不法就労助長罪(入管法73条の2)の成立要件|知らなかったで済まない理由と企業の確認義務
2026/08/30
飲食店や建設業、人材関連の事業を営む方から、採用した外国人が実は就労できない立場だったと後から分かった、入管から会社に連絡が来た、というご相談をいただきます。中国人経営者の方が、同郷の知人を助けるつもりで働いてもらったところ、その方が在留期限を過ぎていた、という形の事案も少なくありません。
この記事では、不法就労助長罪(入管法73条の2)がどのような場合に成立するのか、知らなかったと言えば処罰を免れるのか、どこまで確認すれば足りるのか、派遣や下請けを使っている場合の責任、そして入管や警察から連絡が来たときの対応を説明します。従業員の側ではなく、雇う側の視点から整理します。
不法就労助長罪はどんな場合に成立しますか
結論として、入管法73条の2は、大きく分けて三つの行為を処罰の対象としています。第一に、事業活動に関し、外国人に不法就労活動をさせた場合。第二に、外国人に不法就労活動をさせるために、これを自己の支配下に置いた場合。第三に、業として、これらの行為に関しあっせんをした場合です。
この罪には拘禁刑と罰金が定められており、両方を併せて科すこともできるとされています。雇用契約を結んでいるかどうかは問われません。日雇いでも、名目上は手伝いでも、事業活動として働かせていれば対象になり得ます。
そもそも不法就労活動とは何を指しますか
不法就労活動は、次の三つの類型に整理できます。
- そもそも在留資格を持たない人が働く場合(在留期限を過ぎている人、上陸の許可を受けていない人など)
- 就労が認められていない在留資格の人が、許可を受けずに働く場合(留学や家族滞在の方が資格外活動許可を得ずに働くなど)
- 就労が認められている在留資格の人が、認められた範囲を超えて働く場合
三番目が最も見落とされます。在留カードに就労可能と書かれていても、その在留資格が予定する業務の範囲を超えて働かせれば、不法就労になり得ます。専門的な業務のために許可を受けている方に、恒常的に現場作業や店舗での単純業務をさせている場合が典型です。
外国人が不法就労だと知らなかった場合でも処罰されますか
ここが最も重要な点です。入管法73条の2には、外国人が不法就労活動を行ったことを知らなかったことを理由として処罰を免れることができない旨の規定が置かれています。ただし、知らないことについて過失がなかったときは、この限りではないとされています。
つまり、知らなかったという主張だけでは足りず、知らなかったことに落ち度がなかったといえるかどうかが問われる構造になっています。在留カードを見せてもらわなかった、コピーも取っていなかった、期限を確認していなかったという場合には、過失がなかったとは言いにくくなります。
どこまで確認すれば、過失がなかったといえますか
絶対的な基準があるわけではありませんが、実務上、少なくとも次の確認を行い、記録に残しておくことが求められます。
- 在留カードの原本を提示させ、写しを保管する(採用時と、更新のたび)
- 表面の在留資格、在留期間の満了日、就労制限の有無の欄を確認する
- 裏面の資格外活動許可の記載を確認する
- 出入国在留管理庁が提供する在留カード等の読取りや失効情報の照会を利用し、偽変造でないか、失効していないかを確認する
- 在留期限を人事の管理表に登録し、満了前に更新の状況を確認する
特に見落とされやすいのが、採用時には適法だったが、その後に在留期限が過ぎてしまったという場合です。採用時の一度きりの確認では足りず、在留期限の管理を継続することが必要です。長く働いている従業員ほど確認が形骸化しやすいので、注意してください。
資格外活動許可のあるアルバイトを雇う場合の注意点は何ですか
留学や家族滞在の在留資格の方は、資格外活動の許可を受ければ働くことができますが、原則として1週について28時間以内という時間の上限があります。この上限は、複数の勤務先で働いている場合には合計して計算されます。
したがって、自分の店では上限内に収まっていても、他の店と合わせて超えていれば、上限を超えた就労になります。採用時に他にアルバイトをしているかを確認し、記録しておくことが重要です。また、風俗営業等に関わる業務は、資格外活動の許可があっても認められません。学校を退学や除籍になった場合には、そもそも在留資格の前提が失われますので、在籍の確認も必要です。
派遣や下請けで働かせている場合も、責任を負いますか
負う可能性があります。直接の雇用契約がなくても、事業活動に関して外国人に不法就労活動をさせたと評価できる場合には、処罰の対象になり得ます。現場で直接に指揮命令をしている、就労の実態を把握できる立場にあった、といった事情があれば、直接の雇用主でないという理由だけでは責任を免れません。
下請けや派遣元に確認を任せている場合には、確認をしたという事実を自社でも記録できる形にしておくことが必要です。契約書に法令遵守の条項を入れるだけでは足りず、就労している方の在留カードの写しの提出を求める、定期的に在留期限の一覧を提出させるといった運用が現実的な対策になります。
会社自体(法人)も処罰されますか
