技能実習先を変えたい・助けてほしいとき|実習先変更(転籍)と保護を求める手続を弁護士が解説
2026/08/30
働いた時間の記録と実際の給料が合わない、指導という名目で怒鳴られ続けている、寮から出ることを禁じられている、相談したいと言ったら帰国させると言われた。技能実習生の方から寄せられるご相談には、こうした訴えが繰り返し現れます。多くの方が、逃げるか我慢するかの二択しかないと思い込んでいますが、実際には実習先を離れる前に取れる手段があります。
この記事では、実習先の変更が認められる場面、相談できる窓口、相談したことを理由とする不利益な取扱いが禁じられていること、そして未払賃金の請求方法までを、順を追って説明します。すでに実習先を離れてしまった方向けの説明ではなく、これから動く方が知っておくべきことを中心にまとめます。
実習先を変えることはできますか
結論としては、本人の希望だけで自由に転職することは制度上想定されていませんが、実習の継続が困難になった場合には、別の実習先へ移る道が用意されています。技能実習は、あらかじめ認定を受けた実習計画に基づいて特定の実習実施者のもとで行う仕組みですから、一般の就労資格のように自分で次の会社を探して移る形にはなっていません。
そのため、実習先を離れてから相談するのと、離れる前に相談するのとでは、選べる手段が大きく違ってきます。今の状態が苦しくても、可能な限り、動く前に相談してください。
どのような場合に実習先の変更が認められますか
実習の継続が困難となった場合に、監理団体や外国人技能実習機構が新たな受入れ先を探す支援を行う仕組みがあります。継続が困難な場合として想定されているのは、次のような場面です。
- 実習実施者が倒産した、事業を廃止した、経営が悪化して受入れを続けられなくなった
- 実習実施者に法令違反があり、実習を継続させることが適当でないと判断された
- 暴行、脅迫、暴言、ハラスメント、賃金の不払といった人権に関わる問題がある
- 本人の責めによらない事情で、そこでの実習を続けることが著しく困難になった
重要なのは、本人の側に落ち度がなく実習が続けられなくなった場合は、本人が不利益を受けるべき場面ではないという考え方が制度の前提にあることです。実習先から、途中で辞めるなら違約金を払え、帰国してもらうと言われても、それがそのまま通るわけではありません。
実習先を変えたいときはどこに相談すればよいですか
窓口は一つではありません。次のような選択肢があり、状況に応じて使い分けます。
- 外国人技能実習機構の母国語相談窓口(中国語での相談に対応しています)
- 監理団体(ただし実習実施者と関係が近い場合は、相談内容が伝わることがあります)
- 労働基準監督署(賃金の不払、長時間労働、安全衛生に関する問題)
- 地方出入国在留管理局(在留資格に関わる問題)
- 弁護士(複数の窓口にまたがる問題を、順序を整えて進める場合)
監理団体に相談してよいか迷う方が多いのですが、監理団体は実習実施者を監督する立場にあり、本来は相談先です。ただ、実際には実習実施者と経営上のつながりが深く、相談した内容がそのまま伝わってしまう例もあります。すでに監理団体に相談して状況が悪化した経験がある場合には、別の窓口を先に使うことを検討してください。
相談したことを理由に帰国させられることはありませんか
相談や申告をしたことを理由として、解雇その他の不利益な取扱いをすることは禁じられています。労働基準監督署への申告についても同様の保護があります。
とはいえ、制度上禁じられていることと、現実に起きないこととは別です。実際に、相談した直後に航空券を取られた、寮を出るよう言われた、というご相談はあります。そのため、相談する前に、パスポートと在留カードを自分の手元に確保しておくこと、寮以外に一時的に身を寄せられる場所を確認しておくことが、実務上とても重要です。強制的に帰国させられそうな状況が差し迫っている場合は、その時点で緊急のご相談としてお受けします。
パスポートや在留カードを会社に預けたままですが、返してもらえますか
返還を求めることができます。パスポートや在留カードを実習実施者や監理団体が保管することは認められておらず、本人が自ら管理すべきものとされています。預かっていると言われている場合でも、返してほしいと伝えれば返還されるべきものです。
返還を拒まれる場合には、外国人技能実習機構や労働基準監督署への相談、弁護士名義での返還請求といった手段があります。身分を証明する書類が手元にない状態は、その後のあらゆる手続の妨げになりますので、優先して取り戻すべき事項です。
未払いの賃金や残業代はどうやって請求しますか
方法は段階的です。まず、労働基準監督署に申告して行政指導を求める方法があります。次に、弁護士名義の請求書を送り、交渉によって支払を求める方法があります。それでも解決しない場合は、労働審判や訴訟によって請求します。
在留資格の有無や、実習先を離れているかどうかにかかわらず、実際に働いた分の賃金を受け取る権利は労働法によって保護されます。労働基準法や最低賃金法は、在留資格を条件として適用されるものではありません。日本を離れた後でも請求はできますが、資料の入手や連絡の手間を考えると、日本にいる間に着手しておくほうが進めやすいのが実情です。
相談の前に集めておくべき資料は何ですか
