外国人労働者が未払い賃金・残業代を請求する方法|証拠の集め方と手続の選び方
2026/08/30
毎日12時間近く働いているのに、給与明細には固定額しか書かれていない。辞めたいと伝えたら、最後の月の給料を払ってもらえないまま連絡が取れなくなった。日本で働く外国人の方から、こうしたご相談を受けることがあります。言葉の壁や在留資格への不安から、声を上げられないまま我慢を続けてしまう方も少なくありません。
しかし、働いた分の賃金を受け取る権利は、国籍にかかわらず法律で守られています。ここでは、何を証拠として集めればよいか、残業代はどう計算するのか、どの手続を選べばよいのかを、順を追って説明します。
外国人でも未払い賃金を請求できますか
結論として、請求できます。労働基準法は、労働者の国籍を理由として労働条件について差別的な取扱いをすることを禁じており、日本人と外国人とで賃金の保護に違いはありません。
技能実習生、特定技能、留学の資格外活動、いずれの立場であっても同じです。日本で働いた以上、その労働に対する賃金を受け取る権利があります。
会社から、外国人だから残業代は出ない、実習生には割増賃金は関係ないなどと説明されることがありますが、そうした説明に法律上の根拠はありません。まずは事実関係を整理することから始めてください。
在留資格がない状態でも働いた分の賃金は請求できますか
結論として、請求できます。在留資格の問題と、実際に働いた労働に対する賃金の支払とは、別の問題として扱われます。
入管法上の問題があることを理由に、会社が賃金の支払を免れるという扱いは認められていません。働いてもらっておいて賃金を払わないことを、法は許していないとお考えください。
もっとも、請求の過程で在留資格に関する事実が明らかになる場合があります。資格外活動の時間が上限を超えていた、在留期間が過ぎていたといった事情がある方は、賃金請求を始める前に弁護士にご相談ください。賃金の回収と在留資格の見通しを同時に検討することで、進め方を選ぶことができます。
まず何を集めればよいですか
結論として、働いた時間と支払われた金額を示す資料が中心になります。手元にあるものから集めてください。完璧に揃っていなくても諦める必要はありません。
- 雇用契約書、労働条件通知書。日本語のものでも、写真に撮って保存してください。
- 給与明細、銀行の入金記録、現金で受け取った場合はその記録やメモ。
- タイムカードの写真、出勤簿、シフト表。
- 会社の入退館記録、業務用アプリの記録。
- 上司や同僚とのメッセージのやり取り。出勤や残業を指示された内容が残っていれば有力な資料になります。
- ご自身で毎日つけた出退勤のメモ。手書きでも、スマートフォンのカレンダーでも構いません。
- 寮の入退室記録、通勤の交通系ICカードの利用履歴。
とくにご自身でつけた記録は、退職後に会社が資料を出さない場合に重要な意味を持ちます。今日から始めても遅くはありません。日付、始業時刻、終業時刻、休憩時間を、その日のうちに書き留めてください。
残業代はどのように計算しますか
結論として、1時間あたりの賃金額に、割増率と時間数を掛けて計算します。基本的な考え方は次のとおりです。
- 法定労働時間を超えて働いた時間について、通常の賃金に対し2割5分以上の割増賃金が支払われます。
- 1か月の時間外労働が60時間を超えた部分については、5割以上の割増となります。
- 午後10時から翌午前5時までの深夜の時間帯に働いた場合、別に2割5分以上の割増が加算されます。
- 法定休日に働いた場合は、3割5分以上の割増となります。
1時間あたりの賃金額は、月給制の場合、月の賃金額を月平均所定労働時間で割って求めます。ここで通勤手当や家族手当など、計算の基礎から除かれる手当があるため、給与明細の内訳が重要になります。
また、固定残業代(みなし残業代)が定められている場合でも、その金額が何時間分に相当するのかが明確でなければ有効と認められないことがあり、また実際の残業時間がその時間数を超えれば差額を請求できます。固定残業代があるから請求できないと思い込まないでください。
請求できる期間はいつまでさかのぼれますか
結論として、賃金請求権の消滅時効は、当分の間、支払期日から3年とされています。したがって、3年より前の分は請求が難しくなります。
時間が経つほど資料は失われ、会社の記録も廃棄されていきます。迷っている期間そのものが、請求できる金額を減らしていきます。まだ在職中で請求に踏み切れない場合でも、記録を残しておくことには意味があります。
なお、裁判所に訴えを起こした場合、未払いの割増賃金があるときは、裁判所が会社に対し、これと同額までの付加金の支払を命じることがあります。また、退職後の未払賃金には、法律上、高い利率の遅延損害金が付く仕組みがあります。
会社に請求するにはどのような方法がありますか
結論として、費用と時間、そして関係を続けるかどうかによって、選ぶべき手続が変わります。
- 会社への直接の請求。まずは書面で請求します。内容証明郵便を用いると、請求した事実と日付が記録に残ります。
- 労働基準監督署への申告。賃金の不払や割増賃金の不払について、監督署が会社を指導することがあります。費用はかかりません。ただし、金額の争いを裁定してくれる機関ではありません。
- 都道府県労働局のあっせん。話合いによる解決を目指す手続で、費用はかかりません。
- 労働審判。原則として3回以内の期日で結論を出す裁判所の手続で、比較的短期間で解決に至ることが多い手続です。
- 訴訟。争点が多い場合や、金額が大きい場合に用います。60万円以下の金銭請求であれば、少額訴訟という簡易な手続もあります。