されることがあります。入管法には、法人の代表者や従業員などが、法人の業務に関して違反行為をしたときに、行為者を罰するほか、法人に対しても罰金を科す旨の規定が置かれています。
加えて、刑事処分以外の影響も見過ごせません。技能実習の実習実施者や特定技能の受入れ機関としての資格を失う、入札への参加に影響が出る、許認可事業で不利益を受ける、報道によって取引先を失うといった事態が現実に起こります。刑事処分の重さだけで判断せず、事業全体への影響を前提に対応を考える必要があります。なお、外国人自身が不法就労助長の行為を行った場合には、その行為だけで退去強制事由に当たる扱いとなっており(入管法24条3号の4)、刑事処罰を受けていることは要件とされていません。
入管や警察から連絡が来たら、どうすればよいですか
まず、その場で断定的な説明をしないことです。担当者から、知っていたのではないか、確認しなかったのはなぜか、と問われたときに、その場しのぎで曖昧な説明をすると、後から訂正することが難しくなります。事実関係を社内で確認したうえで回答したい、と伝えることは不自然な対応ではありません。
そのうえで、次の準備を進めてください。
- 対象となっている従業員の在留カードの写し、雇用契約書、勤務記録、給与の支払記録を集める
- 採用時に誰がどのような確認をしたのかを、担当者から聞き取って記録する
- 他の従業員についても同じ問題がないかを点検する
- 再発防止のための確認手順を整備する
過失がなかったといえるかどうかは、確認の記録が残っているかによって大きく左右されます。連絡を受けた段階で記録を整えることには限界がありますが、これまでの運用を正確に説明できる形にしておくことは、その後の見通しを大きく変えます。
当事務所のご案内
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)は、中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護と入管手続を主たる注力分野としています。担当する松村大介弁護士(第一東京弁護士会所属・登録番号59077・2019年登録)が、警察署での最初の接見から検察官との交渉、公判、その後の入管手続に至るまで全工程を直接担当します。事務員や若手弁護士が代わりに対応することはありません。
外国人事件に精通した中国語専属通訳が常駐しており、捜査機関が手配する通訳とは別に、依頼者ご本人のために動く立場の通訳を利用していただけます。取調べで何を話したのか、入管で何を聞かれているのかを正確に把握できる体制です。刑事手続が終わった後の在留資格の更新・変更等については、提携する行政書士とワンストップで対応します。
- 難関とされた在留特別許可を1回の手続で獲得した事例。観光目的で来日した相談者が日本人女性との間に子を授かったものの、在留資格を失い不法滞在で逮捕・起訴された事案です。婚姻と認知の手続が未了で当局から一旦不受理とされたところ、松村弁護士が憲法的な観点から当局と交渉して婚姻・認知を成立させ、入管法違反の刑事裁判を意識した被告人質問・証人尋問を行いました。国籍国発行の公的書類がほとんど存在しない困難な状況下でも有利な証拠を集め、入管当局の過去の許可事例を分析することで、1回の手続で在留特別許可を得ました。
- 強制退去の危機にあった女性を救済した事例。冤罪により不法就労助長罪に問われ、強制退去の危機に瀕した女性の事案です。「退去強制事由には故意・過失を要しない」とされてきた従来の実務に対し、責任主義の射程を問う訴訟を提起して上訴審まで争いました。その後、入管から在留特別許可が認められました。
初回のご相談は無料です。費用は事案に応じてお見積りします。まずは現在の状況を整理するところから、一緒に始めさせてください。
おわりに
不法就労助長罪は、外国人を雇う事業者にとって、知らなかったという説明だけでは避けられない類型の犯罪です。在留カードの確認と写しの保管、在留期限の継続的な管理、資格外活動許可の時間の上限と他店との合算、派遣や下請けを含めた実態の把握。この四点を日常の運用に組み込むことが、最も確実な予防になります。すでに入管や警察から連絡を受けている場合は、回答をする前にご相談ください。会社としての説明の仕方、従業員本人の在留への影響、両方を見据えて方針を立てる必要があります。当事務所では中国語の通訳を用意して対応しています。
なお、本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。また、ここで紹介した過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではありません。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。
覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
お問い合わせ
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ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
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