技能実習先から失踪してしまった場合|在留資格の取消し・不法残留・出頭のタイミングを弁護士が解説
2026/08/30
寮を出たまま実習先に戻っていない、友人のところに身を寄せて別の仕事をしている、在留カードの期限が近づいているのに何もできていない。技能実習生の方から、こうした状態でのご相談を受けることがあります。多くの場合、賃金や残業代の問題、暴言や暴力、体調不良、母国の家族の事情など、そこに至るまでの経緯があります。
この記事では、いわゆる失踪の状態にある方が、法的にどのような立場に置かれるのかを、在留資格の取消し、不法残留、資格外活動という三つの局面に分けて整理します。そのうえで、自ら出頭する場合に何が変わるのか、実習先に問題があった場合に主張できることは何かを説明します。読んで不安をあおるためではなく、選べる道がまだ残っていることをお伝えするための記事です。
実習先から離れてしまいました。今どういう状態にありますか
結論から申し上げると、実習先を離れたこと自体は犯罪ではありませんが、放置すればいくつかの不利益が段階的に重なっていく状態にあります。順番としては、まず在留資格の取消しの問題、次に在留期限が切れることによる不法残留の問題、そして別の場所で働いていれば資格外活動の問題が加わります。
逆に言えば、どの段階にいるかによって、取り得る手段も、見込まれる結果も変わります。まず自分がどの段階にいるのかを確認することが出発点になります。在留カードに記載された在留期限、実習先を離れた日、その後働いたかどうか、この三つを整理してください。
失踪しただけで犯罪になりますか
なりません。実習先の指示に従わずに寮を出た、連絡を絶ったというだけでは、刑事上の犯罪には当たりません。会社から失踪届が出された、警察に届けられたと聞いて、逮捕されるのではないかと不安になる方がいますが、これは行方不明の届出であって、犯罪の告訴とは別のものです。
ただし、実習先を離れれば、本来の在留資格に基づく活動を行っていない状態になります。ここから在留資格の取消しの問題が生じます。刑事責任の問題と、在留資格の問題は別々に進むという理解が重要です。
別の場所で働いていた場合はどうなりますか
技能実習の在留資格は、認められた実習計画に沿った活動を行うためのものですから、実習先以外の場所でアルバイトなどをすれば、資格外活動に当たります。専ら本来の活動以外の活動を行っていた場合は退去強制事由(入管法24条4号イ)に当たり、資格外活動の罪(同法70条1項4号、73条)の問題も生じます。
また、資格外活動の罪により拘禁刑に処せられた場合は、別の退去強制事由(24条4号ヘ)にも当たります。働いていた事実がある方は、いつからいつまで、どこで、どのくらいの頻度で働いたのかを、正直に整理しておいてください。隠したまま手続に入ると、後から発覚したときに信用の問題が生じ、判断が一段と厳しくなります。
在留資格を取り消されることはありますか
あります。入管法22条の4は、在留資格に応じた活動を継続して3か月以上行っていないときを取消事由として定めています(正当な理由がある場合を除きます)。実習先を離れて3か月以上が経過していれば、この事由に形式的には当たり得ます。
ここで重要なのが、正当な理由があったかどうかです。賃金が支払われていなかった、暴力や暴言があった、危険な作業を強いられた、パスポートを取り上げられていた、体調を崩して働ける状態になかった。こうした事情は、なぜ実習先を離れざるを得なかったのかを説明する材料になります。取消しの手続では意見聴取が行われますので、そこで資料とともに主張することができます。
在留期限が切れてしまった場合はどうなりますか
在留期限を過ぎて日本に滞在していれば、不法残留となります。不法残留罪は3年以下の拘禁刑若しくは300万円以下の罰金、またはその併科と定められており(入管法70条1項5号)、同時に退去強制事由(24条4号ロ)にも当たります。
もっとも、不法残留の事案がすべて起訴されるわけではなく、実務上は退去強制手続の中で処理されることが多くあります。刑事手続と退去強制手続は別個に進むため、刑事処分がなかったとしても退去強制手続は進みますし、逆もあります。期限を過ぎている場合は、時間が経つほど選択肢が狭まりますので、早い段階で方針を決める必要があります。
自分から入管に出頭したほうがよいのですか
一般論として、自ら出頭することは、その後の手続で有利に働く要素とされています。在留特別許可のガイドラインでも、自ら出頭したことは積極的な要素として位置付けられています(同ガイドラインは令和6年3月に改定され、同年6月10日から施行されています)。
また、上陸拒否期間にも差が出ます。違反調査が始まる前に自ら出頭し、出国命令によって出国した場合は1年(入管法5条1項9号ホ)、違反調査が始まった後に出国の意思を表明した場合は5年(同号ヘ)、退去強制によって出国し前歴がない場合は5年(同号ハ)とされています。ただし、出国命令の対象となるには入管法24条の3の五つの要件をすべて満たす必要があり、資格外活動で働いていた期間がある場合などには要件を満たさないこともあります。どの道を選べるかは事案によって異なりますので、出頭の前に見通しを立てることが大切です。
実習先で暴力や賃金未払いがあった場合でも同じ扱いですか
