銀行口座やキャッシュカードを譲り渡したら|犯罪収益移転防止法違反と詐欺幇助、在留への影響
2026/08/14
本記事の要点
- 預貯金通帳やキャッシュカードの不正な譲渡・譲受けは、犯罪による収益の移転防止に関する法律26条により処罰されます。法定刑は3年以下の拘禁刑若しくは500万円以下の罰金又はその併科です。
- 業として行った場合は5年以下の拘禁刑若しくは1,000万円以下の罰金又はその併科に加重され、勧誘・誘引した者も処罰の対象です(同条3項・4項)。
- 譲り渡した口座が特殊詐欺に使われた場合、詐欺幇助として立件される可能性があります。ここが在留にとって決定的な分かれ目です。
- 詐欺の罪は刑法第二編第37章に属し、入管法24条4号の2の列挙罪名です。別表第一の在留資格の方は、執行猶予付きの拘禁刑でも退去強制事由に該当し得ます。
- 他方、犯罪収益移転防止法違反そのものは、この列挙には含まれていません。どの罪名で立件されるかが、在留の帰趨を左右します。
帰国が決まったので使わなくなる口座を買い取りたいと言われた。あるいは、報酬を渡すから会社名義の口座を作って渡してほしいと持ちかけられた。留学を終える時期や、経営していた会社を畳む時期に、この種の話が持ち込まれることがあります。
口座を渡すという行為は、それ自体が犯罪であるだけでなく、その口座がどう使われたかによって、まったく異なる重さの事件へと姿を変えます。本記事では、口座譲渡がどのように立件され、外国人の方の在留にどう跳ね返るのかを整理いたします。
1 口座を渡すこと自体が犯罪である
犯罪による収益の移転防止に関する法律26条は、他人になりすまして預貯金契約に係る役務の提供を受ける目的等で、預貯金通帳、キャッシュカード、引出しや振込みに必要な情報を譲り受け、又は交付を受ける行為を処罰しています。法定刑は3年以下の拘禁刑若しくは500万円以下の罰金であり、これを併科することもできます。相手方にその目的があることを知って譲り渡した側も、同じ刑で処罰されます(同条2項)。
さらに、これを業として行った場合には、5年以下の拘禁刑若しくは1,000万円以下の罰金又はその併科へと加重されます(同条3項)。加えて、こうした行為をするよう人を勧誘し、又は広告等の方法で誘引した者も処罰の対象です(同条4項)。友人に声を掛けて口座を集めたという行為は、この4項に正面から当たり得ます。
「正当な理由がないのに有償で」譲り渡した場合も同様に処罰されます。つまり、相手が何に使うかを知らなかったという説明だけでは、処罰を免れる保証はありません。
2 口座がどう使われたかで事件の重さが変わる
問題はその先です。譲り渡した口座が特殊詐欺の被害金の振込先として使われた場合、捜査機関は、譲渡した方が詐欺に加担していたのではないかという観点から捜査を進めます。用途を認識していたと認定されれば、詐欺幇助(刑法246条・62条)として立件されることになります。詐欺罪の法定刑は10年以下の拘禁刑であり、幇助犯は減軽されますが、それでも犯罪収益移転防止法違反とは重さが異なります。
また、譲渡の対価として受け取った金銭が犯罪収益であると認識していた場合には、組織的犯罪処罰法上の犯罪収益等収受として問題となる場面もあります。
ここで争点となるのは、結局のところ認識の内容です。口座が何に使われると思っていたのか、報酬の高さから違法性をどこまで想定できたのか、勧誘の際にどのような説明を受けたのか。これらは供述と客観証拠の積み重ねで認定されます。取調べの初期にどう説明するかが、後の罪名を事実上決めてしまうことがあります。
3 在留への影響 ― 罪名の違いが決定的である理由
入管法24条4号の2は、別表第一の在留資格(留学、技術・人文知識・国際業務、特定技能、経営・管理等)で在留する方について、刑法第二編の一定の章の罪により拘禁刑に処せられた場合を退去強制事由と定めています。そこには、詐欺及び恐喝の罪を定める第37章が含まれています。
この規定には、刑の全部の執行猶予を除外する但書がありません。したがって、詐欺幇助で執行猶予付きの拘禁刑を受けた場合、別表第一の在留資格をお持ちの方は、それだけで退去強制事由に該当し得ます。「執行猶予だから日本に残れる」という理解は、この類型では成り立ちません。