次のものが手元にあると、主張の裏付けが格段に強くなります。写真に撮ってクラウドや母国の家族に送っておくと、後で持ち出せなくなる事態を避けられます。
- 雇用契約書、実習計画の写し、入国前に説明を受けた条件が分かる資料
- 給与明細、通帳の記録、現金で受け取った場合はその額と日付のメモ
- タイムカード、勤務表、出退勤を記録したメモや写真
- 寮費、光熱費、その他控除されている金額が分かる資料
- 上司や監理団体とのやり取り(メッセージアプリの画面、録音)
- けがや体調不良がある場合の診断書、通院の記録
録音については、自分が当事者として参加している会話を記録することは、通常問題になりません。暴言や脅しがある場合、その場の音声は後で作り直すことができない、極めて価値の高い証拠になります。
弁護士に依頼すると、どこまで対応してもらえますか
技能実習に関する問題は、労働の問題と在留資格の問題が同時に進行します。弁護士に依頼した場合、次のような対応が可能です。
- 実習実施者や監理団体との交渉、パスポート等の返還請求
- 未払賃金、残業代、損害賠償の請求(交渉、労働審判、訴訟)
- 外国人技能実習機構や労働基準監督署への申告の同行、書面の作成
- 実習先変更の希望を伝える際の事情説明書の作成
- 在留期限が迫っている場合の在留資格に関する手続の検討
- すでに実習先を離れている場合の、出頭の時期と方法の検討
なお、技能実習に代わる新たな受入れ制度への移行に向けた法整備が進められており、転籍の取扱いを含めて運用が変わっていく見込みです。現時点でご自身に適用される制度がどれなのかを確認したうえで判断してください。
当事務所のご案内
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)は、中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護と入管手続を主たる注力分野としています。担当する松村大介弁護士(第一東京弁護士会所属・登録番号59077・2019年登録)が、警察署での最初の接見から検察官との交渉、公判、その後の入管手続に至るまで全工程を直接担当します。事務員や若手弁護士が代わりに対応することはありません。
外国人事件に精通した中国語専属通訳が常駐しており、捜査機関が手配する通訳とは別に、依頼者ご本人のために動く立場の通訳を利用していただけます。取調べで何を話したのか、入管で何を聞かれているのかを正確に把握できる体制です。刑事手続が終わった後の在留資格の更新・変更等については、提携する行政書士とワンストップで対応します。
- 難関とされた在留特別許可を1回の手続で獲得した事例。観光目的で来日した相談者が日本人女性との間に子を授かったものの、在留資格を失い不法滞在で逮捕・起訴された事案です。婚姻と認知の手続が未了で当局から一旦不受理とされたところ、松村弁護士が憲法的な観点から当局と交渉して婚姻・認知を成立させ、入管法違反の刑事裁判を意識した被告人質問・証人尋問を行いました。国籍国発行の公的書類がほとんど存在しない困難な状況下でも有利な証拠を集め、入管当局の過去の許可事例を分析することで、1回の手続で在留特別許可を得ました。
- 強制退去の危機にあった女性を救済した事例。冤罪により不法就労助長罪に問われ、強制退去の危機に瀕した女性の事案です。「退去強制事由には故意・過失を要しない」とされてきた従来の実務に対し、責任主義の射程を問う訴訟を提起して上訴審まで争いました。その後、入管から在留特別許可が認められました。
初回のご相談は無料です。費用は事案に応じてお見積りします。まずは現在の状況を整理するところから、一緒に始めさせてください。
おわりに
実習先での扱いに耐えられなくなったとき、黙って離れてしまうと、在留資格の取消しや不法残留という別の問題が上に乗ってきます。一方、離れる前に相談すれば、実習先の変更、未払賃金の請求、帰国を強いられることへの対応といった手段を、順序立てて使うことができます。相談したことを理由とする不利益な取扱いは禁じられており、パスポートや在留カードは本人が管理すべきものです。まずは資料を確保し、身分証を自分の手元に取り戻すところから始めてください。今の状況で何ができるのか分からないという段階でも構いませんので、ご相談ください。当事務所では中国語の通訳を用意して対応しています。
なお、本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。また、ここで紹介した過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではありません。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。
覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
お問い合わせ
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ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
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