中国本土にいるご家族が、日本の弁護人を選任する方法|本人と連絡が取れなくても手続は進められます
2026/08/14
本記事の要点
- 刑事訴訟法30条2項により、被疑者・被告人の配偶者、直系の親族、兄弟姉妹は、独立して弁護人を選任することができます。ご本人の署名がなくても選任は可能です。
- 接見禁止が付されていると、ご家族は面会できません。この段階でご本人に会えるのは弁護人だけです。
- 逮捕された外国人には、自国の領事による接見・通信を求める権利があります(領事関係に関するウィーン条約36条1項(b))。
- 身分関係の疎明資料(戸口簿、結婚証、出生医学証明等)と、その日本語訳の準備を早めに始めてください。
- 中国本土からの送金は外貨管理の手続に時間を要します。勾留期間の20日間で完結する前提では間に合いません。
微信のメッセージが数日途絶えている。ようやく連絡がついたと思ったら、日本の警察署にいるという。中国本土にいらっしゃるご家族にとって、ここから先に何ができるのかは、まったく見通しの立たない問題だと思います。日本語での連絡先も分からず、時差もあり、そもそも日本の刑事手続がどうなっているのかを知る手立てがありません。
本記事は、ご本人が日本で身柄を拘束された場合に、中国本土にいらっしゃるご家族が具体的に何をどの順番で進められるのかを整理したものです。結論から申し上げれば、ご本人と直接連絡が取れない状態であっても、ご家族の側から手続を開始することができます。
1 ご家族は独立して弁護人を選任できる
まず押さえていただきたいのは、日本の刑事訴訟法30条2項です。この条文は、被疑者・被告人の法定代理人、保佐人、配偶者、直系の親族及び兄弟姉妹は、独立して弁護人を選任することができると定めています。
「独立して」という言葉が重要です。ご本人の委任状がなくても、ご本人と連絡が取れない状態であっても、配偶者、父母、子、祖父母、兄弟姉妹にあたる方であれば、ご自身の判断で弁護人を選任できるということです。
実務上は、まず選任されたい弁護士に連絡を取り、ご本人の氏名、生年月日、留置されている警察署、逮捕の日付、判明していれば罪名をお伝えいただきます。氏名の漢字表記とパスポート上のアルファベット表記の双方があると、警察署への照会が円滑です。弁護人が選任されれば、その日のうちに接見に向かうことも可能です。
2 なぜご家族は面会できないのか
多くのご家族が最初に直面するのが、面会できないという壁です。逮捕から勾留が決まるまでの最初の72時間は、そもそも弁護人以外の面会が制度上認められていません。
さらに、勾留が決まった後も、共犯者がいる事件や否認している事件では、裁判官が接見等禁止の決定を付すことがあります。この決定が付されると、勾留されている間、ご家族は面会も手紙のやり取りもできません。
この状況で、ご本人に会い、状況を確認し、ご家族に伝えることができるのは弁護人だけです。ご家族が日本にいらっしゃらない事案では、弁護人が唯一の情報の経路になります。接見禁止の決定に対しては準抗告を申し立てることができ、一部解除を求めることも実務上行われています。
3 領事による接見を求める権利
外国人の方が逮捕された場合、領事関係に関するウィーン条約36条1項(b)に基づき、自国の領事機関に通報し、領事による接見・通信を求める権利があります。日本の捜査機関は、本人が希望した場合、遅滞なくこれを領事機関に通報する義務を負います。
実務では、この権利の告知が十分に行われていない例も見受けられます。弁護人としては、告知の有無を確認し、ご本人が希望される場合には手続を促すことになります。中華人民共和国大使館・領事館による接見は、ご家族への連絡経路の確保という点でも意味を持ちます。
4 早めに準備を始めていただきたい書類
- 身分関係の疎明資料。戸口簿、結婚証、出生医学証明書等、ご本人との続柄が確認できるものをご用意ください。弁護人選任の際にも、後の在留手続でも使用します。
- 日本語訳。中国語の公文書は、日本の手続で用いる際に日本語訳を求められます。翻訳と、必要に応じて公証の手配には日数を要します。
- ご本人の在留カードの写し、パスポートの写し。手元にない場合は、日本にいるご友人や勤務先に所在を確認していただくことになります。
- 示談金や弁護士費用の送金経路の確認。中国本土からの対外送金は外貨管理の手続を伴い、金額によっては相応の日数がかかります。
5 時間の感覚を共有していただきたい
日本の刑事手続は、時間の刻み方が細かく定められています。逮捕から48時間以内に検察官へ送致され、そこから24時間以内に勾留請求の可否が判断されます。勾留が決まれば原則10日、延長でさらに最大10日です。この期間内に、検察官は起訴するかどうかを決めます。
つまり、勝負が決するのはおおむね3週間以内です。中国本土から資料を取り寄せ、翻訳し、送金を実行するという一連の作業を、この期間内に間に合わせるには、初日から動き始める必要があります。ご家族が最初にすべきことは、書類を揃えることではなく、弁護人を選任して、何が必要かを確認することです。
そして、外国人の方の事件では、刑事処分の内容がそのまま在留資格に跳ね返ります。起訴されて有罪判決を受ければ、罪名によっては執行猶予が付いても退去強制の対象となり得ます。したがって、弁護活動の目標は、執行猶予ではなく、起訴前の不起訴処分の獲得に置くべきです。この方針の違いは、弁護人の選任時に確認しておかれるとよいと思います。
6 当事務所のご案内
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区)は、中国籍の依頼者を中心とする外国人の刑事弁護と入管手続を主たる注力分野としております。松村大介弁護士(第一東京弁護士会・登録番号59077・2019年登録)が、初動の接見から公判の結審まで全工程を直接担当いたします。事務員や若手弁護士による代行は行っておりません。
国際的な事案への対応実績も蓄積しております。裁判員裁判の対象となる事件や、国際的に報道された事件を含め、中国籍の方の重大事案に数多く対応してまいりました。また、海外のSNSを用いて行われた侮辱被害について、日本の警察と国際刑事警察機構の捜査を通じて刑事告訴が受理された事例もございます。国境をまたぐ事案において、どこにどのような照会をかけるべきかという実務的な段取りを、経験として蓄積しております。
在留への波及にも一貫して対応いたします。観光目的で来日された方が在留資格を失い、不法滞在で逮捕・起訴された事案において、婚姻・認知の手続が未了であったところを憲法的観点から当局と交渉して成立させ、国籍国発行の公的書類がほとんど存在しないという状況下で在留特別許可を獲得した事例がございます。中国の公文書の取寄せに時間がかかるという事情は、当事務所にとって既知の課題です。
当事務所には外国人事件に精通した中国語の専属通訳が常駐しております。ご家族との打合せ、ご本人との接見、公判のいずれの段階でもご利用いただけます。中国本土からのご連絡は微信でも承っております。
7 おわりに
遠く離れた場所で、何が起きているのかも分からないまま待つ時間は、ご本人以上に消耗するものだと思います。ただ、日本の制度は、ご家族が動くことを想定して作られています。弁護人を選任する権利は、ご本人だけのものではありません。まずはその一歩を踏み出していただければ、そこから情報が流れ始めます。
本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。
過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年8月時点の情報です。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
----------------------------------------------------------------------
舟渡国際法律事務所
住所 : 東京都豊島区高田3丁目4-10布施ビル本館3階
電話番号 :050-7587-4639
東京にて中国人の方をサポート
東京を中心に刑事事件の弁護
----------------------------------------------------------------------