政書士と連携してワンストップで対応いたします。
7 おわりに
刑事と入管を分けて考えることは、制度の建前としては正しいのですが、依頼者の生活という観点からは一つの連続した問題です。どちらか一方だけを見て組み立てた方針は、他方で行き詰まります。刑事事件の最初の段階から、その先を見据えた設計をされることをお勧めいたします。
本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。
過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年8月時点の情報です。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
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