他方、犯罪収益移転防止法違反そのものは、4号の2の列挙には含まれていません。この場合に問題となるのは、入管法24条4号リ、すなわち無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた場合(刑の全部の執行猶予を受けた者を除く)です。
つまり、同じ一つの口座譲渡という行為でも、犯罪収益移転防止法違反にとどまるのか、詐欺幇助まで問われるのかで、在留リスクの構造がまったく変わります。刑事弁護の初期段階から、この分岐を意識した活動が必要になる所以です。
4 不起訴処分を第一の目標に置く
以上の構造を踏まえれば、目標を執行猶予の獲得に置くのは適切ではありません。起訴前の段階で不起訴処分を獲得することが、在留を守る上で最も確実です。
この類型で有効な弁護活動としては、勧誘の経緯と自らの認識の限界を具体的に説明すること、報酬を受領していれば速やかに返還すること、詐欺被害者が特定できる場合には被害弁償を検討すること、口座の凍結・解約に協力していることを示すことなどが挙げられます。若い留学生の方が、生活費に窮した状況で断りきれずに応じた事案では、そうした背景事情を丁寧に主張することにも意味があります。
在留期間の更新(入管法21条)は法務大臣の裁量に委ねられており、審査では素行が考慮されます。不起訴処分を得て前科を残さないことが、更新の場面でも最大の備えとなります。
5 初動で押さえておきたい3点
- 取調べに応じる前に方針を決める。この類型では、認識の程度に関する供述がそのまま罪名を左右します。黙秘権は保障されていますので、慌てて記憶を語る前に弁護人と話してください。
- 早期に弁護人を選任する。口座の凍結解除、報酬の返還、被害弁償の申入れは、いずれも弁護人が窓口となって進めるべき事柄です。
- 通訳の質を確認する。「知らなかった」「そうかもしれないと思った」「間違いないと思った」の訳し分けは、未必の故意の認定に直結します。
6 当事務所のご案内
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区)は、中国籍の依頼者を中心とする外国人の刑事弁護と入管手続に注力しております。松村大介弁護士(第一東京弁護士会・登録番号59077・2019年登録)が、初動の接見から公判の結審まで全工程を直接担当いたします。
特殊詐欺に関連する事案では、相当数の解決実績がございます。出し子行為に関わったとされた20代の女性について、指示役からの欺罔的・脅迫的な状況や犯意の不存在といった主観的事情を総合的に主張し、不起訴処分を獲得した事例がございます。また、受け子として複数回にわたり再逮捕された事案において、徹底した取調べ対応と不当な取調べに対する抗議、事実関係の主張立証を積み重ね、全件について不起訴処分を獲得した事例もございます。
刑事手続の後に退去強制手続へ進んだ場合にも対応可能です。在留資格を失って不法滞在に至った方について、入管当局の過去の許可事例を分析し、在留特別許可を獲得した経過がございます。刑事段階から入管段階までを一つの戦略として設計することを、当事務所の基本方針としております。
当事務所には外国人事件に精通した中国語の専属通訳が常駐しております。捜査機関が指定する通訳人とは別に、依頼者ご本人のために動く通訳を、接見・打合せ・公判の各段階でご利用いただけます。刑事手続終了後の在留資格の更新・変更等は、提携の行政書士と連携して対応いたします。
7 おわりに
口座を渡すという行為は、渡した本人にとっては小さな判断であっても、被害者にとっては被害金が流れ込む入口です。だからこそ処罰は重く設計されています。しかし同時に、勧誘の構造の中で軽く扱われてしまった方がいることも、事件の実相です。何をどこまで認識していたのかを正確に説明することは、ご本人にしかできません。その説明を有利な形で残すために、早い段階で弁護人にご相談ください。
本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。
過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年8月時点の情報です。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
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