通勤中の事故と働きすぎによる体調不良|外国人労働者の労災認定と補償の受け方
2026/08/30
自転車で出勤する途中に車にはねられた、夜勤明けの帰り道に階段から落ちた、月に百時間近い残業が続いて眠れなくなり心療内科に通うことになった。作業現場で起きた明らかなけがと違い、こうした通勤中の事故や働きすぎによる体調不良は、そもそも労災として扱われるのかどうかが分かりにくく、会社に相談しても曖昧な返事しか返ってこないことがあります。
この記事では、通勤災害と過重労働による健康被害について、どこまでが補償の対象になるのか、認定されなかったときにどう争うのか、そして療養が長引いた場合に在留資格をどう守るのかを説明します。
通勤の途中でけがをした場合も労災になりますか
なります。労災保険は、業務中の災害だけでなく、住居と就業の場所との間を合理的な経路と方法で移動する途中の事故も補償の対象としています。徒歩、自転車、電車、バス、自家用車のいずれであっても構いません。
複数の会社を掛け持ちしている方が、一つ目の勤務先から二つ目の勤務先へ移動する途中の事故や、単身赴任先と家族の住む家との間を往復する途中の事故も、要件を満たせば通勤災害として扱われます。外国人労働者の方は複数の職場を掛け持ちしていることも多いため、この点は覚えておいてください。
通勤の途中で買い物などをした場合はどうなりますか
原則として、経路を外れたり移動を中断したりした時点で通勤とは扱われなくなります。ただし、日常生活上必要な行為をやむを得ない事情で最小限度の範囲で行う場合には、その行為を終えて元の経路に戻った後は再び通勤として扱われます。
日用品の買い物、病院での診察、家族の介護、職業訓練の受講などがこれにあたります。他方、仕事帰りに同僚と長時間飲食した後の事故のように、通勤との関係が切れたと評価される場面では、認定されないことが多いのが実情です。事故の時刻と場所、その日の行動の順序を、できるだけ具体的に記録しておいてください。
長時間労働で体を壊した場合も労災になりますか
なり得ます。脳や心臓の疾患については、発症前の一定期間にどれだけの時間外労働があったか、深夜勤務や不規則な勤務がどの程度続いていたか、休日がどれだけ確保されていたかといった要素をもとに、仕事との因果関係が判断されます。
ここで決定的に重要なのは、実際の労働時間を示す記録です。タイムカードの写し、入退館の記録、業務メールやチャットの送信時刻、シフト表、給与明細、通勤に使った交通系ICカードの履歴などが証拠になります。会社が記録を出さない場合でも、こうした間接的な資料の積み重ねで長時間労働を立証できることがあります。
うつ病などの精神疾患も労災と認められますか
認められる場合があります。仕事による強い心理的負荷が原因で発病したと認められれば、精神疾患も業務上の疾病として扱われます。判断にあたっては、極度の長時間労働、事故や災害の体験、ひどい嫌がらせや暴行、退職の強要、大きな責任を伴う失敗の経験など、出来事の内容と強さが具体的に検討されます。
外国人労働者の場合、言葉の壁を理由とした侮辱や、国籍を理由とする排除といった出来事も、心理的負荷の評価の対象になり得ます。いつ、誰から、どのような言動を受けたのかを、日記やメッセージの記録として残しておくことが後の立証を大きく助けます。
労災と認められなかったらどうすればよいですか
不支給の決定に対しては、不服を申し立てる手続が用意されています。まず労働者災害補償保険審査官に審査請求を行い、その結果にも納得できない場合は労働保険審査会に再審査請求を行い、最終的には裁判所に処分の取消しを求める訴訟を提起することができます。
いずれの手続にも期限があり、決定を知った日から一定期間内に申し立てる必要があります。通知書が届いたら、封を切った日を記録し、すぐに相談してください。不支給の理由がどこにあるのか、追加すべき医学的資料は何かを見極めることが、次の段階での結論を左右します。
療養が長引くと在留資格の更新に影響しますか
影響し得ますが、療養そのものが直ちに不利に働くわけではありません。就労資格については、その資格に対応する活動を継続して3か月以上行っていない場合に取消しの対象となり得るものの、正当な理由がある場合は除かれます。医師の指示による療養は、この正当な理由として説明できる事情です。
更新の審査では、いつごろ復職できる見込みなのか、その間の生活費をどう賄うのかが実質的に問われます。診断書、労災給付の決定通知、会社が雇用を継続する意思を示す書面をそろえて臨むことが有効です。
会社に対して安全配慮義務違反を問えますか
問える場合があります。会社は、労働者の生命や健康が損なわれないよう労働環境を整える義務を負っており、長時間労働を放置したり、明らかな不調のサインを把握しながら業務を軽減しなかったりした場合には、この義務に違反したと評価される余地があります。