労働基準監督署や都道府県労働局には、多言語での相談に対応する窓口が設けられています。まずはそこで相談してみることもできます。どの手続を選ぶかは、集まった資料の内容によって変わりますので、資料を整理してから判断してください。
会社が倒産した場合や連絡が取れない場合はどうすればよいですか
結論として、会社が倒産した場合には、国の制度により未払賃金の一部の立替払を受けられることがあります。
この制度では、一定の要件を満たす場合に、未払となっている賃金と退職手当の一部について立替払が行われます。立替払の対象となる金額には、退職時の年齢に応じた上限があり、全額が支払われるわけではありませんが、何も受け取れないまま終わることを避けられます。
会社と連絡が取れなくなった場合でも、法人の登記情報から代表者や本店所在地を確認できることがあります。給与を現金で受け取っていた方、契約書がない方であっても、諦めずにご相談ください。資料が少ない事案ほど、早い段階で動くことが結果を左右します。
請求すると在留資格や仕事に影響しますか
結論として、賃金を請求したこと自体を理由に在留資格が失われることはありません。また、労働基準監督署に申告したことを理由として解雇その他の不利益な取扱いをすることは、法律で禁じられています。
とはいえ、請求をきっかけに会社との関係が悪化し、退職に至ることは現実にあります。その場合に備えて、次の点を確認しておいてください。
- 就労資格をお持ちの方は、勤務先が変わったときは14日以内に入管へ届け出る必要があります(入管法19条の16)。
- 在留資格に応じた活動を長期間行っていない状態が続くと、在留資格の取消しの検討対象となることがあります(入管法22条の4)。転職活動を続けていることや、労働に関する争いが継続していることは、説明すべき事情になります。
- 次の勤務先が決まった場合、その業務内容が在留資格に対応するかを事前に確認してください。
賃金の回収と在留資格の維持は、切り離さずに一緒に考える必要があります。両方を見ながら進め方を決めることが大切です。
当事務所のご案内
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)は、中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護と入管手続を主たる注力分野としています。担当する松村大介弁護士(第一東京弁護士会所属・登録番号59077・2019年登録)が、警察署での最初の接見から検察官との交渉、公判、その後の入管手続に至るまで全工程を直接担当します。事務員や若手弁護士が代わりに対応することはありません。
外国人事件に精通した中国語専属通訳が常駐しており、捜査機関が手配する通訳とは別に、依頼者ご本人のために動く立場の通訳を利用していただけます。取調べで何を話したのか、入管で何を聞かれているのかを正確に把握できる体制です。刑事手続が終わった後の在留資格の更新・変更等については、提携する行政書士とワンストップで対応します。
- 難関とされた在留特別許可を1回の手続で獲得した事例。観光目的で来日した相談者が日本人女性との間に子を授かったものの、在留資格を失い不法滞在で逮捕・起訴された事案です。婚姻と認知の手続が未了で当局から一旦不受理とされたところ、松村弁護士が憲法的な観点から当局と交渉して婚姻・認知を成立させ、入管法違反の刑事裁判を意識した被告人質問・証人尋問を行いました。国籍国発行の公的書類がほとんど存在しない困難な状況下でも有利な証拠を集め、入管当局の過去の許可事例を分析することで、1回の手続で在留特別許可を得ました。
- 強制退去の危機にあった女性を救済した事例。冤罪により不法就労助長罪に問われ、強制退去の危機に瀕した女性の事案です。「退去強制事由には故意・過失を要しない」とされてきた従来の実務に対し、責任主義の射程を問う訴訟を提起して上訴審まで争いました。その後、入管から在留特別許可が認められました。
初回のご相談は無料です。費用は事案に応じてお見積りします。まずは現在の状況を整理するところから、一緒に始めさせてください。
おわりに
賃金の未払いは、生活に直接影響するだけでなく、日本で働くことへの信頼そのものを損なうものです。言葉に自信がなくても、資料が揃っていなくても、まずは相談してください。ご自身でつけた出退勤のメモやメッセージの記録が、後に大きな意味を持つことがあります。時効の期間があるため、迷っている時間が長いほど請求できる範囲は狭まります。在留資格への影響が心配な方も、その点を含めて一緒に検討できますので、一人で抱え込まないでください。
なお、本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。また、ここで紹介した過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではありません。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。
覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
お問い合わせ
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ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
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