同じではありません。在留資格の判断においては先ほど述べた正当な理由の主張につながりますし、それとは別に、未払賃金や損害賠償を請求する立場にも立ちます。
在留資格の有無にかかわらず、実際に働いた分の賃金を受け取る権利は労働法によって保護されます。労働基準法や最低賃金法は、在留資格がないことを理由に適用が外れる仕組みにはなっていません。給与明細、タイムカードの写真、勤務時間を書いたメモ、送金記録、上司とのやり取りの記録などは、後から集めることが難しい資料です。手元にあるものは処分せず保管しておいてください。
これから何をすればよいですか
順序としては、次のとおりです。
- 在留カードとパスポートの所在を確認する(会社に預けたままなら返還を求める)
- 在留期限、実習先を離れた日、その後働いた期間を書き出す
- 実習先で受けた不利益について、証拠になりそうな資料を集める
- 母国に帰る意思があるのか、日本に残ることを希望するのかを整理する
- そのうえで、出頭の前に弁護士に相談する
最後の点が重要です。出頭は一度きりの手続ではありませんが、最初にどのような説明をしたかは記録に残り、その後の手続を通じて参照されます。何を、どの順序で、どの資料とともに説明するかを整えてから動くことで、結果が変わり得る場面があります。
当事務所のご案内
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)は、中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護と入管手続を主たる注力分野としています。担当する松村大介弁護士(第一東京弁護士会所属・登録番号59077・2019年登録)が、警察署での最初の接見から検察官との交渉、公判、その後の入管手続に至るまで全工程を直接担当します。事務員や若手弁護士が代わりに対応することはありません。
外国人事件に精通した中国語専属通訳が常駐しており、捜査機関が手配する通訳とは別に、依頼者ご本人のために動く立場の通訳を利用していただけます。取調べで何を話したのか、入管で何を聞かれているのかを正確に把握できる体制です。刑事手続が終わった後の在留資格の更新・変更等については、提携する行政書士とワンストップで対応します。
- 難関とされた在留特別許可を1回の手続で獲得した事例。観光目的で来日した相談者が日本人女性との間に子を授かったものの、在留資格を失い不法滞在で逮捕・起訴された事案です。婚姻と認知の手続が未了で当局から一旦不受理とされたところ、松村弁護士が憲法的な観点から当局と交渉して婚姻・認知を成立させ、入管法違反の刑事裁判を意識した被告人質問・証人尋問を行いました。国籍国発行の公的書類がほとんど存在しない困難な状況下でも有利な証拠を集め、入管当局の過去の許可事例を分析することで、1回の手続で在留特別許可を得ました。
- 強制退去の危機にあった女性を救済した事例。冤罪により不法就労助長罪に問われ、強制退去の危機に瀕した女性の事案です。「退去強制事由には故意・過失を要しない」とされてきた従来の実務に対し、責任主義の射程を問う訴訟を提起して上訴審まで争いました。その後、入管から在留特別許可が認められました。
初回のご相談は無料です。費用は事案に応じてお見積りします。まずは現在の状況を整理するところから、一緒に始めさせてください。
おわりに
実習先を離れた状態が続いていると、時間が経つほど不利な要素が積み重なっていきます。しかし、その一つひとつには反論や説明の余地があり、自ら出頭したという事実は評価される要素として制度上位置付けられています。実習先での賃金未払いや暴力があった場合には、なぜ離れざるを得なかったのかを裏付ける材料にもなります。今どの段階にいるのか、日本に残る道が現実的に検討できる事案なのか、それとも早期の出国を選んだうえで再入国の可能性を残す方が良いのか。この判断は、事情を全部お聞きしないとできません。出頭を決める前に、一度ご相談ください。当事務所では中国語の通訳を用意して対応しています。
なお、本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。また、ここで紹介した過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではありません。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。
覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
お問い合わせ
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
この記事の他の言語版
----------------------------------------------------------------------
舟渡国際法律事務所
住所 : 東京都豊島区高田3丁目4-10布施ビル本館3階
電話番号 :050-7587-4639
東京にて中国人の方をサポート
東京を中心に刑事事件の弁護
東京にて行政事件に関する対応
----------------------------------------------------------------------