「微罪処分で終わったから在留に影響しない」は本当か|書類送検・略式罰金と在留資格の関係
2026/08/14
本記事の要点
- 微罪処分は、検察官があらかじめ指定した軽微な事件について警察が検察官に送致しない処分です(刑事訴訟法246条ただし書)。有罪判決ではありませんので、前科にはあたりません。
- もっとも、警察には前歴として記録が残ります。次に同種の事件が起きた場合の処分の見通しに影響します。
- 書類送検は、身柄を拘束せずに事件を検察官に送る手続にすぎません。処分が決まったわけではなく、その後に起訴も不起訴もあり得ます。
- 略式手続による罰金は、前科です。薬物関係・入管法関係の罪では、罰金であっても退去強制事由に該当し得ます。
- 在留期間の更新(入管法21条)の審査では素行が考慮されます。退去強制に至らないことと、在留が守られることとは、別の問題です。
「警察から、今回は微罪処分にすると言われた。もう終わったと考えてよいのか」。「書類送検されたと聞いたが、身柄は取られていないので大丈夫か」。「略式で罰金を払ったので、これで区切りがついた」。外国人の方からのご相談で、この三つの誤解は繰り返し現れます。
いずれも、刑事処分としては軽く終わったことは事実です。しかし、在留資格の観点から見ると、意味はそれぞれ異なります。本記事では、この三つを分けて整理いたします。
1 微罪処分とは何か
刑事訴訟法246条は、司法警察員が犯罪の捜査をしたときは事件を検察官に送致しなければならないと定めた上で、ただし書において、検察官が指定した事件についてはこの限りでないとしています。この規定に基づき、被害が軽微で、被害弁償が済んでおり、被害者が処罰を望んでいないといった条件を満たす一部の事件について、警察の判断で検察官に送致せずに終える取扱いが行われています。これが微罪処分です。
微罪処分は起訴ではありませんし、有罪判決でもありません。したがって前科にはあたりません。この点では、確かに軽い処分です。
しかし、事件が存在しなかったことになるわけではありません。警察には前歴として記録が残ります。将来、同種の事件が起きた場合、初犯としての扱いは受けられません。二度目に微罪処分となる可能性は低く、通常の送致の対象となります。「一度きりの見逃し」と理解しておくのが実態に近いと思われます。
2 書類送検は「終わり」ではなく「始まり」である
書類送検、正確には在宅のまま事件を検察官に送致する手続は、身柄を拘束されないという点で心理的な安心を生みます。しかし、これは処分の決定ではありません。事件が検察官の手元に移り、そこから起訴するか不起訴とするかの判断が始まる段階です。
むしろ、在宅事件は身柄事件のような法定の期間制限がないため、判断まで数か月を要することがあります。その間、事件が進行していないように見えて、実際には捜査が続いています。この期間に何もしないでいると、示談交渉や検察官への意見書提出といった、不起訴を求めるための働きかけの機会を逃します。
在宅事件だからこそ、弁護人を選任して被害者との示談を進める時間があるとも言えます。時間の使い方が結果を分ける類型です。
3 略式手続の罰金は前科である
簡易裁判所の略式命令によって罰金を納付した場合、これは有罪判決を受けたことにほかならず、前科となります。法廷に出頭していないため、裁判を受けたという実感が乏しく、「罰金で済んだ」と受け止められがちですが、法的な位置づけは異なります。
そして、外国人の方にとっては、ここに重大な分岐があります。入管法24条4号リは、無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者を退去強制事由と定めていますので、罰金はこれに当たりません。ところが、同条4号チは、麻薬及び向精神薬取締法、大麻草の栽培の規制に関する法律、あへん法、覚醒剤取締法等に違反して有罪の判決を受けた者を退去強制事由としており、刑の重さによる限定がありません。すなわち、薬物関係の罪では、罰金であっても退去強制事由に該当します。
また、同条4号ニは旅券法違反により刑に処せられた者を、4号ヘは入管法73条の罪により拘禁刑に処せられた者を、それぞれ退去強制事由としています。罪名によって、罰金でも足りるのか、拘禁刑を要するのかが異なるということです。「罰金なら安全」という一般則は存在しません。
4 退去強制に至らないことと、在留が守られることは違う
ここが最も見落とされやすい点です。仮に退去強制事由に該当しないとしても、それは日本にいられることが保証されたという意味ではありません。
在留期間の更新は、入管法21条に基づく許可です。更新の可否は法務大臣の裁量に委ねられており、出入国在留管理庁が公表しているガイドラインでは、素行が善良であることが考慮事項として挙げられています。前科があること、前歴があること、事件を起こしたことは、いずれもこの評価に影響し得ます。
つまり、外国人の方の刑事事件には、退去強制という即時の入口と、更新拒否という時間差の入口の二つがあります。微罪処分で終わった場合であっても、次の更新時に説明を求められる可能性は残ります。事件の記録がどう残るのかを把握した上で、更新に向けた準備を進めることが必要です。
5 結局、何を目指すべきか
目指すべきは、前科を残さないことです。具体的には、起訴前の段階で不起訴処分を獲得することです。不起訴には、嫌疑なし、嫌疑不十分、起訴猶予といった種別がありますが、いずれも有罪判決ではありませんので、前科にはなりません。
そのために弁護人が行うことは、被害者との示談、被害弁償、検察官に対する意見書の提出、身元引受体制の整備といった具体的な作業です。在宅事件であっても、この作業に着手するのが早いほど、選べる手が多くなります。
執行猶予付きの判決を目標に置く弁護方針は、外国人の方の事件では不十分です。罪名によっては執行猶予でも退去強制事由に該当し、そうでない場合も前科は残ります。目標設定の段階で、この点を弁護人と共有しておくことをお勧めいたします。
6 当事務所のご案内
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区)は、中国籍の依頼者を中心とする外国人の刑事弁護と入管手続に注力しております。松村大介弁護士(第一東京弁護士会・登録番号59077・2019年登録)が、初動の接見から公判の結審まで全工程を直接担当いたします。
不起訴処分の獲得については、複数の解決実績がございます。特殊詐欺の出し子行為に関わったとされた20代の女性について、指示役からの欺罔的・脅迫的な状況や犯意の不存在といった主観的事情を総合的に主張し、不起訴処分を獲得した事例がございます。
また、在留への波及にも一貫して対応いたします。在留資格を失って不法滞在に至った方について、入管当局の過去の許可事例を分析し、在留特別許可を獲得した経過がございます。刑事処分の内容が在留にどう跳ね返るかを見据えた上で、刑事段階の目標を設定することを、当事務所の基本方針としております。
当事務所には外国人事件に精通した中国語の専属通訳が常駐しております。捜査機関が指定する通訳人とは別に、依頼者ご本人のために動く通訳を、各段階でご利用いただけます。刑事手続終了後の在留資格の更新・変更等は、提携の行政書士と連携して対応いたします。
7 おわりに
軽く終わったという安心は、その時点では正しいものです。問題は、その安心が在留資格の審査という別の場面まで通用するとは限らない点にあります。事件がどう記録され、次の更新でどう評価されるのかを一度整理しておくことは、無駄にはなりません。ご不安がある方は、事件が終わった後であっても、一度ご相談いただければと思います。
本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。
過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年8月時点の情報です。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
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