労災保険からは慰謝料が支払われないため、精神的損害の賠償はこの請求によって初めて回復されます。労災の認定と会社への損害賠償請求は別の手続ですが、労災認定の過程で集めた資料はそのまま賠償請求の土台になります。両者を見据えて資料を整えることをお勧めします。
相談の前に何を準備しておけばよいですか
次のものがそろっていると、見通しを立てやすくなります。読める形であれば、写真やスマートフォンの画面の記録でも構いません。
- 雇用契約書、労働条件通知書、直近数か月分の給与明細
- タイムカードやシフト表など労働時間が分かる記録
- 事故の状況が分かる写真、現場の見取り図、目撃者の氏名と連絡先
- 受診した医療機関の診断書、通院の記録、処方の内容
- 会社や上司とのやり取りの記録。メール、メッセージアプリの画面、録音
- 在留カードと旅券の写し、現在の在留資格と在留期間が分かるもの
当事務所のご案内
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)は、中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護と入管手続を主たる注力分野としています。担当する松村大介弁護士(第一東京弁護士会所属・登録番号59077・2019年登録)が、警察署での最初の接見から検察官との交渉、公判、その後の入管手続に至るまで全工程を直接担当します。事務員や若手弁護士が代わりに対応することはありません。
外国人事件に精通した中国語専属通訳が常駐しており、捜査機関が手配する通訳とは別に、依頼者ご本人のために動く立場の通訳を利用していただけます。取調べで何を話したのか、入管で何を聞かれているのかを正確に把握できる体制です。刑事手続が終わった後の在留資格の更新・変更等については、提携する行政書士とワンストップで対応します。
- 難関とされた在留特別許可を1回の手続で獲得した事例。観光目的で来日した相談者が日本人女性との間に子を授かったものの、在留資格を失い不法滞在で逮捕・起訴された事案です。婚姻と認知の手続が未了で当局から一旦不受理とされたところ、松村弁護士が憲法的な観点から当局と交渉して婚姻・認知を成立させ、入管法違反の刑事裁判を意識した被告人質問・証人尋問を行いました。国籍国発行の公的書類がほとんど存在しない困難な状況下でも有利な証拠を集め、入管当局の過去の許可事例を分析することで、1回の手続で在留特別許可を得ました。
- 強制退去の危機にあった女性を救済した事例。冤罪により不法就労助長罪に問われ、強制退去の危機に瀕した女性の事案です。「退去強制事由には故意・過失を要しない」とされてきた従来の実務に対し、責任主義の射程を問う訴訟を提起して上訴審まで争いました。その後、入管から在留特別許可が認められました。
初回のご相談は無料です。費用は事案に応じてお見積りします。まずは現在の状況を整理するところから、一緒に始めさせてください。
おわりに
通勤災害と過重労働による健康被害は、いずれも会社の側から自発的に労災として扱ってもらえないことが多い分野です。しかし、認定されるかどうかで治療費と生活費の負担はまったく変わりますし、療養が在留資格に与える影響も、事前に手を打てば十分に管理できます。会社の説明に納得がいかないまま時間だけが過ぎてしまう前に、記録を持って一度ご相談ください。
なお、本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。また、ここで紹介した過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではありません。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。
覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
お問い合わせ
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
この記事の他の言語版
----------------------------------------------------------------------
舟渡国際法律事務所
住所 : 東京都豊島区高田3丁目4-10布施ビル本館3階
電話番号 :050-7587-4639
東京にて中国人の方をサポート
東京を中心に刑事事件の弁護
東京にて行政事件に関する対応
----------------------------------------------------------------------