身柄拘束を短くするために使える手続|準抗告・勾留理由開示・保釈と、外国人事件特有の壁
2026/08/14
本記事の要点
- 勾留には要件があります。住居不定、罪証隠滅を疑うに足りる相当な理由、逃亡を疑うに足りる相当な理由のいずれかが必要です(刑事訴訟法60条1項)。
- 勾留の決定に不服がある場合、準抗告を申し立てることができます(同法429条1項2号)。勾留の延長決定に対しても同様です。
- 勾留の理由の開示を請求する制度があります(同法82条)。憲法34条後段に根拠を持つ手続です。
- 日本には起訴前の保釈制度がありません。保釈が可能になるのは起訴された後です(同法88条以下)。
- 刑事の身柄拘束が解けても、事案によっては入管の収容手続に切り替わります。刑事だけを見た見通しは危険です。
留置場での生活が10日を超えると、ご家族の関心は自然と「いつ出られるのか」に集まります。仕事を失うかどうか、学籍が維持できるかどうか、在留資格の期限に間に合うかどうかが、日数に直結するからです。
本記事では、身柄の拘束を短くするために日本の刑事手続で使える制度を整理し、外国人の方の事件でそれらがどのように機能するのかを説明いたします。
1 勾留には要件がある
勾留は当然に認められるものではありません。刑事訴訟法60条1項は、罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があることに加え、住居が定まらないこと、罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があること、逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があることのいずれかを要件としています。
外国人の方の事件では、この三つ目の逃亡のおそれが、ほとんど自動的に認められてしまう傾向があります。国外に生活の基盤があること自体が、逃亡の可能性を基礎づける事情として扱われるためです。しかし、日本での在留期間、家族の所在、勤務先や学校の状況、旅券の所在といった具体的な事情を示すことで、この評価は動かし得ます。
弁護人は、勾留請求がなされる前の段階で、検察官と裁判官に対して意見書を提出し、勾留の必要がないことを主張することができます。ここが最初の分岐点です。
2 勾留決定への準抗告と、勾留理由の開示
勾留の決定が出た後でも、手立てがなくなるわけではありません。刑事訴訟法429条1項2号により、勾留の裁判に対して準抗告を申し立てることができます。準抗告は別の裁判官の合議体によって審理され、認められれば勾留は取り消されます。勾留期間の延長決定に対しても、同様に準抗告を申し立てることができます。
また、刑事訴訟法82条は、勾留されている被告人・被疑者が、勾留の理由の開示を請求できると定めています。これは、憲法34条後段が「何人も、正当な理由がなければ、拘禁されず、要求があれば、その理由は、直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない」と定めていることを受けた手続です。公開の法廷で、裁判官が勾留の理由を述べ、弁護人と被疑者が意見を述べる機会が与えられます。
実務上、勾留理由開示によって直ちに釈放されることは多くありません。しかし、ご家族が法廷でご本人の姿を見ることができる、ご本人が自分の言葉で述べる機会を持てるという意味があり、接見禁止が付されている事案では特に重要です。
3 日本には起訴前の保釈がない
ここは、中国の刑事手続との対比で誤解が生じやすい点です。日本の保釈制度は、起訴された後の被告人にのみ認められています(刑事訴訟法88条以下)。捜査段階の被疑者に保釈を請求する制度はありません。
したがって、「保証金を積めば早く出られる」という発想は、起訴前の段階では通用しません。起訴前に身柄が解かれるのは、勾留請求が却下された場合、準抗告が認められた場合、勾留の必要がなくなったとして検察官が釈放した場合、そして不起訴処分となった場合です。
起訴された後は、刑事訴訟法89条が権利保釈の原則を定めており、同条各号の除外事由に当たらない限り保釈は許可されなければなりません。除外事由に当たる場合でも、同法90条に基づく裁量保釈の余地があります。保証金の額は事案によりますが、外国人の方の事件では逃亡のおそれが重く評価されがちであり、旅券の任意提出、身元引受人の確保、住居の特定といった具体的な担保を積み上げる必要があります。
4 外国人事件特有の壁 ― 釈放の先に入管がある
見落としてはならない点があります。刑事手続で身柄が解かれたとしても、それが直ちに自由を意味するとは限りません。在留資格を失っている方、退去強制事由に該当する疑いがある方については、釈放と同時に入国警備官への引継ぎが行われ、入管法上の収容手続に移行する場合があります。
つまり、保釈金を用意して身柄を取り戻したつもりが、そのまま入管施設に移されるという事態が起こり得ます。刑事だけを見た見通しは、外国人の方の事件では危険です。刑事弁護人が入管手続の構造を理解しているかどうかが、この場面で表れます。
また、勾留が長引くこと自体が在留資格に影響します。就労資格の場合、勤務先を離れた状態が続けば、活動の継続性が問題となり得ます。留学の場合は在籍の維持が問題となります。身柄を早く解くことは、単に生活の便宜の問題ではなく、在留資格を守るための実質的な弁護活動です。
5 初動で押さえておきたい3点
- 勾留請求前の意見書提出は、弁護人が早期に選任されていなければ間に合いません。逮捕の連絡を受けたら、その日のうちに弁護人を確保してください。
- 身元引受人と住居の確保を並行して進める。日本にいらっしゃるご親族、勤務先の上司、大学の指導教員等、具体的な監督の担い手を示せるかが判断を左右します。
- 通訳の確保。勾留質問や勾留理由開示の法廷では、通訳を介したやり取りが記録に残ります。訳出の正確さが、後の手続にも影響します。
6 当事務所のご案内
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区)は、中国籍の依頼者を中心とする外国人の刑事弁護と入管手続に注力しております。松村大介弁護士(第一東京弁護士会・登録番号59077・2019年登録)が、初動の接見から公判の結審まで全工程を直接担当いたします。
身柄拘束が長期化しやすい類型についても、対応の実績がございます。特殊詐欺の受け子として複数回にわたり再逮捕された事案では、徹底した取調べ対応と、不当な取調べに対する抗議、事実関係の主張立証を積み重ね、全件について不起訴処分を獲得いたしました。再逮捕が繰り返される事案では、一件ごとに勾留の要件を争い、身柄の長期化を防ぐ活動が不可欠です。
また、覚醒剤取締法違反(営利目的所持)で起訴された依頼者について、徹底的な証拠分析と被告人質問・反対尋問により無罪判決を獲得した事例もございます。身柄拘束が長期に及ぶ重い類型においても、争うべき事案では争うという方針を維持しております。
当事務所には外国人事件に精通した中国語の専属通訳が常駐しており、接見・打合せ・公判の各段階でご利用いただけます。刑事手続終了後の在留資格の更新・変更等は、提携の行政書士と連携して対応いたします。
7 おわりに
身柄拘束の日数は、単なる不便ではありません。外国人の方にとっては、仕事、学籍、在留資格という生活の土台が一日ごとに削られていく時間です。準抗告も、勾留理由開示も、保釈も、いずれも申し立てる者がいなければ動きません。制度は用意されていますが、使うためには弁護人が必要です。まずはご相談ください。
本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。
過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年8月時点の情報です。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
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住所 : 東京都豊島区高田3丁目4-10布施ビル本館3階
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